雰囲気だけで生き残れ

雰囲気

第一話 


 一度、人生を経験した者が、その記憶を持ったまま再び人として生まれる事が出来たら。

その人生で得た知識は、何にも勝る武器になるだろう。

たとえ一度目の人生が、最低のものだったとしても。






クイーラ王国王都。

まだ厳しい寒さが残るこの時期だが、降り注ぐ日差しは暖かい。


クイーラ王国王都には様々な国の商人が、我が国の商品を売ろうと、毎日数えきれない程にやってくる。

露店形式で商品を並べる者もいれば、金を積んで店を出す者もいる。

どちらにせよ。このクイーラ王国で売れる商品ならば、この世界どこの国に行っても売れる物なのだ。

今日も、クイーラの王都は、活気溢れていた。



 そんな賑やかな王都から少し離れた一角。

先程の場所とは違って、同じ王都とは思えない程に落ち着いた場所だ。

そんな場所に建っている、一つの屋敷。立派だが、趣味の悪い貴族の屋敷のように、ごてごてとした装飾は一切無い。

黒を基準にした色合いは、この街の雰囲気に合った、静かなイメージを抱かせる。


 その屋敷でーー今、一つの小さな命が誕生していた。

うああ、と元気な産声をあげる、小さな赤ん坊。ありきたりな例えになってしまうが、しわくちゃな顔は猿の様で、非常に愛らしい。

そんな赤ん坊を、いきなり2メートル近い高さまで、高い高いをする男性がいた。


「元気な泣き声だ……!私が君のお父様だよ」


声が震えているのは感動のせいか。ついでに腕も震えている、非常に心配だ。

赤ん坊を落とせばここでこの物語は終了である。


「ちょっとサリエル!生まれたばかりの子に何をしているの!?そんなに高く上げたら危ないし怖がっちゃうでしょ!」


ベットに横たわっている女性が言う。


「あぁ、そうだね、ごめん……あんまり嬉しくて。しかし、ララ。どんなに大声を出して大丈夫なのかい?」


大声を出させたのは誰なのか。

幼児用の、小さなベットにそっと泣き止まない赤ん坊を寝かせながら、苦笑いでララと呼ばれる女性の方を見る。


「大丈夫よ、このララ様が出産程度で弱るわけないじゃない」


涙目なのは言わないほうが良いだろう。


「でもララ、泣いていたよね?今も涙目だよね?」


「うるさいわね!嬉し泣きに決まってるでしょ!」


「サリエル様、ララ様、あまり大声を出すと、この子が怖がってしまいますよ」


出産を手助けしてくれた、街の医者の女性の言葉に何も言えず、二人は口を閉じた。

赤ん坊は、未だに泣き続けている。

そんな赤ん坊を、ララは愛おしそうに、優しく撫でた。

そして、先程とは違う、一人の母親として、穏やかな声で。


「私達の所に生まれてきてくれて、ありがとうーーセント」


祝福されし子供、降り注ぐ日差しの様な、暖かい時間だった。







(えええええここ何処!喋れない!動けない!なんだこれ!?)


赤ん坊が泣き止まない理由などーー知る由もない。


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