短編芋

三時庭

真夜中ラジオ

「番組に届いたお便りを紹介したいと思います――」

 自分の書いたハガキが読まれたと分かると、彼女は思わず感涙し始めた。

 

夕立が上がった夜だった。同じ新聞部の先輩から、

「大学近くのあの下宿、幽霊が出るらしい。」

と噂話を聞いたのだ。雨上がりのひんやりとした空気のせいか、里子の持ち前の好奇心のせいか、とにかく、その下宿に取材することに決めた。

 暑い夏のある日、大家に掛け合うとすんなり取材許可が下り、その部屋を覗くと壁にはぎっしりお札が貼ってあったのだった。そして、静まり返った午前2時、部屋のラジオがいきなり電波を受信し始める。うつらうつらとまどろんでいた里子はハッと目を覚まし、ラジオのほうに目をやると、その近くで黒髪の若い女がじっと正座をしていた。これが噂の幽霊。パーソナリティが番組に届いたお便りを読むと、うんうんと頷きながら澄まし、笑いどころではしっかりと手を叩きながら笑っていた。しかし、どれほど笑っても彼女の肉声は聞こえない。もちろん、幽霊だから仕方がないのだろうけど、里子は耳を傾けることしかできない彼女を可哀想だと思った。

 次の夜、里子がハガキとペンを机に置くと、彼女は嬉しそうに番組にお便りを書いた。ペンを握る手は貝殻のように白く、同性の私が見惚れてしまうほど美しい顔立ちをしている。彼女は青春を知っていたのだろうか。若くして亡くなったのならば、彼女にとってラジオが唯一の青春なのだろう。

 こうして、声なき者の言葉が見えないパーソナリティの声によって、東京中のラジオを駆け巡った。後日、下宿に届いた景品の番組ステッカーを、お札の上から壁に貼ると幽霊は、ぱったり出なくなったそうだ。

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短編芋 三時庭 @3i00kiwo

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