第2話 少女のこと
俺、前世は人間。
何故か鉛筆に転生。
魂が宿ってると言っても所詮、鉛筆なんで。
自分で動くことができず、何もするわけでもなくボーッとしてたら男の子に買われて、その妹の手に渡りました。
しかもなんと、その妹ちゃんは俺と会話できるのです。
いや、すげぇな。妹ちゃん。
妹ちゃんの名前はリュシル=タラバルドンと言って、8歳の女の子だ。
今までルシィちゃんて呼んでたけど、正しくはリュシルちゃんなのね。ルシィは愛称みたいだ。
で、外見はって言うと、なんというか陶器の人形みたいな色白の肌なんだよね。
昨日初めて見た時はそんなに気にしなかったし、そもそも日が暮れていたからよく分からなかったんだけど、ちょっと普通じゃない色白さっていうのかなあ。色素が薄いんだよね。
髪の色は白に近いブロンド。白髪じゃないのは確か。
目はエメラルドグリーンかな。うっすら緑色の瞳がすごく綺麗。
そしてなんと言っても、顔の作りがすごく整ってる。
キリッとまっすぐな眉毛、少し大きめの、二重まぶたの目、まっすぐに通った鼻。
美少女オブ美少女。超可愛いぞ、この子。
いや、さらに言ってしまうと、この美少女に対して性的な欲望を抱いてはいけないんじゃないかな、と思わせてしまう、何かオーラみたいなのを感じるんだよね。神秘的な雰囲気がある。
この女の子は妖精さんです、って言われても普通に納得しちゃうと思う。
きっとこのまま大人になったら、とんでもない美人になるんじゃないかなあ。
でも8歳なんでね。
ピュアな女の子なんですよ。
「ねえ、えんぴつさんはどこから来たの?」
『うーん……実は分からないんだよね。遠い世界かなあ。少なくともこの世界じゃないと思う』
「そうなんだあ。どこから来たんだろうねえ」
ちょっとおっとりとした性格で、口調もちょっとのんびり。
俺はロリコン趣味はなかったけど、可愛いなあこの子、と思う。
まあ俺じゃなくてもこの女の子を見たら、老若男女問わず「可愛い~!」て思うはず。
というか、この子は鉛筆と会話できる、ということに何一つ疑問を感じていない。
純粋無垢とはこのことではなかろうか。俺の常識では計れない何かがあるんだよね、この子。
そして朝になるとお兄ちゃんは元気よくお出かけするんだ。
「行ってきまーす!」
「いってらっしゃい」
「いってらっしゃあい」
どっこい、昼間になってもルシィは外に出ないんだよね。
あれ。どうしちゃったんだろう。
『ルシィのお兄さんは今どこにいるの?』
「学校だよ」
『ルシィは学校に行かないの?』
「行きたいけど……外に出ちゃうとすぐにお咳がコホンコホンって出ちゃうの」
病弱、か。
美人薄命ってやつなのかなあ。
『そっか、残念だね』
「うん……。学校に行けないから、あたしにはお友達がいないの。……寂しいの」
ルシィのつぶらな瞳にじわっとにじむ涙。
これは泣かしちゃダメだろう。
『じゃあさ、俺が友達になってあげるよ』
「ほんと!?」
『うん、ほんとほんと』
「やったあ」
ニコニコって演出音が出てるんじゃないかなと思うくらい、笑顔が本当に可愛い。
守ってあげたい、この笑顔。
で、学校に行けないルシィは仕方なく家で勉強する毎日。
教科書は学校のみんなと同じで、教師役はお母さんと時々お兄ちゃん。
そしてルシィはかなりの頑張り屋さんで鉛筆の消費が結構激しい。
で、あの文房具屋さんでよく鉛筆を買っていくのがお兄ちゃんの役割。
そうか。それでようやく俺にも出番が回ってきたわけね。
『さあ、存分に使いなよ』
「え、ヤだ。使ったら消えて無くならない?」
うん、ですよね。
俺もそう思う。
いくら魂が宿ってるからと言っても、消費されたら鉛筆人生もそこで終わりだと思う。
でも、俺は鉛筆だし、鉛筆は使ってなんぼのもんじゃない?
と思ったんだけどね。
「えんぴつはもう一本あるから」
もう一本の鉛筆を使うんだって。
それからって言うと、俺の定位置はルシィの手元か、スカートに小さなポケットがあって、そこにしまわれる事になった。
俺の外見は本当にただの普通の鉛筆みたいなんだ。
石墨と粘土を混ぜて押し固めて細く伸ばした芯。木で挟んだだけの茶色い鉛筆。
ただルシィだけは、ただの鉛筆じゃない何かを感じる事が出来て、意識を集中させると俺の言葉が聞こえるんだって。
っていうか本当にすごいな。ルシィ。
まあ俺にとっては鉛筆に転生、という奇特すぎる人生(筆生?)も少しは華やいだし、ついでにようやく話し相手が見つかったわけだから、まあありがたいことだね。
あ、ちなみにルシィ曰く、会話が出来る鉛筆は、俺が初めてらしい。
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