いざ!カンキョハカーイ本部へ!!

 アモルフォファラス ティタムのダメージ(身体に付着した悪臭)から復活した桜花と白雪は、桜花の自宅にみんなを呼び出した。

「何の用事か解らないけど、お休み明けに学校で話しても良かったのら~」

 桜花の部屋なのに出された飲み物がビールじゃなく、普通のお茶だった事でガッカリした紅葉は帰りたいオーラを充満させる。

「ふ~…ともあれ復活おめ、だな。ってか、何で、んな怖いツラしてんの?」

 月夜が桜花の表情を『私の部屋をタバコ臭くすんなクズ!!』と読み、慌てタバコの火を消す。

「休学中に桜花と話して決めたんですの。みんな、申し訳ないけど、桜花の話を聞いてください」

 白雪が真剣な顔でみんなを見る。何か今までと雰囲気が違う。

「話して下さいな」

「…ブツブツ…今更…死ねと言われても驚かないわ…ブツブツ…」

 シンと静まってから改めて桜花が口を開く。

「これ以上休学は勘弁だぜ。どうせならダメージ少ない方がマシだ。チョコチョコ向かって来られても臭い思いするのが延びるだけだ。こっちから出向いて、奴等をぶっ潰してやろうじゃねーか!!」

 桜花の眼光が鋭くみんなを捉えた!

「…確かに埒が開かねーがよ…敵陣に乗り込むには情報少なくねーか?」

 一斉に視線を注がせられる梅雨。得意気に髪をファッサーと掻き上げる。

「以前皆さんに仰った通りですわ。城の出入り口は知っていますし、部屋もあらかた把握はしています。が、戦力はハッキリ言って不明ですわ。惑星ドリームアイランドから無限に補充できる筈ですからね」

 梅雨は以前、桜花達に敵の情報を全て吐いたのだ。言わなければハブにされて孤立する…自らの身を案じての行動だったのだ。

 故に説得力が桁違いだったのだ!!

「まぁいいよ。流石にお前等にもついて来いとは言えねぇからな。私に任せて吉報待ってろよ」

 ニコヤカに言う桜花だが、その言葉にみんなが目を剥いた。

「まさか一人で行くつもりなのら!?」

「私が止めなければ、昨日行ってたですの…」

 溜め息をつく白雪…昨日一人で行くと言ったのを、電話で必死に止めたのを思い出していた。

「お前、流石に洒落なんねーだろソレよ?」

「一人は流石にマズいのら!」

 必死になって止めるも、桜花の耳には入らない。

「だぁから!お前等はいいっつーの!全て私に任しとけ!もう臭ぇ匂いとはおさらばしてぇんだよ!!」

 アモルフォファラス ティタムだけでは無く、不快指数MAX放っていた桜花には、あの匂いはもはや限界だった。

 どうせ放たねばならないなら、一度で全て終わらせよう。

 それが桜花を短絡的な行動に追いやったのだ。

「…ブツブツ…仕方ないわ…ブツブツ…私も一緒に死んであげるわ桜花…ブツブツ…」

 スックと立った珊瑚は、桜花の横に座り直す。

「死んであげるわってオメーよ…死なねぇよっ!!ぶっ倒しに行くだけだよっ!!」

 突っ込む桜花だが、実は結構嬉しかったのか、口元が緩んでいた。

「…しっかたないのら~…もう壊せないなら一気に壊してスッキリするのら~」

 紅葉は頭を掻きながら、目を瞑り、眉根を寄せて桜花の横に座る。

「壊すったって…オメーハンパな数じゃねーだろうよ」

 どれだけの戦力があるかは解らないが、敵はハンパではない数かもしれないのだ。

「まぁ、私は昨日話を聞いた時点で共に戦う事を決めていたですの」

 白雪も立ち上り、桜花の後ろに座り直す。

「オメーは本当は来て欲しくないんだが…」

 遠慮や気遣いを見せずに本音を漏らす桜花。

「チッ、しゃーねーな。確かに一気に殲滅も選択の一つだからなー」

 月夜も覚悟を決めたように、桜花の後ろに座った。

「お前等…マジで知らねーぞ!!」

 熱いモノが込み上げてくる桜花。目頭も熱くなってくる。皆一致団結し、敵陣に乗り込む!まさかこんな展開になるとは思ってもみなかったのだ。

「よし!行くぜお前等!!一気にぶっ倒してそれで終いだ!!」

 桜花の号令で皆立ち上がる。

「ちょ!ちょっと待って!!私は?」

 まだ決めかねている梅雨はオドオドしている。

「ああ。好きにしな。私達と一緒に来てもよし。残ってもよし。そして……寝返って私達にやられてもよし!!」

 桜花の本気の眼光にビビった梅雨は、思わず立ち上がって桜花の側にイソイソと近付いた。


 梅雨に案内させてカンキョハカーイの本拠地に来たが…

「カンキョハカーイのクズ共の本拠地は空き地かよ…」

 何にもない、だだっ広い空き地だった。何処に本拠地があるのか?

「誰もここに立ち寄ってない筈ですわ。結界を張っていますからね」

 まっさらの空き地だが、そういや、気に留めた事もない。

「城って言っても何もないのら」

「見えないだけで、ありますわ」

 梅雨が空き地にツカツカと入って行ったかと思うと、みんなの目の前で消えた。

「何だ!?私達も行ってみようぜ!!」

 慌てて梅雨の後を追う桜花達。空き地に入った瞬間、『ブン!』と音が耳に入る。

「…ブツブツ…何?今の…ブツブツ…」

「あ、あれを見るですの!!」

 白雪が指差す先に、先程は見えなかったゴミの山が現れる。

「すげーな…ゴミ屋敷…ってかゴミの城かよ…」

 それは良く見ると、ヨーロッパで見られる古城にゴミ袋や廃棄物が山盛りに溢れ出していた物だった。その時、梅雨がゴミの影から姿を現す。

「ここがカンキョハカーイの本拠地ですわ。空き地から別の空間に直結している場所に城を建てているんですわ」

 成る程、敷地面積だけでも空き地を遥かに凌駕している広さだ。

「ふん、ゴミ屋敷ごとぶっ壊してやるぜクズ共」

 桜花が変身携帯を取り出と、みんなも釣られて変身携帯を出した。

「終わったら、たっぷりボーナス引っ張ってやらぁ!チェェンジぃ!!ラフレシアアン!!」

「…ブツブツ…こんなゴミ屋敷で死ぬのも私らしいわ…ブツブツ…チェンジ、ラフレシアン」

「クスクスクスクス…派手にぶっ壊してやるのら~チェェンジっ!ラフレシアンん!!」

「正義の為、今日で全てを終わらせるですの!チェンジィ!!ラフレシアンンン!!」

「あ~あ、憂さ晴らしも今日で終いかぁ~…チェィェンジ!!ラフレシアアン!!」

「私?私は?私は??ええっ?ええぃっ!チェィンジィ!ラフレシアンン!!」

 6人が6人とも戦う内容が違うが、とりあえず団結力はそこそこありそうだった。


【むう、何者かが侵入してきたな】

 玉座にて現世を伺っていたダイオキシンが異変に気付いた。

「私めが見て来ましょう」

 シーオーツーが槍申し出るも、ヘドロによって止められる。

「いや、入り口には確かカドミウムがいたはず。カドミウムに様子を見させよう」

 ヘドロは携帯を取り、カドミウムに連絡を入れた。

 プップップップップップッ…

『はいん?』

「カドミウムか?何者かが城へ侵入してきたらしい。少し様子を見て来てくれ」

『わかったわん。ちょっと待っててねん………………はあああああ!?ラ、ラララララ、ラフレシアンンンン!?』

 目を剥いたヘドロ!!

「ラフレシアンだと!?」

 ラフレシアン侵入の報に一気に緊張感が蔓延するカンキョハカーイの城内!!

【どこまでもナメりくさって小娘…全機害獣を配置!!戦闘員は直ぐ様入り口にて応戦!!急げ!!!】

 キレたダイオキシン!ヘドロもシーオーツーも配置に付くべく、走る!!

「はっはっ!!度胸だけは買ってやろうぜダイオキシン!!」

 愉快そうに笑うシーペスト。

【シーペスト、貴様も本気を出して応戦しろ!!】

 シーペストは手のひらを翳し、ダイオキシンの続く言葉を制した。

「解っているよ。決着を付けるのには好都合だ」

 笑うシーペストに少しビビったダイオキシン。シーペストはそのままダイオキシンの前から立ち去った。


「ラフレシアンが侵入してきたらしいが…」

「左様…全員配置に着けと言われても、某はどこに着けば良いのか…」

 デシベルとスイギンは城へ来てから、全くと言っていい程放置されていたので、このような事態になった時には動きようがなかったのだ。

「と、とりあえず某は三階の機害獣格納庫に…」

「で、では俺は四階の制御室へ…」

 全く適当に配置を決めて怒られないか、と懸念もあったが、怒られたら辞表を出して辞めればよい。

 元々そんなに待遇が良い訳ではなかった支部長達は、そうしてカンキョハカーイから立ち去って行ったのだ。

「組織の頂点が愚か過ぎだからのぅ…」

「経営能力も皆無だからな…」

 この戦いが終わったら辞めようと心に誓ったスイギンとデシベル。ダイオキシンは怖いが、ついていけなかったのだ。ただ強いだけでは組織は束ねられないのだ!!


 エストランスでは戦闘員と機害獣がラフレシアン達にボッコボコにされていた。

「オラオラオラオラ!死にてぇ奴は片っ端からかかってこいやクズ!!」

 硬鞭でメッチャクッチャにぶっ叩く桜花。

「飛ばし過ぎなのらチェリーブロッサム~クスクスクスクスクス…」

 クロスボウを乱射しまくってバッキバキに壊しまくる紅葉。

「チェリーブロッサムとレッドリーブスで殆どやっつけちまってるじゃねーかよ」

「…ブツブツ…この程度の敵じゃ死ねないわ…ブツブツ…」

「何故私は戦ってはダメなんですの!?」

 桜花と紅葉の活躍により半数以上の敵が倒されて、暇で暇でしょーがない月夜達だが、梅雨は一番後ろで様子を伺っていた。

(そのまま壊滅するのよー!!そうしたら私は…)

 何か腹黒い事を企んでいるようだが、誰も気が付いていない様子だ。

「あなた達ん!!これ以上はさせないわよん!!」

 エストランスから城内に入る入り口にカドミウムが立ち塞がる。

「おーキャバ女ぁ…テメーから最初にくたばるかクズ!!」

 睨み付けながらカドミウムに歩いていく桜花。

 その時!梅雨が桜花とカドミウムの間に割って入った!!

「待ちなさいチェリーブロッサム!みんなで固まって向かっても時間の無駄…ここは私に任せて先に進みなさい!!」

「レイニーシーズン!?最低な裏切り者が…」

「は?珍しいなレイニーシーズン?何企んでいるんだ?」

 全員が梅雨の行動を不審に思っている。何を企んでいるのだろう?と。

「私はこいつに因縁があるのです。こいつは私に任せて戴きたいですわ」

 珍しくやる気満々の梅雨。のように見えるが……

「別に構わねーけどよー…まぁいいか。頼んだぜレイニーシーズン。オラ、どけよキャバ女」

 桜花はカドミウムに蹴りを入れてぶっ飛ばして道を開けた。

「きゃんっ!!」

 目的通り、カドミウムは入り口から離された。

「先に行ってて下さいな。私も後から行きますわ」

 親指を立て、ラフレシアン達をエストランスから追い出した梅雨。

 何故やる気になっているか不思議で堪らなかったが、とりあえず桜花の後に続いた。

 みんなが出ていったのを確認して入り口の扉を閉じる梅雨…うっすらと笑みを浮かべている。

「あなた…一人で残って、何を企んでるのん?」

 ヨロヨロと立ち上がるカドミウムに、梅雨はビシッと指を差す。

「このエストランスの戦闘員及び機害獣は壊滅した!残りはあなた!この先はダイオキシンと幹部達は勿論、機害獣の数も半端じゃない筈…しかも何かあったら城から直ぐに出れるエストランス!!私は、一番楽なポジションを貰っただけですわカドミウム!!」

 格好つけて言ったのはいいが、内容はいいとこ取りでなるべく楽をし、ヤバかったら城から逃げると言う…

「相変わらずねんレイニーシーズン…そんなあなたが私はだいっキライなのよん!!」

 カドミウムは注射器を取り出し、腕に打った!!

「ドーピング?それズルいんじゃない?」

 梅雨はソロソロと城出口に視線を向けた。いつでも逃げ出せるように退路の確認だ。

 まあ、それは兎も角、一度は交戦しないと格好がつかない。

「恵みの新緑…育つ生命の鼓動に感動…だけど!!湿気含めば膨らむ髪が不快!!美少女戦士!!ラフレシアン レイニーシーズン!!」

 ビシッとポーズを取る梅雨。

 少し褐色がかかった顔をニッと緩ませ、ウェーブのかかった髪を揺らしながらカドミウムに指を差す。

「ドーピングとは卑怯な!!私がアナタを真っ当な人に叩き治してあげますわ!!」

「それをあなたが言ったら駄目でしょん!!」

 レイニーシーズンとカドミウムは互いに相手に向かって駆け出した!!

 梅雨の拳とカドミウムの拳がぶつかり合った!!

 しかし、吹っ飛ばされたのは梅雨!!

「いったあああああい!!」

「ドーピングまでしたのよん!互角な訳ないでしょん!!」

 拳を抑えて蹲る梅雨に、カドミウムは爪先で思いっ切り蹴り飛ばした。

「うっっっ!」

 飛ばされた先は城の出口付近。梅雨はチャンスを感じた。

「今日はこの辺で勘弁してあげますわ!!」

 すっくと立ち上がり、カドミウムに指差す梅雨。そのまま出口扉をガチャガチャガチャガチャ押したり引いたりしたが…

「そんな!開かない!?」

「また逃げるつもりだったのんレイニーシーズン?残念だけど、侵入者はここで死ぬのよん!!」

 カドミウムは雷球を作り、梅雨に投げ付ける。

「わわわわわっ!!」

 梅雨はそれを間一髪躱した。躱した先には出口の扉だ。雷球は扉に直撃される。

「オッホッホ…扉を壊してくれてありがとうオマヌケさん」

 梅雨はダッシュで扉目掛けて駆ける。そのまま雷球で破壊されたであろう扉目掛けて。しかし……

「えっ!?」

 扉は全くの無傷!!あの雷球の破壊力は実は大した事が無かったのか?

「オマヌケさんはあなたよんレイニーシーズン。この城はもうダイオキシン様のお力で破壊不可能になってるのよん」

 何と!既に城から脱出不可能状態になってしまったとは!!

 梅雨は計算違いを激しく後悔した。このままではヤバい。死んでしまう。まだまだやりたい事が沢山あるのだ。目の前の若作りのオバサンと違い、こちとら現役のJKなのだ!!

 なのであれば、やるべきことはただ一つしか無い。

「ねぇカドミウム。私達はこの城でたった二人だけの女子だったじゃない?昔の事は忘れて、また仲良くやりましょうよ?」

 梅雨はそっとカドミウムの手を握る。そのカドミウムは梅雨を睨み付けている。

 梅雨はニッコリと笑い、カドミウムの頭をなでながら言った。

「そんな怖い顔しちゃ、せっかくの美人が台無しよ?ね?」

 途端にカドミウムの眼光の鋭さが増した。と、同時に全く躊躇せずに思いっ切りビンタをくれた!!

「ぎゃぷっ!!」

 激しく吹っ飛ぶ梅雨。ビンタは地味な攻撃なれどマジ痛いのだ!!梅雨が涙目になるもの当然と言える!!

「いい加減にするのよんレイニーシーズン!!あなたの無節操はもう飽き飽きなのよん!!」

 流石にもう騙されないカドミウムだった。

「アンタねっ!!さっきから遠慮なしに私を殴る蹴るして!!良心が痛まないのですかっ!?」

 梅雨もキレてしまってバタバタと両手を振り回し、床をバンバン蹴っている。名付けるのならばスーパー地団駄だ。

「もうあなたとのお喋りも飽きたわん…潔く散りなさい!!」

 カドミウムは再び雷球を作った。

「せっかく私が平和的解決策を打ち出しているって言うのにっ!!もう容赦しませんわ!!来なさい縁是留!!」

 すると、どこに隠れていたのか、縁是留がノロノロと梅雨の傍にやって来た。

「やれやれ。漸く腹を決めたか」

 梅雨は変身携帯のボタンを高速で押す。

「ラフレシアン!01!」

 縁是留がトランスフォームし、ソーサーとなる。

「オッホッホ…死にたくなかったら降参しなさい?命だけは助けてあげてもいいのですよ?」

「おバカさんねぇ…そんなモノで私が……うわっ!?」

 カドミウムが言い終える前にソーサーが顔面に向かってきた。それを慌てて避ける。

「チッ…」

 戻ってきたソーサーをパシッと取りながら舌打ちをする梅雨。

「は、はははは話している最中、しかもあなたの方から促した降参の話…それなのに不意打ちとか……ど、どどどど!!どこまで卑怯者なのよん!!」

 胸に手を添えて動悸を押さえながら体勢を立て直すカドミウム。

「卑怯者?戦略家と言って欲しいですわ。さぁ!!もう謝っても許さない!!逝きなさいカドミウム!!」

 ソーサーを再び投げ付ける。さっきの不意打ちとは違い、渾身の力を込めて。

 カドミウムに襲い掛かるソーサーだが、カドミウムは薄く笑ったまま動こうとはしない。

「諦めたのは良い事ですわ。オッホッホ……」

 腰に左手を、頬に右手を当てて笑う梅雨。

「さっき作っていた雷球が天井に散らばったままよん?」

 ドンガラガラガラガラ!!

 カドミウムの言葉が終わると同時に、雷球がソーサーに墜ちて来た!!

 ソーサーは床に落ち、縁是留がトランスフォームを解いてしまった。

「俺は…上からの力に弱いのだ…ガクッ」

「ええええっ!縁是留!?マジでっ!??」

 先程まで勝利を確信していた梅雨はムンクの叫びのようになって立ち竦んだ!!

「武器も無くなっちゃったわねんレイニーシーズン?」

 カドミウムはゆっくりと、ゆっくりと梅雨に勝利を確信した目を向けて近寄って来た。

「い、いやね~。冗談よカドミウム。私達友達でしょ?」

 後退りしながら愛想笑いする梅雨を無視して詰め寄るカドミウム。

 そして、とうとうカドミウムは梅雨の首を力いっぱい掴んだ。

「ぐげげげがごげげ…………!!」

 バタバタ暴れる梅雨を力いっぱい壁に叩き付けた。

「あうっ!!」

「お話はお終いよんレイニーシーズン」

 カドミウムの目がマジだ!!ヤバい!!ピンチだ!!

 しかし、梅雨には何も無い…武器はクタッツとしてしまったし。

 ここでカドミウムに17歳と言う青春真っ只中で殺されてしまうのか……

 嫌だ!!

 自分はやり残した事があるのだ。

 自分の未来はそのやり残しにあるのだ。

 大学まで適当に過ごして、イケメンの金持ちをゲットして玉の輿に乗って楽に生きる。

 それが自分の輝かしい未来!!

「うわああああああ!!!!!」

 梅雨は残り少ない体力を使って立ち上がる。

「立ち上がっても、あなたには何も残ってないハズよん?」

 呆れ顔のカドミウムを無視し、梅雨は変身携帯を取り出してボタンを押した。

「01Ver2!!アモルフォファラス ティタム!!」

 梅雨の体から光の柱が立ち昇る。

「な、何!?何が起こったのん!?…って…くせぇ!めっさくせぇ!!」

 光の柱が晴れた梅雨の背中に、2メートルを超えるバカデカい花の蕾が装備していた。

「そ、それが新しい力…ウェッ!!」

 つぼみでもこの悪臭…もし開花したら一体…?カドミウムの背筋が寒くなった。

「どうせ殺されるなら、匂いなんて気にならないですわね…カドミウム!あなたも匂いを気にしなくしてもいいようにして差し上げすわ!!」

 梅雨は涙目になりながら、カドミウムに指を差した。

「じ、冗談じゃないわよん!!」

 蕾でも飛ぶ鳥を落としそうな悪臭を放っているあの花が開花する前に!!

 カドミウムは雷球を投げつける。

 しかし、雷球は悪臭の壁により、床へと流れ落ちた!!

「そんなバカなん!!?」

「私もどんな理屈かよく解らないけど…開花せよ!!アモルフォファラス ティタム!!」

 アモルフォファラス ティタムが開花する!その匂い、まるで死人が腐ったような匂いだ!!そして冗談のような悪臭。空間すら歪むようだった!!

「くさい!!くさいわん!!くさいくさい!!ああっ!!目に染みて痛いっ!!ウェッ!!吐きそうよん!!いやん!!吐く!吐くわんんんんんんんんんんんんんん!!!」

 苦しみのた打ち回るカドミウム!!しかし梅雨は追撃の手を緩めない!!

「まだまだまだああああああああああああああ!!」

 梅雨の気合に呼応するように悪臭が強まる。

 アモルフォファラス ティタムの超悪臭で、頭部に咲いている馬鹿デカい花に集っている子バエがボトボトと落ちてきた。

「これが…ウエッ…私の!!…ウップ…ラフレシアンの超奥義ですわっ!!ゲエッ」

「自分もえづいてるじゃないのん!馬鹿な子ねぇん!!イタタタタタタ!!目に染みるわんんん!!」

 嗅覚に続き視覚まで奪われたカドミウム。失明までしそうだった。悪臭で。

「逝きなさいカドミウム…はあああああああ……ああああああっ!!」

「きゃああああああああああああああああああんんん!!!!」

 カドミウムは全身に腐敗臭を纏わり付かせて倒れた。

「はぁ、はぁ………ウップ!!や、やった!!」

 同じように悪臭によって倒れている縁是留をひったくるように抱きかかえる。

「自分で技を出していながら言うのも何ですが…こんな臭い場所には居られないですわ」

 梅雨は桜花達の後を追うよう走り出す。しかし、また戻った。

「忘れる所でしたわ」

 梅雨は倒れているカドミウムの頭に足を乗せた。踏みつけるように。

「私の敵に成り得る訳がないですわこのメスブタ!!ざまぁみなさい!!オッホッホッホ!!」

 手の甲を頬に当てて笑い、最後に再び頭を蹴った。何度も、何度も、何度も…

 まさに死人に鞭を打つ行為!!ド外道の所業だ!!

 そこまでして漸く満足した梅雨は、改めて桜花達の後を追ったのだった!!


 兵隊や機害獣をぶっ倒しながら前に進む桜花達。

「どけどけどけどけどけどけどけどけどけどけどけどけどけどけどけどけいい!!クズ共が私の相手になる訳ねーだろうが!!」

 狭い廊下で先陣を切りながら進む桜花。

「こりゃチェリーブロッサム一人で充分だったか?」

 頼もしくも思いながら、不完全燃焼の月夜。

 ラフレシアンになった理由が憂さ晴らし。雑魚をいたぶって、その憂さ晴らしが出来ない事に少し苛々していたのだ。

 二階ロビーに着いた桜花は、ロビーにいたやはり機害獣と兵隊を一人で殲滅してしまった。

「流石に本丸は敵が多いな…」

 肩で息をする桜花。

「チェリーブロッサム、ちょっと飛ばし過ぎだぜ。後ろに着いて休んでいろよ」

 月夜は桜花の肩を掴んで下がらせようとした。その時!!

「命知らずの小娘が。その命、ここで終わらせてやる」

 テラスからシーオーツーがジャンプして降りて来たのだ。

「あん?ヒョロ男か…テメェが私を倒すだとクズ!!」

 硬鞭を肩に担ぎながらシーオーツーに歩いて行く桜花。

「チェリーブロッサム、下がれっつったろうが!!」

 月夜が桜花の前に身体をねじ入れた。これ以上行かせないように。

「フルムーンナイト、お前?」

「オメェばっかズリーんだよチェリーブロッサム。ここは私に任せなよ。オメェ等はちゃっちゃと頭潰してこいや」

 月夜はシーオーツーにダッシュで間合いを詰めて、蹴りを放った。

「おっと」

 軽く躱すシーオーツー。しかし月夜はにやりと笑う。

「テメェが階段の真ん中に居るから先に進めねぇんだボケ!!これで先に行けるだろ?」

 月夜はわざと大振りな蹴りを放ち、シーオーツーを階段入り口から遠ざけたのだ。

「フルムーンナイト!!」

「行けよチェリーブロッサム。私の楽しみの邪魔すんじゃねぇよ……」

 背中越しに感じた月夜の殺気は本物だった。巻き添えを喰らう前に先に進む事を決意する桜花達。

「お前ちゃんと追って来いよ!?」

「あん?まだ居たのかよボケ~…知らねーからな?巻き添え喰ってくたばってもよ?」

 ヤバいと感じた桜花達はダッシュでその場を立ち去った。

 桜花達の姿が見えなくなった頃、ケッケッと声を出して笑った。

「行ったか?これで心起きなくテメェをいたぶれるってもんだぜボケ~…ケッケッケ~」

「一対一とは好都合。このシーオーツーの恐怖、貴様に教えてやろう!!」

 月夜とシーオーツーは示し合わせたようにロビー中央まで無防備に歩み寄った。互いに目を見合いながら。

 そして相手まで数歩の間合いで足を止めて月夜が身構える。

 シーオーツーも歩みを止めて身構えた。

「闇夜を照らす満月…心捕らわれ暫し魅入る…だけど!!薄で跳ねてるバッタが不快い…!!美少女戦士!!ラフレシアン フルムーンナイト!!」

 月夜が身構えたのはキメポーズを取る為だった!!

「脅かしやがって…」

 額から頬に伝わってくる汗を手の甲で拭い去る。シーオーツーも結構ギリギリの状態のようだ。

「テメェの名も聞いておこうか?墓標に名も刻まれないんじゃ浮かばれないだろボケ」

 月夜は挑発するように笑う。

「いらぬ世話だフルムーンナイト!!」

 シーオーツーは月夜に飛びかかり、拳を振るった。

「ナメ過ぎだボケ!!」

 軽く躱してボディにカウンターを合わせる。

「ぐはっ!!」

 シーオーツーは、その体の軽さから楽々吹っ飛んだ。

「おら、逝けヒョロヒョロ!!」

 容赦なく蹴りを打ち込む月夜。

「がああっ!!」

 数発喰らったシーオーツーは何とかジャンプして間合いを取った。

「はぁ、はぁ、やはりこのままでは…」

 意を決したシーオーツーは注射器を懐から取り出し、それを腕に注入する。

「ドーピングかボケ!!」

 構わず突っ込んで行く月夜。

 シーオーツーは慌てる事もなく、煙管を取り出す。

「毒ガスだったか?間合いは知ってるぜボケ」

 シーオーツーの吐き出す煙を吸い込めば酸欠状態になるのだ!!煙さえ吸わなければ 問題ない。

 ゾクッ!!

 突進していた月夜は背筋に寒気を感じ、急停止する。と、同時にシーオーツーは煙管から煙を吐き出した。

「マジかよ!?」

 吐き出した煙はエストランスに充満するまで大量だった!!

「うわぁ!!やべえ!!」

 咄嗟に伏せて煙を吸い込まないようにした。煙は上に流れて行く。

「空気より軽い煙で助かったぜ……ぐわっ!?」

 安堵していた月夜に、いつの間にか近付いていたシーオーツーが腹部を爪先で蹴り上げた。

 激しい痛みを腹部に感じて転げ回る月夜。

「フッハッハッハ!!ダイオキシン様が与えて下さった新しい力!!これほどとは!!」

 ウットリしているシーオーツー。

「肺活量と筋力のドーピング剤じゃねーかよボケぇ!!」

 月夜は右手を翳す!!

「来い棒忍愚!!!」

 柱の影からソロソロと馬鹿デカいタランチュラが現れて月夜の手のひらに飛び乗った。

「敵はかなり強くなっている。長丁場は体力的に不利だぞ」

「解ってるよボケカス!!トランスフォームだ棒忍愚!!」

 月夜に急かされて鎖鎌にトランスフォームする棒忍愚。

「こっからが本番だぜヒョロヒョロ!!」

 月夜は分銅部分をクルクル回しながら間合いを詰めて行く。

「そんな物騒なものを易々と喰らってたまるか」

 シーオーツーは再び煙管を吸い、煙を吐き出した。

「うらあああああああああ!!」

 分銅部分を前に出し、高速回転させて煙を掻き消した。

「ほう?」

「いける!」

 そのまま突っ込み、鎌で喉を突けば終わる。勝利の道筋に思わず顔が綻んだ。

「煙をことごとく掻き消すとは」

 驚きのシーオーツーを余所に、既に懐に潜り込んだ月夜。

「逝けやあああ!!」

「しまった!!」

 鎌を突き刺す刹那!!シーオーツーの顔が邪悪に歪んだ!!

「なんてな」

 肺に少し溜まっていた煙を月夜に吐き出したシーオーツー!!

「しまっ……!!」

 咄嗟に息を止めるも、微量ながら吸い込んでしまったようで、月夜は崩れ、倒れた。

「少しだけしか吸い込まなかったのは流石だなフルムーンナイト。だが勝負あった」

 煙を吸い込み、動けない月夜の顔面に容赦なく爪先で蹴り上げる。

「ゴホ!!ゴホ!!テメェボケ……ぐあっ!!ぐああああ!!」

 蹴られて絶叫する。一発だけじゃない、何発も。顔だけじゃなく腹や胸にも。シーオーツーが月夜を執拗に蹴ったのだ。

「口の効き方がなってないお嬢さんだな。命乞いもしないとは、何とも可愛げの無い」

 シーオーツーは嫌らしい笑みを浮かべながら、再び煙管を吸い込んだ。

(あの煙はヤバい…少ししか吸い込んでいない筈なのに、身体が言う事を利かねえ…)

 指先が辛うじて動く程度の月夜。蹴りによるダメージも相当のものだろうが、やはり例の煙の効果の方が大きい。絶体絶命だった。

 その時、棒忍愚がトランスフォームを解き、月夜の変身携帯を右手に渡した。

「最早アレしかない…!!ラフレシアンの新しい力、アモルフォファラス ティタムだ!!」

 一瞬青ざめた月夜だが……

「ちっ…くたばるよかマシか…」

 辛うじて動く指先で変身携帯に打ち込む。

「今更何ができると言うのだ!死ね!フルムーンナイト!!」

 煙を吹き掛けるシーオーツー!!

「01Ver2!!アモルフォファラス ティタム!!」

 月夜の方が一瞬早くアモルフォファラス ティタムを発動させた!!

 巨大な花が月夜の背中から生えてきて、強烈な臭いを発生する!!

 シーオーツーの煙は、その腐敗臭のような匂いに掻き消された!!

「な!なんだと!?」

 煙を掻き消す程の悪臭!!相変わらずどういう理屈でそうなるのかは解らないが、兎に角匂いで煙を掻き消した!!!

 棒忍愚はひっくり返って悶絶している。悪臭に耐え切れなかった従者の姿もテンプレだ。

「まさか自分からこの匂いを出す事になるとはな…しかも、少し休んだおかげで多少動けるようになったぜ」

 ヨロヨロと立ち上がる月夜。自分で発生させたアモルフォファラス ティタムの匂いに巻かれて気を失わないように、しっかりと地に脚をつけた。

「貴様!!正気か!?自らもこの匂いに当てられる事になるぞ!!くああああ!鼻が!鼻がもげるうぅぅぅ!!」

 強烈な臭気に当てられて悶絶している。

「テメェが素直にやられねぇんだから仕方ねぇだろボケェ!!」

 月夜はフラフラしているシーオーツーに蹴りをぶち込んだ。

「ぐはっ!しっ、しまった!!この臭気を吸い込んでしまった!!あああああ!目が!目が痛いいいいい!!」

「じゃあ目ん玉いらねーよな?」

 月夜はシーオーツーの髪の毛を引っ張り、立ち上げると、シーオーツーの右目に、思い切り拳をぶち込んだ。

「くあああああ!右目がああああ!!」

 右目を押さえて膝を付くシーオーツー。更に!!

「うわあああああ!右目を押さえている為に鼻を押さえられぬ!」

 シーオーツーは慌てて鼻を押さえた。

「忙しいなボケ!!」

 膝を残った左目にぶち込む。

「ぎゃああああああああああああ!!!」

 顔を押さえるしかなくなったシーオーツー。床をゴロゴロ転がりながら絶叫している。

「く…私もそろそろヤバいぜ…」

 頭を押さえながらフラつく月夜。シーオーツーの煙によって得たダメージは、そう簡単に抜けないようだ。あと蹴りもたくさん喰らった。

 月夜は思い切り後ろに下がる。

「一発で楽にしてやるからよ」

 そしてシーオーツー目掛けてダッシュした。

「うらああああああああああああ!!」

 そのまま高くジャンプする。

「アモルフォファラス ティタムの匂いを嗅がなくてもいいようにしてやるよボケェ!!」

 シーオーツー目掛けて膝を落とす月夜。全体重を乗せて急降下した。

「ぐわああああああああああ!!ぎゃっ!!」

 ゴキン

 鈍い音と共に、シーオーツーは大量の鼻血を噴射した。月夜の全体重を乗せた膝は、超降下により破壊力が格段に増していた。その膝をシーオーツーの鼻に落としたのだ。

「ぐあっ!!」

 勿論月夜もノーダメージとはいかない。膝を痛打し、立ち上がるのもやっとの状態だ。

「はぁ、はぁ…っつ…これで匂いなんか気にしなくてもよくなったろボケェ…」

 シーオーツーは白目も赤く充血させながらピクリとも動かなくなっていた。

「…もう聞こえやしねぇか…」

 月夜はフラフラになりながら、ひっくり返っている棒忍愚をつまみ上げ、エストランスを後にする。

「チェリーブロッサム達は、もう頭を潰したかなぁ…」

 そう呟いて、痛めた膝を引きずりながら、桜花達の後を追った……


 三階では桜花達が機害獣相手に奮闘していた。

「この階は機害獣の倉庫か?」

「…ブツブツ…さっきから戦闘員が居なくて機害獣だけが暴れてるから…ブツブツ…多分そうね…」

「それにしても、数が多過ぎなのら!!」

 倒しても壊しても、次から次へと機害獣が湧いて出てくる。だんだんと疲労が蓄積されてきた。

「あなた達!!伏せるですの!!」

 白雪がビームキャノンを構える。

「言われなくても伏せるっつーのっ!!」

 桜花達は伏せるどころか逃げ出す。

「喰らうですのっ!きゃん!!」

 トリガーを引きながらコケる白雪。ビームは乱射され、的が大きい機害獣達は破壊されていく。

「ホワイトスノーブリザード!もう終わったから離せ!!」

 コケている白雪の頭を小突く桜花。

「いったぁいですの」

 漸くトリガーを離して乱射が止まる。ホッと一息つく桜花達。

「オメーは危ないから戦闘に参加すんなっつったろうが!!」

「だから疲労がいっぱいなチェリーブロッサム達の代わりに私が…」

 そのやり取りの最中、三階を守っていたスイギンが姿を現した。

「相変わらずのみそっかすぶりよなホワイトスノーブリザード」

 当然桜花達はスイギンの前に立った。

「テメェハゲコラ!!漸く支部長のお出ましか!!」

 構える桜花達。その時、白雪が再びビームキャノンを乱射する。

「うわああああ!!危ないっつったろうが!!」

 間一髪!ビームキャノンの直撃を躱した桜花は白雪に詰め寄る。

「皆さんより私の方が元気ですの。戦闘に参加させて貰えなかったからですのっ!!」

 白雪はイジケた。ぷりぷりしながら怒っているようにも見えた。

「そりゃ、なぁ…」

 頭を掻く桜花。面と向かって足手纏いとは流石に言えない。一応空気は読む方だ。多分。

「だからここは私にお任せですの。一人なら、誰も巻き添えにしないですの」

 ビームキャノンを桜花に向ける白雪。

「だから銃口を向けるなっ!!」

「先に行かないなら、チェリーブロッサム…あなたから撃つですの」

 桜花は怯んだ。白雪の目がマジだったのだ。初めてかもしれない白雪の殺気を感じて何とか宥めようと試みる。

「落ち着けホワイトスノーブリザード。ここは全員で協力してだな、勿論、とどめはお前にさせてやるしさ」

 しかし白雪は銃口を下げようとはしない。

「…ブツブツ…ここはホワイトスノーブリザードに任せましょう…ブツブツ…」

 珊瑚の提案に驚く桜花。白雪が幹部に勝てるとはとても思えなかったのだ。下手したら死ぬかもしれない。

「だけどよ!!」

 それを制する紅葉。

「ホワイトスノーブリザードも覚悟してここに来たのら」

 桜花はハッとした。そして再び白雪を見る。

 銃口を外そうとはせずに、じっと桜花を見つめている白雪。マジモンの覚悟だった。

 桜花は溜息を一つ付き、白雪に背を向けて四階の入口に体を向ける。

「……絶対に後追って来いよなホワイトスノーブリザード」

 白雪は微かに笑いながら銃口を下げた。

「勿論ですの。私達は六人で一つですの」

 桜花達は返事もせずにそのまま四階へ上がって行く。どうせ後から沢山喋るのだ。今ここで積もる話も無い。

 そしてその姿が見えなくなるまで見送った白雪。本当に嬉しそうだったのだ。任せて貰えた事が。

 みそっかすなのは自覚していた。だけど、だからこそ、自分は此処に留まらなければならない。相手は因縁深いスイギンなのだから。

「正気かホワイトスノーブリザード?某と一対一を所望するとは」

 困惑気味のスイギンを睨み付けて白雪が叫ぶ。

「ラフレシアンは絶対不敗!!あなた如きハゲ頭なんて、私一人でもお釣りが来るですの!!」

 白雪は無防備のまま、スイギンに向かって歩き始めた!!

構えているビームキャノンを一旦床に置く白雪。

「舞い散る雪…手のひら触れると溶けて無くなり儚くて……だけど!寒いと垂れる鼻水が不快っ…!!美少女戦士!!ラフレシアン ホワイトスノーブリザード!!」

 名乗り上げ、ビシッとスイギンを指差した。

「スイギン!あなたとの因縁をここで終わらせるですの!!」

「因縁も何も、お主がいちいち突っ掛って来るだけではないか」

 スイギンは肩を竦めて呆れた表情だ。

「隙有りですの!!きゃん!!」

 無防備なスイギンのボディにパンチしようとした白雪は、勢い余ってそのまま前からつんのめて転ぶ。

「変わらんなあホワイトスノーブリザード。いちいち相手をする某の身にもなってくれ」

 転んだ白雪の腹を思いっ切り蹴り上げるスイギン。

「くはあっ!!」

 白雪は壁まで吹っ飛び、コンクリート製であろう壁にクレーターが出来る。

「くっ…くぅっ…」

「お主には申し訳ないが、今日は遊び無しだ」

 スイギンは両手を合わせ気合いを入れる。

「ふんぐぐぐぐぐぐぐ……」

「な、何が始まるですの……?」

 眉根を寄せてお腹を押さえながら見る白雪。嫌な予感しかしなかった。

「あああああああ!! 」

 スイギンが両手を横に広げると、手と手の間に銀色の棒が現れる。

「チ、チェリーブロッサムと同じ、硬鞭?」

「鞭は鞭でも、水銀製の軟鞭よ。ジャジャ馬を調教するのにはちょうど良いではないか!!」

 スイギンは具現した軟鞭を振るう!!

「きゃあ!」

 背中に攻撃を受けた白雪は悶絶した!!

「若い娘を調教するのも悪くはないか……クックックッ…」

 水銀の鞭を持ったスイギンはキャラが変わった!!

「Sっ気があるのは知らなかったですの……」

 意外な展開に怯える白雪…座ったまま後退りをする。

「逃げるか?フハハハ!!逃げられるもんなら逃げてみぃ!!」

 これみよがしに鞭を床に叩きつける。ビシッ!ビシッ!ビシッ!と鞭の打撃音が三階全体に響く。

 ドン

「はっ!?」

 座ったまま後退りしていた白雪は、遂に壁に当たった。

 「逃げ場はないなホワイトスノーブリザード……」

 目を見開き、恐怖する白雪。戦闘に対する恐怖ではない。異性に対する恐怖だった!!

「たまらんなぁ…その顔はぁ……」

 薄ら笑いしながら鞭を振るう。

「きゃあ!!」

 白雪は仰け反って叫んだ。

「楽しもうではないか…フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」

 白雪を乱打するスイギンの表情は愉悦していた。

「きゃあ!!きゃあ!!あうっ!!」

 白雪は悶えながらも焦った。ビームキャノンを床に置き、名乗ったばかりに武器がない!!

「なんて失敗を…きゃうん!!」

「お主、失敗は常にしておろうが?逆に成功したのを見た事が無いぞ?ハッハッハッ!!」

 その通りで言葉もない。

 自分はここで変態坊主にいたぶられて死ぬ…そんな考えが頭をぎる。

「少しは抵抗してくれねば面白くもないぞ?ハァッハッハッ!!」

 今だ愉悦しながら鞭を振るう。それを喰らって徐々に体が痛みで動かなくなってくる。悲鳴のみしか上げられない。

 白雪は思った。

 こんなオヤジになぶられるとは。

 ってか、スイギンが変態ドSだったなんて、大誤算だった。

 今までのスイギンならば、何とか戦えた。

 しかし白雪はドSに対する対処の仕方を知らない。

 せめて、スイギン以上のドSを知っているならば、恐怖に打ち勝てる………

「はっ!!」

 白雪は水銀の鞭を掴んだ!!

「…ほぉ…まだ調教が足りぬか」

 白雪はギラリとスイギンを睨んだ。その瞳に恐れは全く無い。

「馬鹿言ってんじゃないですの。思い出したですの。あなたよりドSな人の存在を!!」

 白雪は水銀の鞭を払い退け、変身携帯を掲げた。

「某よりも…ドSな存在…?」

「あなたなんかチェリーブロッサムの足元にも及ばない、似非ドSですの!!」

 白雪は思い出したのだ。桜花の存在を。

 桜花のドSっぷりは対機害獣戦や幹部戦でライブで見てきたではないか!!

 敵を容赦なくぶちのめすその姿!!そのドSっぷりに引いた事もあったではないか!!

「01Ver2!!アモルフォファラス ティタム!!」

 変身携帯を押す白雪。凄まじい匂いと共に、白雪の背中から馬鹿デカい花が現れる。

「アモルフォファラス ティタムか…おえっ!!たまらん匂いを!!」

 スイギンは思わず鞭を手放して鼻を押さえる。喰らうのは二度目だが、全く耐性が付かない。それ程までの悪臭だ。

「今ですの!たああああ!!」

 白雪はスイギンのボディに思いっ切りパンチを放った。

「ぐはああああ!!」

 押さえた手を離すスイギン。

「ぎゃあああああ!!くせぇ!臭すぎる!!」

 思いっ切り鼻から息を吸い込んでしまったスイギンはのた打ち回った。

「以前アモルフォファラス ティタムを発動していて助かったですの…」

 白雪はアモルフォファラス ティタムの匂いをダイレクトで発していたので、少し慣れていた。

 しかし一度アモルフォファラス ティタムを喰らった筈のスイギンは全く慣れておらずにのた打ち回っている。これが臭気を力とする者とそうでない者の差だ!!

 ビームキャノンを取りに走る白雪だが、落胆した。

「不動王!?トランスフォームが解けていますの!!」

 アモルフォファラス ティタムの匂いにやられた不動王は、やはりあまりの悪臭に トランスフォームを解いて気絶していたのだ。

「ぬおぉぉぉぉ!!」

 その隙に鼻を押さえて立ち上がるスイギン。

「ヤバいですの!!たあっ!!」

 立ち上がるスイギン目掛けて突っ込んだ。

「きゃあん!!」

 しかし白雪はスイギンの目の前ですっ転んでしまった。

 キン!!

「ぐおおおっ!!?」

 しかしすっ転んだ白雪の額がスイギンの股間を直撃した。

「きゃあああああ!何かグニャッとかしましたの!!きゃあああああ!きゃあ!きゃあ!!」

 男の股間を額をつけてしまった白雪は取り乱し、スイギンをメッチャクッチャに乱打した。

「ちょっとま…ぐあっ!ぎゃあ!待て……うぎゃあ!!」

 股間に多大なダメージを受けて身動きが取れないスイギンは、白雪の乱打を無防備に喰らった。

「きゃあ!この変態!きゃあ!乙女の額に!きゃあきゃあ!!気色悪いモノくっ付けるなんて!きゃあ!!」

 白雪は破壊されたコンクリートを持ち、それでスイギンをぶちのめしている。とんだ残虐物語だ。

「や……やめ………………」

 何時しかスイギンは動かなくなったが、取り乱した白雪は構わずにぶちかます。

 そして、やがて疲れた白雪。肩で息をしながらスイギンを見下ろしていた。

「はぁ…はぁ…はぁ…っはぁ……変態は成敗しましたの…」

 白雪はスイギンから離れ、10メートル程離れた所に行き、スイギンに再び狙いを定めてダッシュする。

「乙女の敵ぃ!!逝っちゃえですのっ!!」

 白雪は大の字で気絶しているスイギンの股間に爪先で思いっ切り蹴り飛ばした!!

 プチ

 何かが破裂した手応えを爪先に感じた白雪。スイギンを見下ろしながら、額から流れ出る汗を手で拭う。

「これからは女の子として生きるがいいですの」

 そう言って気絶している不動王を抱き上げる。

「早くチェリーブロッサム達の後を追わなきゃですの…」

 よろけながらも階段を登って行く白雪は、階段の踊場付近でハタと気が付いた。

「ん?良く考えたら…初勝利ですの!!」

 白雪はスイギンに勝った事は無かった。

 これまで数々戦って来たが、適当にあしらわれて逃げられていたのだ。

「きゃあ!!この喜びを早くチェリーブロッサム達に伝えなきゃですの!!」

 喜び勇んで階段を駆け上がる白雪。

「きゃあ!!」

 階段を踏み外してそのまま三階まで転げ落ちる。

「いたた…落ち着いてゆっくり登って行くですの…きゃん!!」

 立ち上がり、登って行く途中何度もすっ転んで階段から転げ落ちる。

 戦闘により負った傷以上のダメージを負いながらも、一生懸命に桜花達の後を追った。


 四階に到着した桜花達。三階が機害獣の格納庫だった為、それより上には機害獣はいなかった。

 四階は制御室で、ここを叩けばカンキョハカーイは機害獣を送り込めないし、本国からも増員の転送はなくなる。

「うらああああ!!」

 相変わらず硬鞭で群がる戦闘員をボッコボッコにしなから突き進む桜花。

「タフねチェリーブロッサム…ブツブツ…」

「体力だけはあるのら」

 暴れ足りない紅葉は不満気だが、その紅葉よりも不満な珊瑚。その時、幹部が立ち塞がった。

「好き放題に暴れまわるのもここまでだラフレシアン!!このデシベルが貴様等をぐおっ!!」

 桜花は最後まで言わせずにデシベルをぶっ叩いた。

「うるせークズ!!ちゃっちゃと終わらせてやっから、かかってこいや!!」

「良かろう…そんなに死にたくば貴様から…ん?」

 珊瑚が対峙する桜花と涙目のデシベルの間に割り込んだ。

 いきなりの自己主張に驚き、口を開く事もできなかった。

「グレートバリアリーフ?珍しいのら」

「貴様……あの時の!」

 珊瑚は俯きながらブツブツ呟く。

「…ブツブツ…そんなに死にたくばって…ブツブツ…死にたいのは私なのに…ブツブツ…チェリーブロッサムばかり殺すつもりなんてズルいわ…ブツブツ…それとも私は殺す価値すらないブタだって言うの…ブツブツ…そうよね…ブツブツ…私なんてブタ…ブツブツ…いえ、私と一緒にされちゃ、ブタに申し訳ないわ…ブツブツ…」

 久しぶりにネガティブオーラ全開の珊瑚。

「調子良さそうだな……」

 桜花は微かに口尻を持ち上げる。

「ええい鬱陶しい!!そんなに先に死にたくばぎゃあ!!」

 デシベルの続く言葉を言わせずに桜花がぶっ叩いて黙らせた。

「グレートバリアリーフ、任せたぜ。その代わり後を追って来なかったら私が死なすからな」

 絶好調の珊瑚に託し、先に行く桜花達。

「…ブツブツ…そんな事言われたら…ブツブツ…死ねないじゃない…ブツブツ…」

 俯きながらもデシベルの前に立ち、桜花達の後を負わせない珊瑚。

「ふん…いずれ奴等も殺すのだ。貴様との因縁を先に片付けてから殺しに行こうか!!」

「じゃあ…先に殺して…ブツブツ…」

 ギターを構えるデシベル!!それに対して珊瑚が名乗った!!

「青い海…気分爽快、開放感万歳…だけど、プカプカ浮いてるクラゲが不快……美少女戦士…ラフレシアン グレートバリアリーフ」

 ギターみたいな武器を構えているデシベルに向かってポーズを取る。

「…私を殺したら…ブツブツ…お墓に名前は彫らないで…ブツブツ…お金が勿体無いわ…ブツブツ…いえ、お墓のお金も勿体無い…ブツブツ…私なんて放置してカラスの餌にでもして…ブツブツ…いけない…ブツブツ…私の死体なんかついばんだらカラスが可哀想だわ…ブツブツ…」

 絶好調でネガティブオーラを出す。

「死んだ後の心配をするとはな!!」

 ギターみたいな武器を弾くデシベル。

 ギギイィアィィィァアア!!!

 鼓膜が破れそうな大音響に加え、不快な音を出し珊瑚に襲い掛かる。

「…ブツブツ…あなたも…ブツブツ…私達と同じ…ブツブツ…不愉快な人ね…ブツブツ…いけない…ブツブツ…私なんかが私『達』と一括りにしては失礼過ぎるわ…ブツブツ…」

 珊瑚は棘紅郎を呼んだ。

「棘紅郎…ブツブツ…来て…ブツブツ…そして私と死んで…ブツブツ…」

 珊瑚は真顔で怖い事をサラッと言う。

「死なないよっ!トランスフォームだグレートバリアリーフ!!」

「…ブツブツ…そう…ブツブツ…あなたも私を見捨てるのね…ブツブツ…そりゃそうよね…ブツブツ…私なんか…ブツブツ…」

 ネガティブオーラを放射しまくり、一向に変身携帯を開こうとしない珊瑚。ズーンとなり俯き、隅っこに体育座りをしてしまった。

「グレートバリアリーフ!!今はそんな事を言ってる場合じゃない…危ないっ!!」

 危険を促され顔を上げる珊瑚。

「遅いっ!!」

 デシベルはギターみたいな武器を珊瑚の顔面目掛けて叩き込んで来た。

 バキャッッッ!!

 何かが打ち砕かれたような音が制御室に響く。

「……む?」

 ギターみたいな武器が木っ葉微塵に砕け散った。

「あの刹那…肘を当てたか!!」

 珊瑚は瞬間的に肘を打ち出して武器を破壊したのだ。新体操部のエースである珊瑚は普通に運動神経と反射神経がいいのだ。

「…ブツブツ…また…ブツブツ…死ねなかった…ブツブツ…」

 変身携帯を取り出し、入力する。

「01…ブツブツ…」

 棘紅郎がトランスフォームし、モーニングスターになった。

「あれをマトモに喰らう訳にはいかない!!」

 デシベルは思いっ切り後ろにジャンプして間合いを取った。

「…ブツブツ…えい…ブツブツ…」

 モーニングスターを振るう。

 チッ

「掠ったか…だが躱した…が!?」

 デシベルは膝を付いた。

「何とも凄まじい破壊力だなグレートバリアリーフ…」

 うっすらと滲み出る血を見ながらデシベルが笑う。

「…ブツブツ…何を笑ってるのかしら…ブツブツ…殴られて笑うって事はマゾかしら…ブツブツ…いやだわ…ブツブツ…変態は嫌だわ…ブツブツ…いけない、私も死にたがりのド変態だったわ…ブツブツ…」

 果たしてデシベルがマゾかどうかは不明だが、不敵に笑っているのは確かだ。

「フッハッハッ!貴様はパワーが全てのようだなグレートバリアリーフ!!」

 そう笑って懐から注射器を取り出し、自らに注射した。

「インシュリン?…ブツブツ…病気なのに戦いに出てきたの?…ブツブツ…」

「フッハッハッ!漲る!体が鋼鉄になってくるのが解るぞ!!フッハッハッハッハッハ!!」

 身体が一回り大きくなり、肌が心なしか褐色になった。ボディビルダー的なテカリもある。

「なんだ、ただのドーピングか…ブツブツ…」

 しかし珊瑚は特に驚きはしなかった。ドーピング選手を結構見た事がある珊瑚にとって、それは日常なのだ。高校生の選手が薬に頼るのを結構見るのもおかしい話だが。

「フッフッ…打ってこいグレートバリアリーフ…貴様のモーニングスターを…」

 腰に手を当てて不動の構えのデシベル。モーニングスターを身体で受けると言うのだ。もう直ぐコーヒー牛乳を飲みそうなポージングで些か滑稽だが、凄い自信なのには変わらない。

「…ブツブツ…やっぱり痛いの気持ちいいのかしら…ブツブツ…」

 言われてモーニングスターをぶち当てる珊瑚!!

 ドガアァッ!!

「……え?」

 手応えが異質だった。敵がふっ飛んで軽く感じる筈だが、壁に直撃してそのまま止まったような。

「フッハッハッ!効かぬなぁ!!」

 デシベルはモーニングスターを自らの肉体で受け止めることに成功したのだ!!

「…ブツブツ…硬化したのね…ブツブツ…」

 デシベルはモーニングスターを片手でひょいと持ち上げ珊瑚に投げ返す。

「いけない…ブツブツ…」

 回避した珊瑚。

 バカァアアン!!

 投げ返されたモーニングスターは制御室の壁を簡単に破壊した!!

「フッハッハッ!!硬化だけではない!!パワーも数段高くなったのだよ!!少なくとも貴様よりな!!フッハッハッハッハッ!!」

 高笑いするデシベル。見下しているような笑い声だったが、珊瑚は至って平然としていた。

「……何故平然としていられる?」

 全く動じた様子のない珊瑚に逆に動揺した。

「…別に…ブツブツ…私の望みはあなたを倒す事じゃないから…ブツブツ…」

 珊瑚はモーニングスターを再び構える。

「解らんな?じゃあ何故戦う?」

 デシベルはどこからか出したエレキギターに巨大なスピーカーを繋ぐ。

「私に勝つのを諦めたのかラフレシアン グレートバリアリーフ!!!」

 ギャアァアァアァァァァァアアアンン!!!

 不快な爆音が制御室に響く!!壁がヒビ割れ、粉塵が舞う!!

「…どうしたグレートバリアリーフ?何故動かぬ?ハッ!?」

 デシベルはエレキギターを奏でる手を止めた。

 珊瑚が珊瑚が立ったまま泣いているのだ。

「……これじゃ…ブツブツ…死ねない…ブツブツ…この程度じゃ私は死ねないの…ブツブツ…」

 泣きながらゆっくりとデシベルに近付く。

「うるさい音しか攻撃能力がないのね…ブツブツ…私を殺してくれないのね…ブツブツ…」

「ふっ!ふざけるなグレートバリアリー!!死にたいのなら大人しぐはあ!!」

 最後まで言わせずに、珊瑚はモーニングスターをデシベルの顔面に思いっ切りぶち当てた。

「硬化もさほどじゃないわ…ブツブツ…」

 返す刀で脳天にモーニングスターをぶち込む珊瑚。

「ぎゃあああああああ!!!」

 噴水のように脳天から血を吹き出し、膝を付く。

「…ブツブツ…ウソツキは嫌いよ…ブツブツ…」

 更に下から跳ね上げる!顎にヒットするモーニングスター!!

「ごへえええええええ!!!」

 派手に上にふっ飛び、天井に顔面が当たり、そのまま受け身も取れずに床に激突する。

「…ブツブツ…ドーピングまでして得たパワーも使いこなせず…ブツブツ…」

 珊瑚は倒れたデシベルに容赦なくモーニングスターを振り下ろした。

 ガッ!!ガッ!!ガッ!!ドカッ!!と、何度も何度も振り下ろす。

「まて!ぐはあ!やめろ!!ぎゃあ!!私が…ぎゃあ!!ちゃんと殺してやるから!!」

「あなた程度に…ブツブツ…殺せないのよ…ブツブツ…だから…ブツブツ…私が代わりに…ブツブツ…」

 珊瑚は全く表情を変えずにモーニングスターを何度も何度も振るった。

 デシベルは薄れて行く意識の中で、珊瑚を見ていた。

 死にたがりのネガティブだと思っていたが、そうじゃなかった。

 いや、死にたがりのネガティブには間違いはないが、自分より巨大な力で易々と葬って欲しいのだ。

 そう、苦しむ間もなく……

 ならば自分では力不足だ。グレートバリアリーフは想像以上に巨大だったのだから……

 デシベルは漸く口を開いた。

「最上階へ行けグレートバリアリーフ…貴様の望みはダイオキシン様が叶えてくれるだろう………」

「…ブツブツ…言われなくとも…ブツブツ…チェリーブロッサム達の後を追わなきゃだし…ブツブツ…」

 そう言って攻撃の手を止めた珊瑚。

「…ブツブツ…自分だけ死ぬなんて…ブツブツ…ズルい…」

 そう、デシベルは全く動かなくなってしまったのだ。

 珊瑚はデシベルを圧倒的に粉砕したのだ。新しい力を使う事も無く……


 最上階目掛けて駆ける桜花と紅葉。現れる兵隊を薙ぎ倒し進む。

「それにしても、よくすんなり行かせたのら」

「ああ?何がぁ?うらあ!どけクズ!!」

 先頭の桜花は絶好調よろしく、兵隊を蹴散らしていた。

「珊瑚…いや、グレートバリアリーフをすんなり行かせたのら?他の奴等は止めたのに」

「ああ、絶好調にネガティブだっただろ?じゃあ心配いらねぇじゃん。クズどけやコラぁ!!」

 桜花の言いたい事はよく解らなかったが、何となく理解した。

「成程、付き合い長いから理解可能なのら~」

 ニヤリと笑う紅葉だが、一緒に行動し始めてから数か月程度だ。こんな期間でも長い付き合いになるのだ。流石は孤高の外ヅラ集団である。

 ともあれ、五階に到着した桜花と紅葉。その時、紅葉は桜花の尻を蹴っ飛ばして 六階への入り口に押し込んだ。

「ぐあ!?何をしやがるレッドリーブス!!」

 派手にぶっ倒れた桜花。目の前の扉が閉じた。

「何だこりゃ?エレベーター?」

「先に行くのらチェリーブロッサム~…クスクスクスクス…漸く思いっ切り壊せるのら~…クスクスクスクスクスクスクスクス…」

 扉が完全に閉じる瞬間、桜花の目にヘドロがチラッと映った。

 扉の向こうでヘドロが叫ぶ。

「うぉのれチェリーブロッサム!!このヘドロから逃げ出したか!!」

「何だとコラ!!今から行くから待ってやがれクズ!!おおおっ!?」

 桜花を乗せたエレベーターはそのまま上へ昇ってしまった。

「安心するのら~…このレッドリーブスがお前をメッチャメチャのギッタギタに壊してやるのら~…クスクスクスクスクスクスクスクスクスクス………」

 紅葉の声が遠くなってくる。

「おいレッドリーブス!そのクズは私と勝負したいといってるンダヨ……」

 桜花を乗せたエレベーターは無情にも五階から離れて行く。

 五階に残った紅葉は満面の笑みを浮かべ、ヘドロを見ている。

「カーッ!!この俺の相手が貴様なんてなぁ!!」

 残念そうに頭に手を当てて首を振るヘドロに、怖い笑顔を向けながら紅葉が構えて言った。

「安心するのら~…チェリーブロッサムよりは苦しませずに壊せる自信があるのら~…クスクスクスクス…」

 思い出したと一旦構えを解き、ヘドロに指を差す。

「そー言えば、お前は私が初めて壊したカンキョハカーイだったのら~」

 愉悦した表情を作る紅葉。初めてカンキョハカーイを壊した快感を思い出しているのだ。

「あの時は油断していたのだレッドリーブス。そして貴様の連射するクロスボウなど、最早俺の肉体に傷一つ付ける事は出来ぬ」

 ヘドロの筋肉が盛り上がり、青銅色に変色している。

「薬でもやったのら?関係ないのら~…クスクスクス…」

 そして紅葉はクロスボウの間合いを保ち、名乗った。

「燃ゆる山…緑に黄色にそして赤…だけど!!銀杏臭いし、かぶれて不快ぃぃぃ!!美少女戦士!ラフレシアン レッドリーブス!!」

「小娘ぇ…俺の間合いに入って来ないその抜かり無さ…久しぶりに血がたぎるわ!!ふおおおお!!」

 ヘドロが身体中に気を漲らせる。気のうねりが目に見えるようだった。

「どんなに気張ろうが、メッタメッタに壊れればガラクタになるのら~…クスクスクス…」

 黒乃巣をトランスフォームさせる紅葉。銃口をヘドロに向けて笑う。

「撃って来いレッドリーブス!!全てが無駄だと悟るだろう!!」

「言われなくとも撃ちまくるのら!!」

 ズガガガガガガガガガガガガガ!!と連射したクロスボウがヘドロを襲う!!

 粉塵が舞い、視界の確保が難しくなるも構わず連射しまくった。

「壊れろ!!壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ!!壊れろおお!!キャハハハハハハ!!」

 歓喜しながら乱射する。その殆どが命中している筈だ。手応えでそれを知っているのだ。

 カチッ!カチッ!

「弾切れなのら」

 興味が無くなった紅葉は、何の未練も無くクロスボウを捨てた。因みに弾は一定時間が経過すれば勝手に補充させる御都合設定だ。

「さて、どんなミンチになってるか楽しみなのら!!」

 スキップしながらヘドロの様子を見に行く。粉塵まみれの中、目を凝らす…

「煙が酷くてよく見えないのら~…きゃあ!?」

 紅葉は頭を掴まれた。

「きゃあ!!きゃあ!!」

 バタバタと暴れる紅葉だが、軽い身体はそのまま吊り上げられた。

「フハハハ!痒い!痒いぞレッドリーブス!!」

 粉塵の中、紅葉を吊り上げたヘドロ。その肉体には傷一つ付いてはいなかった。

「嘘なのら!?傷一つ付いていないなんて!!」

 数多の機害獣を破壊して来たクロスボウが、ヘドロの身体には傷一つ作る事ができなかったのだ。

「流石はダイオキシン様の薬よな。ここまで鋼の肉体になるとは思わなんだ」

 ドーピングにより得た肉体に酔う。

「今度は貴様が壊れるまで叩きつけてやろう!!」

 ヘドロは紅葉を吊り上げたまま床に叩き付ける。

「あうっ!!」

 軽い身体が床から跳ね上がるも、ヘドロに頭を掴まれている為に、頭部に衝撃が集中する。

 一発で意識が途切れそうになった紅葉。

「あ、危なかったのら…気を失う所だったのら…」

「なかなか壊れんな…どれ、もう一発!!」

 気絶は回避出来たが、再び床に叩き付けられて今度こそ全身に激痛が走った。

「きゃああああ!!」

「壊れるまでゆっくりと遊ばせて貰うぞレッドリーブス!!」

 ヘドロは笑いながら、何度も何度も床に叩き付けた。紅葉の小さな身体は床に叩きつけられると簡単に跳ね上がり、それはまるでゴム鞠をつくような感じだった。

「ふはははは!!レッドリーブスよ、壊れ難いオモチャと遊ぶのは、なかなか愉快なものだな!!」

「カハッ…げほっ……デカブツ~…きっと後悔させてやるのら……」

 そう言った直後、紅葉は目を閉じてしまう。

「いよいよ終わりかレッドリーブス。ふんがあああああああああああああ!!」

 ヘドロは渾身の力を振り絞ってぶん投げた。

 紅葉は壁に激突!!壁は打ち砕かれ、瓦礫に埋まる!!

「さて、上に向かったチェリーブロッサムを追わなきゃならんな」

 手をパンパンと叩いて埃を掃う仕草をし、満足した様子のヘドロは、エレベーターのボタンを押した。しかし、ダイオキシンはケチなのでエレベーターは安物だ。よってスムーズに降りてきてくれない。

「待つのも歯痒い。階段で向かうか」

 エレベーターから踵を返したヘドロ。

「なっ!!?」

 振り向いたヘドロの視線の先に、紅葉がクロスボウを構えて狙いを定めていた。

「まずは視覚なのら!!」

 トリガーを弾く!!

「ぐあああっ!?」

 ヘドロの両目に着弾し、たまらず膝を付き目を覆う。

「おのれレッドリーブス!終わったように見せたのは弾が補充されるまでの時間稼ぎだったのか!!ま、前が見えぬ……!!」

 目を潰されたヘドロ。紅葉の姿を確認する事ができなくなった。

「そうなのら。お前は私の体力が尽きたと勝手に勘違いして壁にぶん投げたのら。か弱い私をぶん投げたのら。脳筋は単純で楽なのら~。激突する時だけ気張れば良かったのら。もっと頭がいい奴は色々考えるのら」

 ぶん投げられたことは結果的には良かったようだが、どうも根に持っているようだ。二度も言ったのだから。

「でも安心したのら。眼球は鋼鉄になってなかったのら~。聞こえるうちにもう一度言っておくのら。絶対に後悔させてやるのら……」

「聞こえるうちにとは一体…むぐっっ!?」

 話す為に口を開いていたヘドロにクロスボウを突っ込む。

「もう喋る事もできないのら~……」

 ズガガガガガガガガガ!!!

 躊躇いなくトリガーを弾く。

 ヘドロの口の中で鉄の味が充満した!!

「フゴォオオオオオオオオオオオオ!!!」

 クロスボウを口の中から引き出す。と同時に血を吐き出しながら、床を転げ回った。

「ブハッ!ブハッ!」

 ヘドロは生きているのがおかしい程のダメージを受けた。

 潰れた目から涙が溢れ出る。

 ヘドロは転げ回るのを何とか止めて、両膝を付き座った。

 そのまま両手を床に付き、額を床に付ける。

「土下座なのら。土下座して降参する敵なんか初めて見たのら~…クスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクス……」

 歪んだ笑みを浮かべながら、紅葉はゆっくりとヘドロの前に歩く。そしてヘドロの後頭部を力一杯踏み抜いた。

「ブブッッ!!」

 当然ながら顔面が床に叩き付けられた。血と涙で汚れた床に。

 そしてそのままの姿勢で屈む紅葉。聞こえるようにゆっくり、優しく囁くように言う。

「言った筈なのら~…後悔させてやるって言った筈なのら~…言った筈なのら~…クスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクス…後悔させてやると言った筈なのら~…クスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクス……………」

 ヘドロはとっくに後悔していた。

 その証に、ヘドロの座っている辺りが尿でベッショベショに濡れている。

「汚いのら」

 一つトリガーを弾く。背中に着弾するも、ヘドロの肉体は鋼鉄になっていたので、ダメージには繋がらない。

「やっぱり弱い所から壊した方がいいのら」

「フゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!?」

 恐怖を感じて暴れ始めたヘドロ。

「そんなに暴れちゃ狙いが定まらないのら」

 そう言って変身携帯を取り出す。

「お次は嗅覚を奪うのら。01Ver2!アモルフォファラス ティタム!!」

 紅葉の背中から大きな花が現れる。

「臭いのらっ!!想像よりもキツいのらっ!!」

 紅葉もダメージを受けたが、ヘドロの方が尋常ではない。顔を覆いながら再び転げ回っている。

「フゴゴゴゴッ!!ブハッ!!フゴゴゴゴフゴ!!」

 ひとしきり転げ回ったヘドロ。やがて付かれたのか動きが弱まる。

「そろそろ限界なのら?じゃあトドメをくれてやるのら~クスクスクスクス…」

 倒れているヘドロの耳に、何か冷たい物が触れる。

「もう直ぐ聞こえなくなるのら~……後悔したかデカブツ?クスクスクスクスクスクスクスクスクスクス…」

「!?フガアアア!!!」

 ダンッ!!

 ヘドロが最後に聞いた音…それは耳元から聞こえたクロスボウの発砲音。

 それと同時に、ヘドロから徐々に全ての光が消えていく。

「いたたた…デカブツ如きにこんなにやられるとは思わなかったのら…」

 全く動かなくなったヘドロに一発蹴りを入れ、到着していたエレベーターに乗り込む。

「チェリーブロッサムの事だから、もう終わっちゃったかもなのら。いたたた…」

 エレベーターの扉が閉じる。寸前に紅葉はクロスボウのトリガーを弾いた。

 バスバスバスバスバスバスバスバスバス!!

 全ての弾がヘドロを貫いた。死んで薬の効果が切れたのか、はたまた切れる時間になったのか。

 紅葉が満足そうに頷いた。

「完全に壊したのら。いたたた…」

 扉が閉じ、エレベーターはそのまま上に昇って行った…


 エレベーターから降りた桜花。目の前にある豪華な扉の前に立つ。

「スウゥゥゥ~……」

 桜花は大きく息を吸い、扉を蹴破る。そして同時に叫んだ。

「おらあああああああああ!!テメェで最後だダイオキシン!!!」

 しかし玉座に座っていたのはダイオキシンでは無かった。

「チェリーブロッサム。遂にここまで来たか。待ち侘びた、とでも言っておこうか」

 そこに座っていたのはかつて自分達を壊滅寸前に追い込んだカンキョハカーイ№2の男!!

「テメェはあん時のサヤ男!!丁度いいぜ…あん時のケリをつけてやらあああ!!」

 硬鞭を下に振り、鋭い目つきでシーペストを睨み付ける。

「此方もそのつもりだチェリーブロッサム。今日は初めから全力で行かせて貰うぞ」

「はん?あん時は手加減していたような言い方だなクズ!!」

 ガンッ!と床に硬鞭を突き刺し、シーペストを睨み付けながら、桜花が構える!!

 そしていきなりシーペストの懐に飛び込んだ!!

「せっかちな少女だ」

「美少女だ私はぁ!!」

 硬鞭を真横に薙ぎるが、それを素手で受け止められる。

「手のひら硬ぇなクズ!!」

 桜花の長い髪が天に昇るように立ち昇った。

「おらあああああああ!!!」

 そのまま馬力でぶっ飛ばす桜花。

「ふっ!」

 両脚を踏ん張り、飛ばされるのを防いだシーペスト。

「以前より力が上がったか…だが」

 右腕を桜花の顔面に翳すと、超水圧を噴射する。

「うわあっ!!」

 咄嗟に腕でガードするも、超水圧で壁まで飛ばされた。

「我慢だぁ!!!」

 限界まで身を硬くする桜花。衝突の衝撃で破壊される壁。桜花は堪えたが、壁は無理だったのだ。瓦礫が桜花に降り注ぐ。当然体勢を崩す事になった。

「いって…」

 軽く頭を振り、どうにか体勢を立て直す。

「驚きだな…まともに喰らったのに、ほぼ無傷とは」

「当たり前だクズ!!私を誰だと思ってやがる!!ああ!?」

 硬鞭を突き出し、桜花が吠える!!

「咲き誇る桜…目にも艶やか心も豊か…だけど!!湧いて出て来る毛虫が不快ぃ…!!美少女戦士ラフレシアンチェリーブロッサム!!!」

 ありったけの殺意を込めて、桜花はシーペストを睨み付けた。その眼光は、視殺までできるのではないか?と思わせる程の殺気だった。

「大した少女だ」

 もはや感心するしかないシーペスト。

「だから私は美少女だっつったろクズ!!」

「それはすまなかったなチェリーブロッサム。君にはお遊びは必要ないようだな」

 シーペストの闘気が上がる。桜花は背筋が冷たくなりながらも叫ぶ。

「私相手に遊ぶつもりかクズ!!美少女と遊ぶなら莫大な金持ってこい!!みんな使い果たしてやるぜ!!」

 挑発なのか本音なのか解らないが、ともかく桜花は奮い立つ。

「生憎と給料が安いものでな。天国行きのチケットしかやれないが、許してくれ」

「代わりに地獄行きのチケットをプレゼントしてやるぜ!!」

 桜花は変身携帯を取り出した。同時にシーペストが手のひらを頭上に掲げる。

「バラストウェイブ…全力の力で放ってやるから受けるがいい」

「01Ver2!!アモルフォファラス ティタム!!」

 桜花もラフレシアンの新しい力、アモルフォファラス ティタムを発動させる。

 シーペストの周りに海水が集まり、球体状の水のボールとなる。

 そして桜花の背中から巨大な花、スマトラオオコンニャクが現れた。

「喰らえ!!バラストウェイブ!!」

 掲げた手のひらを下に下ろすと、それは津波となって桜花を襲った。

「鼻もげてくたばれクズ!!」

 アモルフォファラス ティタムが開花し、凄まじい悪臭がシーペストを襲う!!

 そして津波と臭気は中央でぶつかり合った!!

「むむむむむむ……っ!!」

「うらあああああああ!!」

 両者譲らず、津波と臭気が中央でくすぶっている状態だ。

「なかなか…やる!!」

「テメェはさほどでもねぇがな!!」

 素直に讃えたシーペストに対し、悪態で対抗した桜花。どっちか正義か解らない!!

 バラストウェイブとアモルフォファラス ティタムが中央で拮抗している。

 液体と気体がどのように拮抗するかは置いといて、とりあえず拮抗している!!

「ちっ…埒あかねーな!うらあ!!あ?」

 硬鞭を奮おうとした桜花だが、雷太夫はアモルフォファラス ティタムの臭気に当てられてクタッとしてしまった。

「使えねぇツチノコだな!!おら、起きろクズ!!」

 クタッとしている雷太夫を床にバンバン叩き付けて目を覚まさせようとするが、 一向に動く気配が無い。それどころが命の光が尽きそうだった。まだ逝くな雷太夫!!

「あーもうっ!!」

 苛々した桜花は、雷太夫をシーペスト目掛けてぶん投げた。

「何っ!?」

 咄嗟に躱すシーペスト。だが!!

「隙ありだクズゴラァアアアアア!!」

 一瞬の隙を付いてシーペストに跳び蹴りをする。

「うあっ!」

 それを屈んで躱す。桜花のパンツが視界に入った。と言うかさっきから入っているが、今回は鮮明に入った。

「パンツもピンクとはな」

「パンツ見たのかクズ!!金払えやクズコラ!あぁ!?クズおい!!」

 チンピラと化した桜花。ヒロインの品格が全く無くなってしまった。

「テメェさや男お!本当に不快だなクズ!!ああああ!ムカつくなぁクズコラ!!」

 アモルフォファラス ティタムがその臭気をアップさせる。

「不快指数MAXと同じ!!気分で臭気が上がるのか!?ウェッ」

 たまらず鼻を押さえる。

「おら、津波パワーアップさせろや!!テメェの奥義諸共ぶち殺してやるよ!!」

 両手をコイコイとさせて挑発する。

「バカな!余程死にたいらしいな…ウァッ!!クセッ!!」

 シーペストは鼻を摘みながらバラストウェイブをより巨大にしようとした。が!!

「随分とよわっちい津波だなあ?ああ!?」

 鼻を摘んで体勢不十分なシーペストは、バラストウェイブを満足な形で繰り出す事ができなかった!!

 当然桜花は向かって行く。

「美少女の私に牙剥いた事ぉ!!死んで後悔しろやクズ!!」

 桜花はシーペストのボディに思いっ切り正拳を叩き込む。

「どうだクズコラ!!」

 鳩尾に叩き込んだ拳。だが、シーペストはノーダメージだった。

「打撃で俺には勝てんよ」

 仁王立ちしながら平然と鼻のみを押さえていた。

「チッ…やっぱり硬ぇな!ぐあぁっ!?」

 シーペストの横に払った裏拳が桜花の顔面にヒットした。桜花は壁まで吹っ飛ばされる。

「チェリーブロッサム。アモルフォファラス ティタムさえ何とかできれば、お前など俺の敵ではない」

 ぶっ倒れた桜花がヨロヨロと立ち上がる。

「アモルフォファラス ティタムだけが私だと思ってんのかクズ!!死ねクズ!!美少女の私の顔面をぶん殴った罪を死んで償えやクズコラァァァァァァァァァァァ!!!」

 桜花の怒りが頂点に達した!!

 その怒りに呼応し、頭部のバカデカイ花が膨張するように巨大化する!!

「それは!」

 シーペストは戦慄した。それはかつて自分を退けたラフレシアンの奥義……

「不快指数MAX!!」

「ああ!?ただの不快指数MAXだと思ってんのか!?アモルフォファラス ティタムはまだ発動中だぜ!!」

 アモルフォファラス ティタムの超臭気!!更に不快指数MAXの超超臭気!!

「匂いは何日で取れるか解らねぇが、テメェに負けるより全然マシだ!!!」

 鬼のような悪魔のような臭気がシーペストを襲う。

「ぐああああああ!!鼻を摘んでも匂いがあああああ!!!」

 シーペストは人生初の滝のような涙を流した。目に臭気が染みているのだ。

「目が!目が開けられんんん!!」

 遂には両手で顔を覆ってしまう。

「安心しろクズ!!二度と目を開ける事ができなくなるからよ!!」

 桜花はシーペストの膝に全体重を乗せて踏み抜く!!

 ボキィッ!!とおかしな音と共に、シーペストの足は有り得ない方向に向いてしまった!!

「ぐあああああっ!?」

 流石に倒れるシーペスト。

「いくら硬くても関節までは鍛えられねぇみたいだな!!」

 シーペストの右腕を取り、膝を肘に叩き込む。

 ボキイィィ!!

「ぐああああああ!!」

 更に右腕を破壊されたシーペスト。そのおかげで鼻を塞げれなくなってしまった。

「くあああああああああああああ!!臭いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

 残った左腕で顔を覆うシーペスト。

「させるかクズ!!くらあああああ!!」

 桜花は左腕を取り、そのまま左腕と身体を脚で固める。

「腕肘逆十字固めだクズ!!美少女の私の太ももが当たって気持ちいいだろう!!このド変態がぁ!!」

 バキイイッ!!!

 本来はギブアップを奪う技だが、何の躊躇いも無く左腕を破壊した桜花。左腕も折ってしまったのだ。

「ぐああああああ!!痛いぃいっ!!ぎゃあああああああっ!!臭ぇぇえ!!」

「トドメだクズ!!」

 転げ回っているシーペストに頭部のデカい花を直接顔面に押し付けた。

「ムグウ~~ッ!!ゴホォ!!フギュアアアア!!!」

 不快指数MAXの臭気を直接鼻に当てられてしまったシーペスト!!もがき、足掻くも、折れた両腕では力も半減だ。桜花をどうしても引き剥がせない!!

「早く死ねクズ!!うらあああ!!」

 更にグイグイと顔を埋めるよう押し付ける。

「!!!!!!!ああああああああ!!!!!!!」

 それはシーペストの断末魔だった。シーペストはその叫び声を上げた直後、動かなくなった。

 そこでようやくシーペストから離れる。

 シーペストは泡を吹いて白目を剥いている。やはり全く動かない。

 一応確認をと心臓に手を当てた。鼓動が全く感じない。

 此処で漸く安堵しながらシーペストの亡骸に向かって叫ぶ。

「私達は匂いでテメエ等を殺せんだよクズ!!」

 肩で息をしながら動かなくなったシーペストの顔面を爪先で蹴る。何処までもえげつなかった。

「これで残るは親玉だけだな…おら、起きろツチノコ!!」

 クタッとしている雷太夫をサッカーボールのように蹴り飛ばす。

 ビターン!と激しく壁に叩き付けられた雷太夫はやはり動く気配すら見せなかった。

「ち、使えねぇクズだな」

 桜花は動かなくなった雷太夫の尻尾を無造作に掴み、部屋の奥にあった扉を開けた。

 扉の奥には、更に階段があった。

「この先にウゼェクズ共の親玉がいるんだな」

 桜花は残る力を絞り出し、階段を駆け上がった。

 これで終わる…こんな匂いともオサラバできる。

 何よりバイト料が、金が入る。

 入ったバイト料でパーティでも催したら奴等喜ぶんだろうか?と胸に秘めながら……

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