31 雪山で一人になって全裸になる男
先生は私の頭を指差したっけ。
「この中に、だ」
先生の言っていた言葉を、ふと思い出した。先生はよく言うのだ。
「小説家は人生の全てを使って書いている。それは技術ではない。技術だけで表現出来る代物ではない。だからこそ、人生こそが相応しい。小説家は自分の人生を使って構築された魂によって描かれる。それ故に小説家は小説の中で嘘をつけない。魂の本質的な、最も奥深い所にある故に、小説家は嘘をつけない」
気が付けば、私は二作目の短編を書いていた。時間が過ぎるのは早い。いや、時間が早いのではなく、私が遅すぎるのか。加速したかのように見えて、実は止まっていたのか。電車の中で走って、早くなったかのように見えただけだったのか。
しばらく私は呆然としていた。脳が高速でフル回転したので休憩を求めた。
パソコンで言うと熱が上がり過ぎたのだ。だから、冷やさなくてはいけない。私はクルクル回るプロペラを眺め、脳を休ませた。
赤ん坊の頃、あのように回転するオモチャを眺めていた気がする。私は、寝るときは赤ん坊のように裸になる。
私は昔に戻りたいのか。昔に戻って、ただ育成されるだけの存在になりたいのか。
ノートパソコンを終了させて、閉じた。外を見ると空はまだ夕焼けに染まっていない。まだ時間は十四時くらいだった。椅子から立ち上がり、背伸びをした。
外に出掛けよう。ふと思った。
今まで忘れていたが、私は外出を好む女だ。ずっと家にいると、関節が痛くなると言うか、心が締め付けられる思いになる。
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