27 「ん?」
そこで、違和感を覚えて小説を一旦終えた。今度は日記の方のノートを手に取ってみた。
『一九●●年八月十日。
先生と話すのは楽しい。私よりも長く生きているので、知識が豊富だ。何でそんな大切なことを私は知らなかったのと、自分が嫌になる。
先生はコーヒーを煎れるのがうまかった。
重度のコーヒー中毒らしい。豆の具合や、ブレンドの量、器具の調子などをいつも気にしていた。
鈴野千香』
やはり、僕が小説を見て感じたものが分かった。
日記には、本当のことが書かれていない。
いや正確には本当のことを脚色したんだろう。まるで幸せな生活があるかのように、彼女は虚無の世界を虚構で塗りつぶした。だからこその、あの小説だ。あの小説は、小説ではない。本当の日記なんだ。そして、この日記こそが本当の小説なんだ。
『一九●●年十月二十一日。
寒くなり始めた。先生は暑いのも寒いのも苦手で、すぐに機械の助けを借りる。私はエアコンや、石油のニオイがダメだったりするけど、我慢する。
たったそれだけの言葉で、何かが崩れそうな気がするから。
この幸せを、私は守りたい。
鈴野千香』
何が幸せだったのだろう。
ここで見た彼女の幻は、いつだって悲しそうだった。悲劇だったじゃないか。
もう一度、小説と書かれたノートを開く。
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