第3話 少女の家族と、この世界のこと

 俺を買ってくれたのはセブラン=タラバルドンっていう10歳の男の子だ。

 ルシィのお兄ちゃん。たまにセビーって呼ばれている。


 性格はわりとあっさりとしている。

 お母さんとのキスを時々嫌がる素振りも見せるかな。そういうお年頃なのかねえ。

 あとは、家にいる時はよく本を読んでいる。


 外見なんだけど、ぶっちゃけ、ルシィと全然似てない。

 まず髪の色が濃くて、赤毛に近い。

 二重まぶたっていうのは共通しているんだけど、どちらかと言うと眠そうな目をしてる。

 顔にはそばかすがあって、眉毛の形はアーチ状。鼻が少し大きくて、長さは普通。

 ルシィちゃんほどすっと通ってるっていう感じじゃない。

 鷲鼻?段鼻って言うのかな?あれだと思う。


 まあここだけの話、多分血がつながってないよね。この兄妹。


 でも性格はすごくいいやつ。

 兄として、妹の事をしっかりと面倒見てやろうっていう責任感があるんだなあ、ってよく分かる。

 時々勉強を教えてあげるのは勿論のこと、学校から帰ってくると、学校の様子を話すんだ。

 ルシィもそれに目をキラキラと輝かせて喜ぶんだ。



 そしてこの兄妹のお母さんはミシュリーヌ=タラバルドン。32歳だって。

 髪の色はこれも濃い。

 どちらかと言うとかなり黒に近い。でも日本人ほどじゃないかな。


 顔はもう、お兄ちゃんとそっくりだ。

 眠そうな二重まぶたに、アーチ状の眉毛。

 鼻だけは少し小さくて、ルシィの鼻の形とちょっと似てるのかも。


 まあなんていうか、あんまり言い難い話なのかもしれないけど、ルシィはこのミシュリーヌさんに拾われた子なのかなあ、って思う。

 遠い血縁関係があったのか、戦争孤児なのか……な?


 実はその辺りの事をなんとなくルシィに聞いてみたんだよね。


『ルシィもどこか遠い所から来たの?』

「ううん。ずっとこの家にいたよ。どうして?」

『あ、いや。ルシィはどうして俺と喋れるのかなあって』

「ねー。不思議だよねえ」

『ねー』


 推測なんだけど、赤ちゃんの頃にミシュリーヌ夫人が預かって、セブラン君と一緒に育ててきたんだと思う。

 ちなみにお父さんはいないんだ。残念ながら。

 一年前に戦争で死んじゃったんだって。

 今は国が”死んだお父さんのお見舞金”っていうのを毎月払ってくれていて、それで暮らしているんだって。

 いくらくらいのお金かは分からないけど、お母さん曰く、


「あなたたちが独り立ちするくらいまでは大丈夫よ」


 だって。

 でも決して裕福な生活にも見えないから、そんなにいっぱいお金をもらっていないと思う。

 昼間にルシィを家に一人残して、時々仕事に出掛けるんだ。

 ルシィが聞いた所によると「やくばのそうじかかり」だって。パートタイムの役場の清掃スタッフ、って所かね。


 そしてこの世界のこと。

 俺はルシィとしか喋れなくて、ルシィも世の中のことをよくわかってないから、かなりざっくりとした知識でしか説明できないだよね。

 ルシィが住んでいる国は「コガリアきょうわこく」という国らしい。

 コガリア共和国だな、きっと。

 コガリア共和国は、ルシィが生まれる前から「ベルボルドていこく」という国と戦争しているらしい。

 つまりはコガリア共和国とベルボルド帝国は少なくとも8年以上もの長期にわたって戦争してるってことだ。


 ルシィの家族が住んでいるこの街はダントン、と言うらしい。

 ここからずーっとずーっと遠くに離れた所、帝国との国境で毎日毎日喧嘩しているそうな。

 ザックリとしすぎてよく分からないんだけど、まあ8歳の認識じゃあこの程度だよ。仕方ない。

 とりあえずこの街まで戦火が及んでいないっていうのは確かみたい。


 うーん。この世界のことをもっと知るためには新聞か何かあればいいんだけどなあ。

 地図が見たい。

 ここがどれくらい地球と共通点があるのか、ちょっと気になっている。

 でもこの家には新聞がないのよ。


 じゃあどうやって世間のことを知っているかって言うと、お母さんが買い物に出かけて井戸端会議でおしゃべりして、その情報が晩ごはんとかの席で共有される、と。

 そういう仕組みたい。

 いやあ、中世だねえ。


「おやすみ、えんぴつさん」

『おやすみ、ルシィ』


 お兄ちゃんやお母さんの前で堂々としゃべるわけにはいかないから、俺とルシィの会話はいつも小声。

 毛布をかぶってナイショ話をするようになった。

 今日は月灯りが差し込む子供部屋。


 あ。あの満月の模様、前世で見た月と結構似てる気がする。

 あれ? ここって地球なの?

 そんなことを考えつつ、美少女の寝顔と添い寝しながら、ぼんやりと過ごす日々。

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