第二話


「んー?中々泣き止まないわね……やっぱりサリエルの高い高いが怖かった?」


 出産直後とは思えない程に元気な声で、ララが赤ん坊ーーセントと呼ばれていたかーーに話しかける。


(い、いやいやそういう問題じゃないでしょ……!ここ何処ってか俺何してんのよ!?)


自分がどこにいるかもわからない。何より視界が狭い、かろうじて女性の顔が見える程度だ。声も出ず、体も思ったように動かせない。

恐怖と混乱が抑えられない。


「あ、あれ?さっきより酷く泣き始めちゃったじゃない!サリエル、どうすればいいの?」


「落ち着いて、ララ。セントとちゃんと目を合わせて、挨拶しよう」


「そ、そうね。何事も落ち着きが大事だわ」


 女性の顔が近づいてくる。うっすらと見えるその顔は、見た事も無い程に整っていた。

そうして、目が合わされる。

未だに恐怖感は消えないが、その女性の、吸い込まれるようなルビー色の瞳を見た瞬間。

何故か、小さな、しかし絶対的な安心感があった。

混乱、不安、疑問。無くなってはいないが、それら全てをと思わせてくれるような、温かい気持ち。


泣き止んだ赤ん坊に、パァ、と花が咲く様に笑った女性が、ゆっくりと口を開いて言った。


「あなたの名前は、セント・ユーラス。私、ララ・ユーラスと」


「僕、サリエル・ユーラスの、大事な、大事な息子だよ」


二人の静かだがしっかりとした声で、ようやく感情が落ち着いてくる。


(……息子?俺が?そんなわけーー)


そこで、まるで写真のように、頭の中で何枚もの情報が思い浮かんできた。


(待てよ、俺は買い物帰りで、道を歩いてたら、後ろから衝撃があってーー血だ。俺は自分の血を見て、そこから記憶が無い。あれ俺もしかして死んだ?通り魔?)


「セント?」


女性が話しかけてきているが、今はそれどころではない。


(マジで通り魔って存在するんだな……まぁそれはそれとして。今の状況だな?俺の目の前には、父母を名乗る男女。そして俺は赤ん坊……だよな。転生?転生しちゃった?流行の転生モノ?)


だいぶ軽い。死んで転生した、となっても現実味がないのは解らないでもないが。


(セント、って言ってたな……俺の新しい名前、セント、セント・ユーラス。悪くない……のか?それにーー)


 こちらを心配そうに見る男女を確認する。

母親であろう女性、ララ・ユーラス。

前世では有り得ない程に整った顔立ち。ルビー色に輝く瞳に、絹の様な白い髪。

父親であろう男性、サリエル・ユーラス。

これまた見たことの無い程に整った顔。ララと同じ白髪に、すらりと高い身長。

セントは歓喜した。


(この二人が親なら俺はどうなるんだ?勝ち組決定だな……)


「サリエル?セントが泣き止んだと思ったら凄い真顔よ。どうすればいいの?」


「っふふ……いや、僕にも解らないけど……面白いな、赤子の真顔は」


いきなり心配されているが。


(別に前世に未練があるわけでもない……というかあんな人生終わってくれて万々歳だ。この人生では、素直に、人を騙さず、真っ直ぐに生きていこう。両親もいい人っぽいし)


考えながら、精一杯笑顔を作る。赤ん坊の体というものは非常に動かしづらい。

それでも家族サービスは大事なのだ。意味は少し違うかもしれないが。


「あ、見てサリエル!セントが笑ったわ!」


「うん、すごく可愛いな。天使みたいだ」


親バカか。


(ちょろい……にしても、この体じゃ何にもできないな。しゃーないんだが、まぁゆっくり赤ん坊ライフ満喫しますか。ついでに少しでもこの世界の情報が欲しいしな)





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