26 雪山で一人になって全裸になる男
先生が、バスタオル一枚でそばにいた私を見て何も思わなかったのは、どうしてだろうと考える。女としての魅力がないのか。それとも私に興味がないのか。人間に興味がないのか。人間に興味がないのなら私はどうすればいいのか。女として興味がないなら、私に興味がないのなら――嫌なことを考える。
シャワーを浴びる。
円の中に集まった小さい穴からぬるいお湯が流れる。冷たくもなければ温かくもない。今は夏の朝だから、これで丁度良い。乾いた体が水分を吸い、潤いを取り戻す。私は洗顔料もないのに、顔を両手で覆う。油がこぼれ落ちるのを感じたのだろう。少しでもぬる湯の味方になればと、手を差し伸べたに違いない。
長くなってしまった黒髪に指を入れ、髪の先端まで指を通す。流す。髪の奥の奥まで、水を注入する。
しばらくの間、シャワーに身を任せた。ぬる湯は下手な男より私を洗い流してくれる。唾液で汚れた肌も、男の感触も全て排水溝に流してくれる。
風呂場から出て、白いバスタオルで体を拭く。洗面台には、また裸の私が映っていた。感じの悪い切れ目の私が私を睨みつける。
ふと、鏡の私は唇に指を当てていた。
感触は柔らかい。
触れれば、解けてしまいそうなほど柔らかい。
気が付くと、私は泣いていた。何の予兆もなく、汗のように静かに涙は一筋落ちた。両手で体を抱きしめる。それでも悲しみは消せない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます