奥義発動!!

 ヘドロ、シーオーツー、カドミウム、スイギン、デジベルがダイオキシンの前に正座して俯いていた。

【貴様等!!揃いも揃ってラフレシアンに敗れて来おってからに!!今日は丸一日正座して反省せよ!!】

 ヘドロ達は足がビリビリして崩したいも、ダイオキシンがキレているのでそれをしなかった。

 腐っても自分達の王である。一応ながら敬っている。あとキレているから怖い。

「しかしダイオキシン様、某はまだ何もしておりませぬぞ?」

「そうですよダイオキシン様!少なくとも私は一度しか対峙しておりませぬ!!そして新幹線でカステラを買いに戻ったくらいです!!」

 正座に不満タラタラなスイギンとデジベルは、せめて自分達の正座は解除してもらおうと頑張っていた。

 実際幌幌町に来てまともに戦っていない。貢献していないとも言えるが。カステラは別にして。

【だまれ!!貴様等が影で我を経営能力が無いとか、子供の組織とか悪態を突いているのを知らぬとも思っているのか!!】

 影口を叩いている事がバレていた支部長達は、超都合が悪くなり、口を閉ざして固まってしまった。と、言うよりもこの正座は私怨による仕置か!なんて、なんて…

「ダイオキシンよ。そんな事でキレんなよ。器がちっちぇえぜ?」

 皆の声を代わりに言ってくれた。流石シーペスト様…ダイオキシンなんかよりも遙かに人徳がある。

 幹部達は羨望の眼差しでシーペストを見ていた。

 そんなシーペストをギロリと睨むダイオキシン。

【ならば貴様が小娘共を倒して、こやつ等の罪の尻拭いをするがよい!!】

「何?そんな程度でいいのか?じゃあちょっと行ってくるぜ。お前等少し待っていろよ」

 軽く返事をしてダイオキシンの謁見の間から出ていくシーペスト。

 その後ろ姿を見て幹部達はシーペストを心の中で応援した。

 そして、シーペスト様が我等の王がなら良かったのに…とか思っていた。心から。マジで。


 お昼休みに中庭でお弁当を広げながら談笑している桜花達。

 男子生徒がチラチラと気にしている視線を感じながら食べるご飯は美味しいのだ!!

「すっかり肌寒くなっちゃったね」

 腕をさすり、寒くなったをアピールする桜花。

「朝なんてもっと寒いよ~?」

 今はまだマシと朝の辛さをアピールする珊瑚。

「大丈夫?風邪引かないでね?って、べ、別に心配なんかしていないんだからねっ!!」

 無理やりツンデレに持っていく紅葉。

「ごめんなさい…私が保健室を占領してるから、みんな迂闊に風邪も引けなくて…コホコホ」

 わざとらしく咳き込む白雪。

「カーディガンとか、あったかくした方がいいですわ」

 昨日買った新しいカーディガンを見せびらかす梅雨。

「柑橘系の果物を食べてビタミンCを摂取して。予防は大切よ」

 さり気なく博識をアピールする月夜。

 この頃各部屋でお喋りしていた桜花達。

 たまには一般生徒に紛れてご飯を食べないと、素が露わになり過ぎるからリハビリ代わりとなるからだ。

 男子の視線は自尊心を満たすのに適しているし。あと、女子の嫉妬の視線もだ。

 そんな平和な時間に、バカアアアアアン!!と、校舎が破壊させた音が響いた。

「まただわ…私怖い…」

 肩を震えさせる桜花。

「大丈夫よ桜花!早く逃げよう!!」

 桜花の肩にそっと手を添える。

「みんなも早く逃げましょう!!」

 月夜の発した言葉でパニックになり、逃げ惑う生徒達。

「今のうちよ…べ、別にあなた達の心配はしてないんだからねっ!!」

 紅葉の先導で人気の無い方に向かって走る桜花達。

 体育館裏に到達し、人気の無いのを確認し、脱力して頭を掻いた。

「小芝居しながら移動するのも面倒臭えよなあ」

「そんな事言ってもみんなも前で正々堂々と変身はできないのら。つか、したくないのら」

 まあ、そんな事を言っても始まらない。ここは割り切るしかない。

 桜花達は変身携帯を掲げ、ラフレシアンに変身した。

「正面玄関の方ですの!きゃん!」

 一番最初に駆け出すも、すっ転んでしまった白雪。

「早く立ちなさいな」

 梅雨は白雪の手を引っ張り立ち上がらせる。

「……しかし…今回は嫌な予感がしますわね…」

 梅雨は正面玄関の方を見て不安に駆られた。今回は今までとは何か違う…長年の風見鶏の感がそう告げていた…


 正面玄関に到着した桜花達。

 ただ突っ立って欠伸を噛み締め、目に涙を溜める蒼い髪の男に遭遇した途端…


 ゾクリ…


 一瞬足が竦み、一歩踏み出せなかった…!!


「テメェは……!!」

 桜花がたじろいでいる隙に、ラフレシアン達が従者達にトランスフォームを要求する。

「棘紅郎…来て…」

「黒乃守!!来るのら!!」

「不動王!!来なさいですの!!」

「ヤバい!!ヤバいですわ!!縁是留ぅ!!」

「!棒忍愚、来い!!」

 桜花を除く全てのラフレシアンが武器を装備した。

 そいつはラフレシアンをぐるりと見渡す。

「みんなやる気になって結構結構……ん?チェリーブロッサムはやらないのか?」

 細身の長身の敵…シーペストが無防備にラフレシアン達に近付いて行く!!

「テメェ…私達をナメんなクズが!!」

 桜花がシーペストに突っ込んで行くと同時に、ラフレシアン達は全ての武器をシーペストに放った!!

「チェリーブロッサムだけ生身か?じゃあ…どけ」

 シーペストは右腕を横に振って桜花の顔面に当てた。

「ぐわ!?」

 裏拳が入ったようになり、吹っ飛ぶ。

 ちょうどその時、ラフレシアン達の武器がシーペストを襲う!!

 シーペストの身体に、モーニングスターがハードヒットし、クロスボウの弾がほぼ全て着弾し、ビームキャノンが珍しく標的に命中し、ソーサーが顔面を斬りつけ、鎖鎌の分銅がシーペストの身体に絡まる!!

 完全に決まった!フルボッコだ!!誰もがそう思った。慢心じゃない。経験則で。

「小娘が随分血気盛んだな?」

 全ての攻撃を喰らいながらも、シーペストはラフレシアン達に向かって歩いていた!!

 流石にドキモを抜かれたラフレシアン!!

「き、効いてないのら!?」

「身体縛られてんのに!?なんで普通に歩ける!?」

 月夜は拘束を強めた。これ以上ない程拘束したつもりだったが、それ以上に強めた。

 しかしシーペストは止まらない…締めた拘束が歩幅で簡単に広がり、歩くのに全く影響しなかった!!

「化物かよ!?」

 怯むラフレシアン!!拘束を踏ん張っている月夜以外は全く動けない!!

 しかしその時、シーペストの後ろから、桜花が現れた!!

「ナメんなクズコラァァアアああああああ!!!」

 後ろから硬鞭をシーペストにブチ込む!!

「おっと。お前は要注意だったな」

 シーペストは桜花の虚を突いた攻撃に簡単に反応し、硬鞭を掴むと、桜花からひったくり、そのまま硬鞭を投げつけた。

「ぐわあ!!」

 咄嗟にガードした桜花。それでもガード越しにかなりの衝撃を与えて派手にふっ飛んだ。

「チェリーブロッサム!?」

「そ、そんな…チェリーブロッサムが…?」

「…ブツブツ…死ぬんだわ…ブツブツ…私達死ぬんだわ…ブツブツ…」

 いつだって敵を真正面から粉砕してきたチェリーブロッサムが…

 自分達を引っ張ってきた(筈の)チェリーブロッサムが…

 シーペストの前になすすべなく倒れてしまった…

 この事実はラフレシアンの心を折るに充分だった。珊瑚も、紅葉も、白雪も、月夜も…

 全員がその場に力無くへたり込む。梅雨だけは静かに後ずさりしていたが。見捨てて逃げる気満々だった。

「面倒だな…まとめてケリつけるか。」

 シーペストが手のひらを上に掲げた。

 するとシーペストの周りに水が集まり、球体状の水のボールとなった。

 それを見るや否や、梅雨が叫ぶ。

「あれは水じゃなく海水!!シーペストの奥義、バラストウェイブですわ!!」

「ふん、レイニーシーズン。そういやお前は元支部長だったな」

 シーペストは掲げた手のひらを下に振り下ろした。

 球体状の海水が津波となり、ラフレシアン達を飲み込む。

「待って待って待って待って!!全てはラフレシアンを油断させるお芝居…きゃあああああ!!!」

 シーペストは冷酷に笑みを浮かべて言った。

「裏切り者は一番最初に殺してやろう。まあ、ただ順番が一番なだけで時間はそんなに変わらないがな」

 その言葉通りにバラストウェイブは次々とラフレシアンを飲み込んで行った!!

「うわあああああ!なのらあ!!!」

「きゃぁぁぁあん!!」

「わああああああ!!」

「…ブツブツ…みんな…サヨナラ…ブツブツ…」

 津波に攫われ、そのまま地面に叩きつけられたラフレシアン達はピクリとも動かなかった。

 その様子を見て舌打ちするシーペスト。

「ふん、拍子抜けだな。もう少し足掻くと思ったんだが」

 立ち去ろうとした。終わったと思ったからだ。だが、シーペストはその歩みを止める事になる。

「ま、待てやクズ…!!」

 桜花がフラフラになりながらも立ち上がったのだ。

「チェリーブロッサムか。意外とタフだな」

 シーペストをギラッと睨む。その戦意、衰える事無く!!

 その桜花にトランスフォームを解除した雷太夫が駆け寄った。

「チェリーブロッサム!シーペストはヤバい!!一旦退いて…グエッ!!」

 テンプレの桜花による雷太夫を踏み付け!!

「ナメられたまんま逃げろっつーのかクズが!!」

 苛立ちを露わにする。八つ当たりだった。

「やってもいいが、無駄だぜチェリーブロッサム」

 シーペストの周りに再び海水が集まり出した。

「また津波かよ!!イライラすんなぁ!!」

 その津波によって仲間達はぶっ倒れた…挙句、自分も無様を晒した…!!

 桜花はシーペストに対して不快な気分が上昇する!!

「なんだ?だんだんと臭くなって来ているような…?」

 シーペストはたまらずに左手で鼻をつまんだ。

「テメェ本当に不快だぜクズ!!私をこんなに不快にさせたのはテメェが初めてだ!!」

 どんどん臭いが上昇していく桜花。心なしか空気が黄色に染まって行くような感覚!!

「ち、チェリーブロッサム?お、お前……ギャア!!」

 雷太夫は悶絶した!!

 従者の雷太夫すらも桜花の発生する匂いに当てられたのだ!!

「うわっ!!クサッ!!これ以上近寄るな!!」

 シーペストはたまらずバラストウェイブを繰り出した。

 津波が桜花を飲み込む。

「これでチェリーブロッサムもおかしな匂いを出せないだろう」

 安堵し、桜花を見るシーペストだが、その表情は直ぐに驚愕に変わる。

 桜花の周りは臭い匂いでバリアーが張られ、津波は桜花を攫えなかったのだ!!

 果たして匂いで津波から身を守れる程のバリアを張れるのかは不問にして戴きたい。

「俺のバラストウェイブを!?」

「あー!!不快だ!!テメェ本当に不快だ!!不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快!!!!!」

 桜花のイライラがMAXになったその時!!

 頭に咲いている花が凄まじい異臭を発する!!

 そのあまりの臭さに目が覚める珊瑚達!!

「な、何この殺人的な匂いは…ブツブツ…」

「チェリーブロッサムの頭の花から発生しているのら!!クサッ!!」

「頭の花に群がっていた小蠅が墜ちてるですの!!ウェッ!!」

「凄い!!超臭いですわチェリーブロッサム!!ウェッ!!」

「何だ!?どんな異常事態だ!?うわああっ!!クセェ!!」

 仲間である珊瑚達もあまりの臭さに桜花に近寄る事ができなかった。

「クズが!あの世に行け!!二度とツラ見せんな!!」

 頭上の花から圧制した臭気は桜花の身体に集まり、そして両手に移動する!!

「な、何だ!?何が起きる!?」

 シーペストはただ鼻をつまむだけで精一杯だ!!鼻をつまんで異常事態をただ傍観するしかなかった!!

「不快指数!」

 桜花は両腕を腰に当て踏ん張る。

「MAXぅぅぅうううううううううううううあああああ!!!」

 そして両腕をシーペストに向けて突き出した。

 桜花の手のひらから凄まじい臭気がシーペスト目掛けて襲い掛かる!!

「何!?」

 シーペストは慌てて海水を自分の周りに纏い、臭気をガードした。

 しかし!!

「クッセェェェェェェェェェ!!」

 あまりの臭さに集中力が欠けて、纏っている海水が乱れた!!

「し、しまっ……うわあああああ!!!」

 直撃を喰らう寸前!シーペストはテレポートし、撤退に成功した!!

「ああああああああ!!テメェ逃げんなクズゴラァァァ!!」

 シーペストが居た空間に怒りを叫ぶ桜花!!

 仲間であるラフレシアン達もあまりの出来事にポカンとしていた。


 放課後…

 シーペストによって全ての授業が中止となり、帰宅する珊瑚達。そこに桜花の姿は無い。

「…桜花はどこ行ったのら?」

「臭いが…ブツブツ…制服に染み付いて取れないから…ブツブツ…」

「人知れず帰宅した訳ですの?」

「あ~、あの臭いは私達でもヤバかったからなぁ」

 先にバックれた桜花の心境を理解した紅葉達。

「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!ちょっと!!ほっぺたを握りながら歩くのはやめて貰えませんこと!?」

 梅雨は月夜にほっぺたをギッチリ握られながら歩いていた。

「オメェ!ラフレシアン達を油断させるお芝居とか何とか言いやがったよなボケ!!」

 ギラッと梅雨を睨む月夜。それは殺意を露わにした目だった。

「あ、あれは冗談……痛いぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」

 梅雨の背後に回った紅葉が、梅雨の背中に蹴りを入れた。

「桜花が倒れた途端、寝返ろうとしやがったのら!!本当は切り刻みたいのら!!」

 チキチキとカッターの刃を出す紅葉。瞳が恐ろしく冷たかった。

 梅雨はビビって何も言わなかった。

 なのでほっぺたを握られたまま、中腰になって月夜の後を付いて行く羽目になった。自業自得だ。


 そして翌日…桜花は学校を休んだ。

 桜花を除くいつものメンバーは心配しながら下校中だ。いちおう本心である。外ヅラは崩してはいないけど。

「桜花どうしたんだろう…べ、別に心配してないけどっ!!」

 頬を赤らめてプイッとソッポを向く紅葉。

「まぁ、昨日の今日だからね。もしかしたら、あの技ってダメージが大きいのかもしれないわね」

 シャーペンをクルクル回しながら机に肘を付き、考える月夜。

「みんな!桜花にメールしてみたんだけど……」

 携帯に群がる紅葉達…

「ケホケホ…これじゃ学校に来れないね…」

 わざとらしい咳をしながら納得する白雪。

「んー…私なら死んじゃいたいかもしれませんね。と言うか下校中にこの話題はマズイと思いますが…正体バレの可能性がありますよね」

 本気で心配しているのか不明な梅雨。

 その気になるメールの返事は…


【昨日の臭いが身体から取れない~…雷太夫が言うには、一週間くらい取れないって】


 納得せざるを得なかった。臭いまま学校に来る事は、桜花じゃなくても誰も出来無いからだ。

 これからの戦いには不快指数MAXは必要だが、あの殺人臭を自分達が発生させるのはゾッとする。

 あの技が自分達も出来るかは不明だが、習得したいとは微塵たりとも思わなかった。

 

 一方、城のシーペストは昨日の戦闘から風呂に入り浸っていた。

「シーペスト様ぁん。まだ臭いが取れませんねぇん」

 鼻をつまんでボディソープを渡すカドミウム。

「ちくしょうチェリーブロッサム!擦りすぎてヒリヒリしてきたじゃねぇかよ!!」

 カドミウムからボディソープをひったくり、自らを泡まみれにした。

「シーペスト様、これは薔薇の香水ですが…」

 シーペストはシーオーツーから薔薇の香水をひったくり、ジャバジャバと頭にかけた。

「うわあっ!!臭いが混じってとんでもない事になったじゃねぇか!!」

 シーペストはシーオーツーに拳骨をくれた。

「シーペスト様。ヘチマのブラシです。これでお身体をお洗いになれば…」

「ヘチマタワシなんざクソ程の役にも立たねえだろうが!!ぶっ殺すぞお前!!」

 怒号を浴びせられてシュンとするヘドロ。

 人格者のシーペストが理不尽に部下を殴ったり怒ったりするとは…

 幹部達は改めてチェリーブロッサムに慄いた。実際は単なる八つ当たりなのだが。

「おのれラフレシアン チェリーブロッサム!!次は絶対に喰らう前にやってやる!!」

 シーペストは泣きながら身体をゴシゴシと洗った。

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