少女と俺の、学校デビュー
第8話 ルシィと学校
ルシィが通うことになった
小・中一貫学校ってやつだね。
6才の春から小学1年生、15才の春に中学校3年生を卒業するまでここで学ぶんだって。
この辺は日本の義務教育システムと変わらないかな。
ちなみにルシィは8才だから2学年に編入。でも次の春を迎えればすぐに小学3年生だ。
ルシィの2年生教室を担当するのはイヴェットていう40歳くらいでちょっとふくよかな女の先生。
「一学年は5人から、多くて15人くらいの小さな学校です」
教員室で先生がルシィとお母さんに説明してくれた。
一通り学校の事を説明しおわったら、さて。
「リュシル、今からあなたの学び舎に案内するわ。ついてらっしゃい」
「はい!」
「元気でいい子ね」
ニコリと笑うイヴェット先生はさすが教職者っていう感じの堂々っぷり。
いいね、すごく頼りになる。
「お母様はここまででよろしいですか」
「わかりました。ルシィ、しっかり勉強なさい」
「うん!」
と、いう感じでお母さんに背中を見送られて、いざ学校デビュー。
ざわざわと騒がしい2年生の教室も、先生とルシィが入ってきたらシーンと静まった。
視線が集まるルシィはもう、垂直不動の姿勢、カチンコチン。
「リュシル=タラバルドンよ。今まで病気で学校に来れなかったけど、良くなったから今日からみんなと一緒に勉強することになったの。仲良くしてね」
「リュシルです。お母さんやお兄ちゃんはあたしのことをルシィっていいます。よろしくおねがいします」
先生の紹介の後、頭をさげたルシィに10人の拍手が迎えてくれた。
ルシィを入れて11人目になる小さな教室。
「リュシル、あなたの席はあそこの窓側の席よ」
「はい!」
元気よく返事して、机の間を抜ける。
「はじめましてリュシル。私はロマーヌよ。ロマーヌ=ブノワ」
「よろしくロマーヌ。あたしのことはルシィって呼んでほしいな」
「わかったわ、ルシィ」
ルシィの隣の席のロマーヌはお澄まし顔だけど、ちゃんと挨拶ができるあたり、しっかりと躾ができてるね。
カールしたブロンドロングヘアがしっかりと手入れされていて、いいところのお嬢さんかなあって見える。
「僕はダミアン=カンポ。よろしくね、ルシィ」
「よろしくダミアン。ここは日当たりのいい席ね」
8才にしては少し背が高いかな、と思えるダミアンはルシィの後ろに座る男の子。
赤毛で黒縁メガネをかけている。真面目そうな子。
「私はノエル=ブルデーよ。ノエルって呼んで」
「よろしくノエル。今日はいい天気ね」
ルシィの前に座るのはノエル。
黒髪で細い目、まっすぐ通った鼻筋。少し東洋系の顔つきに近いかも。
その後も次々とクラスメイトから挨拶されて、笑顔を交えながら無難に挨拶をするルシィ。
えらい、えらい。
土曜日に外出用の洋服を、日曜日に弁当箱と文房具を買い揃えた。
もちろん鉛筆もいっぱい買い込んだ。
そして日曜の夜、ルシィは自己紹介の練習をした。
どんな挨拶をすればいいのか俺と相談して、お母さん、お兄ちゃんを相手に練習した。
その甲斐があったんじゃないかな?
緊張してちょっとぎこちない笑顔もあったけど、みんな迎えてくれたと思う。
『練習どおりにできたね』
「うん、よかった」
「……?」
「あ、なんでもない」
ごめん。ポケットにいる俺がちょっと調子に乗っちゃった。
ひとりごとを話すルシィに、ノエルが怪訝そうに振り返った。
教室は3列、3人づつ並んでいて、最後は2人、ていう感じの机順。
ルシィは2列目の、日当たりのいい窓側の席だ。
ルシィはそれまでお母さんから基本的な読み書きとか算数の勉強だけしていたから、他のみんなとは少し勉強が遅れていた。
でも前世の、大人の記憶を持つ俺がいるからね。ルシィにつきっきりの家庭教師役ですよ。
授業で分からない所があればそっとささやいて、ヒントを出してあげたりね。
ルシィも勘がいいのかな、ヒントがあればすぐに答えを出せるみたいだ。
まあ、俺がこうしてルシィの勉強に付き合う理由が一つあって、やっぱりこの世界のことを知りたかったから。
周りの環境、人間、あらゆるものが俺の前世の、中世の頃とよく似ている。
地球と何か共通点があるのかな、と気になっていたんだ。
そしてようやくチャンスが巡ってきた。
それは社会の勉強。
授業になって世界地図とコガリア共和国、ダントンの街の地図が黒板に貼りだされた。
その地図を見て確信した。いや確定です。
ここは地球じゃなかった。
もちろん中世の世界だから測量技術も十分じゃないだろうし、地図は不完全だと思うけど。
でもどこからどう見ても、ひっくり返しても地球の大陸図とは全く違う。
似ている所が一つもない。というか、テレビゲームの世界地図を見ているような気分になってくる。
うん。別世界だってことが分かったから、だいぶすっきりした。
だから俺は、世界のことなんか気にすることなく、ルシィのために鉛筆人生を全うしようって決めたんだ。
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