24 雪山で一人になって全裸になる男

 彼が私を抱く夜は不定期だ。

 私が小説を書いてるのも構わずに乗り込むときもあれば、一週間くらい何もしないときもある。自分の欲望に忠実な犬。私はそれよりも忠実な犬で、彼がシッポを振れば自ら尻を出す。

 自分でも馬鹿だと思う。弟子という立場よりも愛玩道具という名称の方が、今の私には相応しい。しかし、それでも私は荷物をまとめてここを立ち去る決意はない。持っていない。

 一度、彼に聞いたことがある。

「私と小説、どっちが大切ですか?」「小説」

 迷わず、彼は言った。

「小説に勝つものはあるんですか?」「ない」

 彼の中の優先順位で、小説に打ち勝つものは存在しない。だから、私なんかが入れる余地がない。きっと、この世の酸素がなくなっても彼は小説を選ぶ。私が酸素以上になれるはずないのに、どうして彼を繋ぎ止めることが出来る。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る