28 雪山で一人になって全裸になる男

『2』


 朝食の準備は私がする。夕食も、その前の昼食も、私がする。

 私が打ち合わせで出掛けるときは、先生が勝手に缶詰を開けたりして済ませる。先生が外に出るときは、勝手にどこかの店で食事をする。

 最初は先生の食事を用意するのが、嬉しかった。まるで夫婦のようだと思えたからだ。

 でも、そこには愛などなかった。私はただの弟子――いや雑用をこなす人間でしかなくて、もしくは愛玩道具でしかなくて――私は先生に人として見てもらえかった。

 シャワーを浴び、体をバスタオルで拭き、下着を履く。服を着る。

 リビングルームのテーブルにある適当な果物を取って食べた。私は朝食をあまり摂取しない人間なので、バナナ一本程度あれば事足りる。問題なのは先生だ。先生は朝からステーキも食える人なので、支度に手間が掛かる。

 ソファーに座り、しばらくくつろぎ、八時くらいになると私は支度を始めた。米の準備は時間が掛かる。それが終わると、また少し休み、三十分前くらいに料理に掛かった。先生は私の卵料理を気に入ってくれたので、よくオムライスを作る。今日もそれにしよう。先生は一ヶ月全部オムライスでもいいと言っていたほどだ。

 朝食の準備が終わると、先生を呼びに行った。先生は先ほど間違えて起こしたのを忘れて、また死んだように眠っていた。心臓に耳を澄ませば、無音が聞こえそうだ。

「ああ……朝か」

「はい、朝食の準備が終わりました」

 先生はまた突然目を開く。起き上がる。スピーカーからのアナウンスを聞くかのように、私の言葉を聞き、部屋を出る。私は後から出る。

 皿を二つか三つほど並べた朝食を食べ終えると、何も言わずに部屋を出た。部屋に戻って下着を取り、シャワーにでも浴びに行くようだ。

 私は空になった食器を洗う。先生が「おいしかった」とも言わない料理だったが、先生の執筆には必要なエネルギーだったのだろう。そう思い込むことにした。

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