マスク・ド・ドリアン三度!!
朝練を終えて教室に戻る珊瑚。
扉を開けようとしたが、聞き慣れた声を耳にして、その手が止まる。
「ボクの入院中、寂しくなかったかい子猫ちゃん達~!!」
胸騒ぎを覚えつつも、そっと扉を少し開けて中の様子を窺う。
そこに居たのは若大路。 若大路は左手を胸に添え、右手を流し出してウインクしながらテンションを上げていた。
「バカ大路…ブツブツ…いや若大路君、また復活したんだ…ブツブツ…」
珊瑚は教室から踵を返し、さっきまでいたシャワー室に戻って行った。
全然話した事の無い若大路だが、珊瑚は以前、若大路に不快な思いをしたような気がしたのだ。
「…ブツブツ…なんか解らないけど…ブツブツ…あの人嫌い…ブツブツ…私より生きている価値ない人のような気がするわ…ブツブツ…」
珊瑚は若大路があのマスク・ド・ドリアンと同一人物だとは知らないのだが、不快な思いはマスク・ド・ドリアンから継承されているとは気が付かなかった。
と言うか若大路もマスク・ド・ドリアンもどうでもいい存在なので同一人物と疑う事が無かったのだ。
「若大路!!なんで退院してきたんだよ!ウゼェんだよお前!!」
子猫ちゃん子猫ちゃんと連発し、女子生徒を追い回す若大路にキレる男子生徒達。帰れコールが教室中に鳴り響く。
「黙れ下郎!!この若大路に憧れを抱くのは解るが、やっかみによる中傷は止めたまえ!!」
露骨に嫌悪感を露わにし、男子生徒に手でシッシッとやる若大路。その動作も超ウゼェのだ。
「うるせーバカ大路!殴られたいのか!!」
男子生徒が若大路に詰め寄る。殴れコールも鳴り響いた。
「寄るな下郎!!この若大路に嫉妬するのは構わないが、暴力など野蛮な行動は下郎共同士でやりたまえ!!」
露骨に嫌悪感を露わにし、男子生徒に手であっち行けと指を差す若大路。その動作が超ムカ付くのだ。
「若大路君逃げて!早く教室から出て行った方がいいわ!」
若大路は露骨に表情が明るくなった。
女子生徒から心配されたのだ。自分はイケメンなので当然だと思ったが、そう言えばそんな心配をされた記憶が無い。
まあ、その事にも気付かなかったのがバカ大路たる由縁なのだが。
「解ったよ子猫ちゃん!ボクの身を案じて発した言葉に素直に従うよぉ~!!」
若大路はスキップしながら教室から出て行った。鼻歌まで歌いながら。
教室から出て行って暫く、若大路に逃げるように促した女子生徒が拳を握って薄く笑った。
「これからバカ大路を教室から追い出すの、この手で行きましょう」
逃げてと言ったのは心配してではなく、鬱陶しいから教室から追い出すための言葉だったのだ。まあ、全員がそれを知っている訳だが。
ともあれ若大路はニコニコしながら焼却炉の方に歩いていった。
「ボクを案じて逃げろだなんて、なんて可愛い子猫ちゃんなんだ。ボクはあんな奴等、一撃なのに」
焼却炉の前に来た若大路は、あのドリアンのカードをポケットから取り出す。
「下郎共も子猫ちゃん達も、このボクが最強のヒーロー、マスク・ド・ドリアンだとは夢にも思うまい」
ニヤニヤする若大路だが、マスク・ド・ドリアンは一般生徒には顔が割れていないので、誰もマスク・ド・ドリアンなる変態マスクの存在など知らないのだ。
「そう言えば、ピンクのラフレシアンがまだ残っていたな。金が発生しないと戦わないとか言っていたが、絶対に戦って貰うぞ」
若大路はドリアンカードを無理やりベルトのバックルに押し込んだ。
金色の光からマスク・ド・ドリアンが現れる。
「早く来いピンクのラフレシアン…この若大路…いや、マスク・ド・ドリアンの女になるために!!」
若大路は右手を固く握り締め、不敵に笑った。
梅雨は考えていた。
桜花は屋上、珊瑚はシャワー室、紅葉は美術保管室、白雪は保健室、月夜は図書資料室と、みんなそれぞれ一人になれる空間を持っているのに…
「なぜ私だけ一人部屋が無いのでしょう?」
羨ましくなった梅雨は、クラスメートに色々リサーチして、誰も居ない、誰も来ない部屋を調べた。
「あのですね。幌幌高校で誰も使ってない部屋ってあるのですか?」
「えーっと、確か焼却炉脇の用務員室は、もう誰も居ない筈だけどね~」
「用務員のオッチャンがクビになっちゃったからね」
用務員室か…それなら少し掃除すれば大丈夫かも…
そんな訳で梅雨は焼却炉脇の用務員室に向かった。
用務員室に着いた梅雨はざっと部屋を見渡す。畳の六畳間。コンセントもある。
蛍光灯が点いた事から電気は通っている。それに小さいながらも台所もある。
お湯を沸かせるガスコンロも設置してある。
「うん!これならちょっと掃除すれば快適空間になりますね!」
梅雨はもうすぐで授業が始まるのにも関わらず、用務員室のお掃除を始めた。
ハタキをパタパタかけ、箒でサッサッと掃き、雑巾で畳を乾拭きする。
「ふぅ、お掃除はこれくらいにしておきましょうか。オーッホッホ!!」
梅雨は左手をほっぺたに当てて腰に右手を当て、高笑いした。まだ少し掃除をしなければならないが、疲れたので誤魔化す為に。
そして用務員室にあった椅子にどっかと腰を掛け休憩する。
「もう授業が始まってるけど、まぁいいでしょう。面倒だからこのままサボリましょう」
う~んと伸びをする梅雨。その時、外が金色に光った!!
「な、何何?眩しっ!」
目を細めて外を見ると…
「な、何?あのイボイボの仮面?クサッ!!」
梅雨は鼻をつまんだ。あんな匂い…自分達の他に発している者が居るなど、考えも及ばなかった。
「カンキョハカーイ?いや、違う…あんなの見た事ないですわ」
お弁当箱をひっくり返し、縁是留を出す。
「弁当箱に詰めるのは勘弁してくれと言っただろう?」
縁是留は文句を言うが、梅雨はドスルーし、黄色い不審者を指差した。
「縁是留、あれは何?」
「ん?どれどれ……」
縁是留は目玉をニュ~ンと伸ばして窓の外を見る。
「あれはマスク・ド・ドリアンだな。カンキョハカーイではないし、勿論ラフレシアンでもない。惑星ドリームアイランドの外れのドリアン公国の戦士だが、がっつり弱い」
がっつり弱い?
ならば!!と梅雨は変身し、マスク・ド・ドリアンの前に立つ!!
「来たかラフレシアン!って、緑のラフレシアン?新顔か?」
梅雨は名乗る!新たな敵を目の前にして!不審者は敵で良いだろう。
「恵みの新緑、育つ生命の鼓動に感動…だけど!!湿気含めば膨らむ髪が不快!!美少女戦士!!ラフレシアン レイニーシーズン!!」
キメポーズを作る梅雨。
「マスク・ド・ドリアン!!この幌幌高校に何用でして!?」
ビシッと指差す梅雨。
がっつり弱い相手ならば迷いなど微塵も無い。不審者は葬るまでなのだ!!
「このボクを知っているなんて、好感度抜群にアップしたよラフレシアン レイニーシーズン」
若大路は何か解らないがモジモジし始めた。マスクの隙間から微かに見える頬が赤くなっている。
「私達を何故狙います!?臭い果物め!!ウェッ、くせぇ!!」
梅雨は右手で若大路を差し、左手で鼻を摘んだ。
「ボクはドリアン公国の王子様なのさぁ~」
両手を広げて『どうだ!驚いたか!』みたいな態度を取る若大路。
「ふーん」
しかし梅雨は動じない。さっき縁是留から聞いたばかりなのだから。そしてドリアン公国の王子だろうが知った事ではない。重要なのは、がっつり弱い、この部分だ。
「ま、まぁ、そんな訳なんだけど、フラワーパークは惑星ドリームアイランドでもトップクラスの大きな国なんだよ~。王子のボクはフラワーパークと是非とも親密になりたいのさぁ。だから伝説の英雄ラフレシアンをお嫁さんにして、ラフレシア女王と親戚関係になりたくてねぇ~!!」
成る程、、そこそこの野心があるようだ。
「私達はラフレシア女王と何の面識も無いのですけれど…」
そうなのだ。梅雨達ラフレシアンはいきなり現れた従者に、ラフレシアンになるよう頼まれて、ラフレシアンになっているに過ぎないのだ。
「え?そ、そうなのかぁい?」
いきなりキョドる若大路。当てが外れたとばかりに肩も落としている。
「だからあなたの要望には全く応えられませんわ。解ったらさっさと失せなさい」
ビシッと指差す梅雨。しかし失せられたら困る。がっつり弱い敵はめったに存在しないのだ。ここを逃したらいつまでも裏切り者の風見鶏のレッテルを張られたまま。何としても名誉挽回、汚名返上したいところなのだ。
「ふ、ふん!か、関係ないね!伝説のヒロインがお嫁さんとなれば、隣国にも威張れるし、最悪慰め者にすればいいだけさっ!!」
若大路は梅雨に突進した。やった!これでレッテルを剥がす事が出来る!!と歓喜した。
しかしそれはレッテルでもなんでもない、本当の事だ。それを梅雨は気付いていない。
要するに黄色い変態を倒しても裏切り者の風見鶏はそのままなのだ。今と何も変わらないのだ。
「ええい!!」
ともあれ、梅雨は若大路の顔面にハイキックをぶち込んだ。
「ぶぶあっ!!」
若大路は派手にふっ飛ぶ。本当だ。がっつり弱かった。
「来なさい縁是留!!」
ここで速攻でとどめを刺す事にした梅雨。弱いのならばフルボッコも夢じゃない。
「本当に久しぶりのトランスフォームだな」
縁是留はカタツムリにあるまじきスピードで梅雨に近付く。
「失せなきゃ逝って貰いますわ変態仮面!!」
梅雨は変身携帯のボタンを押した!!
「ラフレシアン!01!」
変身携帯に数字を打ち込む梅雨。縁是留が平らになり、面積が倍となる。そして縁是留の周りには鋸の刃のような物が生えてきた。
「レイニーシーズンの武器、ソーサー!!しかも自在に手元に戻る円盤ですわ!!」
梅雨はソーサーを若大路に投げつけた。
「うわあああああああ!!ぎゃあ!!」
デカい丸ノコが襲ってくるようなものだ。若大路は頭を抱えて逃げる。しかしソーサーは若大路を執拗に追って来る!!
「くっ!!このままではマズイ!!一時撤退して対策を考えなければ…!!」
走り回ってその勢いで道路に飛び出してしまった若大路。
パパァ~ン!!
クラクションが鳴るので立ち止まり、鳴った方向を見る。
若大路に大型トラックが突っ込んで来た!!
「うわああああああああああああああああああああああああああ!!!」
どんどん迫ってくる大型トラック!!若大路は腰が抜けたように動けない!!
ぷちっ
キキキキーッ!!
若大路の悲鳴は変な音と共に止まった。なんと言うか…一歩遅かった音だった。
「…………何か急ブレーキの音がしましたわ」
縁是留のトランスフォームを解き、縁是留に話しかける梅雨。
「……多分問題ないだろう…けど…な…うん」
ピーポーピーポーピーポーピーポー……
「…………救急車が来ましたけれども」
「……死んではいないと思うけど…な…うん」
梅雨はいたたまれなくなり、変身を解き、用務員室に戻る。
そして椅子に腰をかけ、俯いて両手を固く握り締めた。
「………救急箱も必要かしら?」
「……備えあれば憂いなしって言うからな」
何とか現実逃避しようと必死の二人。用務員室に必要な物を無理やり考え、口に出した。
ファンファンファンファンファンファン……
「…………パトカーも来たようですね?」
「……変質者が多いから巡回しているんだよ」
「…………」
「…………」
二人はこれ以上口を開こうとはしなかったが、何故か祈らずにはいられなかった…
放課後、梅雨は自分専用用務員室に桜花達を招いた。
「へぇ?元々ヤニ臭いからタバコ吸い放題だなぁ」
ポケットからタバコを取り出して火を点ける桜花。
「灰皿も用意してましてよ。オッホッホ」
「そう言えば…ブツブツ…若大路君ダンプにハネられて入院したって…ブツブツ…」
いきなり珊瑚が話を変える。
「誰ですかそれ?」
灰皿を準備しながら梅雨が質問した。
「イケメンだけどウザイ馬鹿らしいのら」
「初耳ですの」
イケメンでも馬鹿はキライな白雪はさして興味も無さそうだった。
「一回見てみたいかなあ~」
プッカ~と煙を吐きながら桜花。
「そんな気は全く無いのに良く言うのら」
「でも…イケメンなのでしょう?」
イケメンなら多少の欠点は許容しよう。人前に出せて自慢できるレベルのイケメンなら。
「…ブツブツ…生きてる価値ない人…ブツブツ…マスク・ド・ドリアンみたい…ブツブツ…」
「マスク・ド・ドリアン?私今日撃破しましたわ!!」
胸を張り、威張る梅雨。
「おー梅雨も逃げずに叩けたって事は、あいつ相当ヘタレだなぁ?」
「私もラフレシアンですわよ?その気になれば…オッホッホ」
皆が盛り上がっている最中、月夜は渋い顔をしていた。しかし、誰もそれに気が付かなかった…
一方その頃、病院のベッドで包帯だらけになって寝ている若大路。
「王子、いい加減死にますよ?」
若大路の世話係がウンザリしながら若大路に諦めるよう、説得していた。
「ラフレシアンを手中に収めれば…イテッ!隣国にデカい顔ができるじゃないかぁ~!イテテッ!!」
絶対安静な若大路。意外と身体が頑丈で、死ぬまでには至らなかったのだ。それでもダンプに潰されたダメージは大きい。
「王子、フラワーパークは巨大ですぞ。ドリアン公国がどんなに頑張ってもたかが知れてます」
一応弱小国のドリアン公国のために頑張っていると知っている世話係だが、王子が不憫で不憫で仕方がない。
「王子、どうしてもと仰るのならば、この次は私めもお連れ下されば…何とか勝負になるやもしれません」
本当はやりたくなかったが、このままでは本当に死んでしまうと思った世話係は若大路と共に戦う事を決意した。
「そ、そうかぁい?助かるよぉ~!イテテテッ!!」
若大路は申し出を快く受けた。一人じゃ確実に負けるが二人なら…
包帯まみれなのに笑って痛みを堪える若大路。
世話係はただ溜め息をついて見ていた……!!
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