マスク・ド・ドリアン五度!!
桜花と白雪は、新しい力の『アモルフォファラス ティタム』のダメージにより学校を休んでいる。
図書資料室であの技の危険性について語る紅葉達。
「あんな技ゴメンなのら~…臭い匂いが武器ってのが、ひっっっじょうにイヤなのら~…」
コンビニに立ち寄って購入した焼き鳥をパクつきながら呟く。
「ってか美味しそうですね…」
喉を鳴らす梅雨。焼き鳥の匂いで食欲が湧いてくる。あのアホみたいな匂いと比べたら月とすっぽん。天と地の差だ。
「腹減って来る匂いだなぁ」
焼き鳥を羨ましそうに眺める二人。本格的にお腹が空いてきた。
「やらないのら。欲しいなら自分で買ってくるのら」
ビールのプルトップも開け、酒のツマミとする。
「私はアルコールは駄目ですが…焼き鳥は美味しそうですね」
そう言いながら、肉まんを出す梅雨。ちゃっかり自分も食べ物を持っていた。
「なんだよ~!!お前もいいモン持ってんじゃんか!!」
羨ましくなり、自分も買い物に行こうとする月夜。
「珊瑚~一緒にコンビニ行こうぜぇ~…って?」
珊瑚の姿が見えない。探す為にキョロキョロしている。
「珊瑚は朝練なのら」
そう言えば珊瑚は新体操部のエースだったな、とか思いながら、一人コンビニへと急いだ。
珊瑚は朝練に出ていたが、今日は早めに上がり、教室へと向かっていた。
「あれ…?何か騒がしいけど…」
そっと教室を覗いて見る。そして光の速さで教室から引いた。
そこには、自分以上に生きている価値のない男…若大路が机に乗ってクラスの女子に向かって手を伸ばして熱弁(?)をしていたからだ。
「久しぶりだね子猫ちゃん達~!!この若大路 光輝の事をよもや忘れてはいないだろうねぇ~!?」
若大路は普通はお見舞いに貰うだろう、フルーツバケットを何故か逆にクラスの女子に配っていた。
「若大路!テメェウゼェんだよ!果物配るな!!」
若大路に足を乗っけられている机を蹴る男子生徒。
「野蛮な下郎が!この若大路の高貴なる足を乗せている机を蹴るとは!!下郎の分際でこの若大路に接近するな!!」
やいのやいの騒がしい教室からスーッと離れて部室に向かう珊瑚。
「…ブツブツ…あの人…また来たんだ…ブツブツ…ってか、あの人転校してから一度も授業出てないけど…ブツブツ…」
珊瑚が呟いた通り、若大路は転校以来、朝に登校して来て怪我して入院の繰り返し。
つまり、進級が限り無く不可能な状態だったのだ。
「若大路君、私達女子は喉渇いちゃったわ。コンビニで何か買って来てくれると好きになっちゃうかも」
一人の女子生徒が若大路に掴み掛かる寸前の男子生徒の間に入って、若大路にお願いをした。
「す、好きになっちゃうかも!!……いいだろう子猫ちゃん!!僕がコンビニの飲み物全て買ってきてあげるよぉ!!」
若大路は鼻歌を歌いながら教室からスキップで出て行った。
「お、おい、いいのか?あんな事言って…?」
ざわめく教室。意外と洒落にならない事態になりそうな感じがしたのだ。
女子生徒はケロッとした顔で言い切る。
「どーせまた事故で怪我して来なくなるって」
ああ、成程。クラスメイト達は激しく同意し、頷く。
その前に、殆ど絡んでいない若大路が、クラス全員に嫌われていると言う事実。 若大路はいろいろと不憫な男だった。ウザイから自業自得だが。
「あーちくしょう。焼き鳥無かったぜぇ…」
コンビニの帰り、焼き鳥が無いのが悔しい月夜は、代わりにヤキイカを買っていた。
「無理に買わなくても…おおおっっっ!?」
棒忍愚が入っているお弁当箱入りの巾着を激しく揺する。
「ボケ!みんなが何か食ってると食いたくなるもんだろが!!」
「さ、酒のツマミじゃなくてもいいだろう」
揺すっているお弁当箱がいきなり止まる。
「ん?どうした月夜?」
月夜はこちらに向かって走ってくる男子生徒に目を奪われていた。棒忍愚の声など耳に入らない程、その男子生徒に意識を向けたのだ。
様子が気になった棒忍愚は、お弁当箱からノソノソと出る。
「!若大路!?マスク・ド・ドリアンじゃないか!!」
「ボケ……あんなのはストーカー野郎でいいんだよ…名前を覚えるのもムカつくぜ!!」
鬼のような眼差しで若大路を睨む月夜。その月夜に気付いて若大路の足が止まる。
「皇至道?皇至道 月夜じゃないかぁ~!!いやー!!超久しぶりぐはあ!!」
駆け寄ってきた若大路のボディに思いっ切り右拳を叩き込む。
「コラボケテメェ!なんんんんでっ!!こっちに来てんだよっっっっっ!!」
倒れている若大路に蹴りを乱打する月夜。全く容赦していなかった。
「ひえぇぇえ!!やめてやめてぇぇえ!!一度付き合った仲じゃないかぁ!!」
「付き合っただ?落とした消しゴム拾ってやっただけだろうがボケ!!どうすりゃソレが付き合う事になんだボケえ!!!」
苦々しい思い出が脳裏に過ぎっていた。
登下校に必ず待ち伏せされ、薔薇の花束を渡されたり。
体育の授業から帰って来たら制服が無くなっていた事もあった。
お昼休みには、必ず月夜の周りをクルクルと回っていた。
おかげで月夜には友達も居なくなってしまったのだ。
「テメェのおかげで学校生活がボロボロになったじゃねえかボケぇぇぇ!!!」
月夜は怒りと怨みに任せて、若大路の頬に全体重を乗せた蹴りをぶち込んだ。
「ひぎしゃつ!!」
派手にふっ飛ぶ若大路。肩で息を切らせながら月夜が言葉を続ける。
「それにテメェとは決着が付いてるハズだろ!!」
マスク・ド・ドリアンと戦った事を思い出す。
若大路のストーカー行為に追い詰められていた月夜の前に、棒忍愚が現れたのだ。
その時は特に気にしていなかったが、カンキョハカーイの怪人(雑魚)が学校内で暴れていたらしい。
イライラしていた月夜は、ラフレシアンとなり怪人を殲滅した。
そこに現れたのが若大路。自分の目には狂いが無かった、と改めて月夜に言い寄った。
若大路は自らの正体を明かし、ラフレシアンが国を大きくする鍵だと言いながら月夜を強引に故郷に連れて行こうとした。
しかし、ラフレシアン フルムーンナイトに変身した月夜の敵ではなく、簡単に撃破されたのだ。
「そんな事もあったねえ月夜…」
「名前を呼ぶんじゃねえよボケ!!気色悪いんだよ!!」
自分を抱きしめる月夜。鳥肌全開だった。
若大路はフラフラになりながら、ベルトのバックルにドリアンカードをねじ込む。
「まだ勝負は付いていないじゃないかぁ!!!」
黄金の光と悪臭と共に、マスク・ド・ドリアンが現れる。
「このボケが!!人通りが無かったから良かったものの…こんな場所で変身するなよ!!」
漆黒の変身携帯を掲げる。
「チェェンジ!!ラフレシアンんん!!」
眩い光に包まれて現れた黒いノースリーブの魔法少女みたいな姿!!
「闇夜を照らす満月…心捕らわれ暫し魅入る…だけど!!薄で跳ねてるバッタが不快い!!美少女戦士!!ラフレシアン フルムーンナイト!!」
月夜は殺気をビンビンに若大路に向けて睨んだ。
「フルムーンナイト…相変わらずいい脚だねぇ…網タイツが思いっ切りツボだよぉ…」
若大路は高校生なのに、網タイツに目が無かったのだ。
「ジロジロ見るなボケぇ!!マジ気持ち悪い!寒気がすんだよ!!」
月夜は棒忍愚を呼び、鎖鎌にトランスフォームさせる。
「じゃあこれで決着だよフルムーンナイト。キミが負けたら、僕のお嫁さんになって貰うからねぇ」
若大路はドリアングローブを装着する。
「これで決着だぁ?もう25回もボロボロにされたろボケ!!」
若大路は月夜に25回挑んで全敗していたのだ。
「今までは手加減してたんだよハニー!!」
猛然と向かってくる若大路。
「あああ!!死んで人生やり直せボケエエエエエ!!!」
鎖鎌が若大路の足に絡みつく。
「わ、わわわわわぁっ!!」
簡単に倒れる若大路。全く抵抗する気が無いように見える程実に呆気無く。
月夜はそのまま若大路を引き摺る。
「痛い痛い!ちょっと待って!!」
「知るかボケェェェェェ!!」
鎖鎌をグルングルン回す。若大路も当然、グルングルン回る。ジャイアントスイングのように。
「待って!吐く!吐く吐く吐く吐くううう!!」
「ここで吐くなボケェ!」
鎖鎌が若大路の足から外れた。
「うわああああああ!!」
若大路は遠くに飛んで行った。
耳を澄ますと、ドン!と地面に衝突した音が聞こえ、パパパパアァァ!!とクラクションの鳴る音が響き、うわああああ!!と悲鳴が聞こえ、ドガン!!と衝突する音が聞こえた。
「次は救急車かボケ!!」
吐き捨てるように言いながら、月夜は棒忍愚のトランスフォームを解く。
ピーポーピーポーピーポーピーポーピーポー……
確かに救急車のサイレンが聞こえた。
「毎回毎回同じパターンじゃねえか!!」
「確かに…これて26回同じ事しているな……」
ラフレシアン フルムーンナイトとマスク・ド・ドリアンの戦いは過去を振り返っても、殆ど同じ結末だったのだ。
「これで三週間はツラ見なくてすむぜ!!」
過去の戦いを振り返っても、若大路はだいたい三週間は怪我で学校を休んでいた。
放課後。
図書資料室にみんなを集めた月夜。
「…と、言う訳で、若大路がマスク・ド・ドリアンなんだよ」
「…ブツブツ…道理で…ブツブツ…二人とも嫌いな訳だわ…ブツブツ…」
「ギッタギタに壊してやるのら!!この次は譲るのら~…クスクスクスクス…」
「まぁ…とは言え、若大路なんて奴、知りませんけどねぇ…オホホ」
若大路はしつこいストーカーだと忠告したかった月夜。
「だから、若大路はストーカー…」
と、そこまで言ってやめた。
そう言えば、こいつ等はマスク・ド・ドリアンを退けていたのだ。
「そういや、なんで付きまとわれないんだオメー等?」
あいつと一瞬でも絡んだら最後、自我を失う程追い回されると言うのに。
「多分トラウマなのら」
トラウマなら自分も充分植え付けた筈だ。しかし、あの変態ストーカーが再戦を申し込んでいる雰囲気には見えない。
「…ブツブツ…こっちには何回も壊したい人がいるからね…ブツブツ…」
その理屈は追われたいより追う?何か少女マンガみたいな変態だが…
「実際私達の前には何度も現れているようですから、彼なりの理由はあるんでしょう。再戦したがらないのは多分もう一人とまだ戦っていないからですわ」
「あの変態がまだ手ェ付けてない奴?」
あの性格だから既に全員にボコられたと思ったが、まだ相手をしていない奴が居たとは…そっちの方が驚きだった。あり得ない。ラフレシアンは全員武闘派でチャンスがあったらフルボッコなのでは無かったか?
「桜花なのら」
「桜花!?嘘だろ!?」
桜花なら真っ先に瀕死の状態にしそうなものなのに!?またまた意外だった。
「…ブツブツ…桜花はお金にならない戦いはしないんだって…ブツブツ…」
「死にたきゃ金持ってこい!とか普通に言いそうですわ」
なんか…納得だ。まだ戦っていないのは単に桜花が拒否しているだけだったのか。その理由も実に桜花らしい。
「私だったら何回も壊せるから、寧ろウェルカムなのら。なんで拒否するんだろう?」
「…ブツブツ…身体中に穴を開けられたら…」
「お前実弾打ち込んだのかよ!?」
驚愕する月夜!!流石の変態も何十発も風穴を開けられたらトラウマにもなるだろう。と言うか本気で殺す気だったのかこのチビは!?
「グレートバリアリーフだって、でっかくなったモーニングスターでフルスイングしたのら」
「…ブツブツ…殺すつもりだったから…ブツブツ…生きていても仕方ない人だって思ったから…」
こいつ等マジか!?と月夜は恐怖した。
いくら自分でも本気で命を消そうとは思った事は無い。あの変態は本能で死を感じ取り、再戦を避けたのか!!
こいつ等に比べたら自分はマジ天使じゃねーか!!と、心底思った月夜だった。
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