マスク・ド・ドリアン再び!!
朝、紅葉専用部室に集まって朝の一服をしている桜花。既に日課になりつつある。
「あ~あ、ただ温泉行っただけかよ~…いや、赤字か…」
桜花は紅葉を横目にし、タバコを吹かして零した。
紅葉は桜花から約束通り、新品のナイフを貰ってご機嫌だ。
真新しい、ウサギのぬいぐるみを紙袋から取り出し、愛おしそうに抱き締める。
「クスクスクスクス…」
ザクッ!
抱き締めながら、右手でナイフをぬいぐるみに刺す紅葉。
「はぁぁぁあ~…いいのらぁ~…新品のナイフは刺し心地が段違いなのら~…」
そうなったら紅葉は止まらない。理性が外れたように、ぬいぐるみに刺しまくる。
「クスクスクス…ザクザクザクザク…クスクスクスクス…ザクザクザクザク!!はあああ~ありがとー桜花ぁ…とっても気に入ったのらぁ~…」
ぬいぐるみを刺しまくりながら光悦している紅葉。
「お、おう…」
返事をする桜花…結構ドン引きしていた。
「そ、そういや珊瑚は?」
無理やり話題を変える桜花。猟奇現場をライブで見ているようで、イマイチ気分がよろしくないのだ。
「珊瑚はぁ~…クスクス…ザクザク!今日から朝練とか言っていたのら~…クスクス…ザクザクザクザクザクザク!!」
って事は、しばらく朝からネガティブオーラを感じなくても良い代わりに紅葉と二人きりと言う事だ。
少し背筋が寒くなる桜花だった。
「次はやっぱり野鳥とか食べれる物を捌きたいのら~…クスクスクスクスクスクス…」
確かに紅葉が捕えた野鳥を食べた事があり、それも美味しかったのだが…
「美少女の私には、あんな残酷物語は無理だなぁ~」
そう、紅葉の趣味を否定した。と言うか法律違反だろう。野鳥を捕えて食べるのは。
「何を今更偽善者ぶっているのら。桜花が一番美味しい美味しいって食べてたのら」
確かに美味しく頂いた桜花は、グゥの音も出なくなって黙ってしまった。
しかし、しかしだ。捕えた命を無駄にするこそ悪ではないか?ただ殺しただけの外道になるのではないか?ならば食べて供養した方が絶対にいいだろう。
桜花はそう言い聞かせて自分の心を誤魔化す。美味しかったからまた捕ってくれと言った事は無かった事にして欲しいが、兎に角供養だ。生き物を食べる事は。
「まあいいのら。次は鶏なのら。鶏なら誰も文句は言わないのら」
鶏ってデカくない!?それを捌いちゃうの!?
桜花はやはりドン引きした。しかしフライドチキンは好きだからいいかな、とも思っていた。
朝練を終えて教室に戻る珊瑚の耳に、聞き慣れない声が教室から聞こえて来る。
(…ブツブツ…誰かしら…ブツブツ…私を亡き者にしようとしている輩かしら…)
そう思いながら、教室を覗き見る。
「ご無沙汰だね子猫ちゃん達~!!この若大路 光輝が居なかったからって、暗くなっちゃダメダメ!!大丈夫!ボクは復帰したからぁ~!!」
若大路だった。
怪我で休学していた若大路が復学したのだ。
右足を机に乗せ、左手を胸に添え、右手を流し出しウィングしている。
(若大路君…復学したんだ…ブツブツ…それにしても、改めて変な人だわ…ブツブツ… いけない、私如きが他人を変だなんて言う資格ないわ…ブツブツ…)
珊瑚はそう思ったが、やはり関わりたく無かったので、予鈴が鳴るまでトイレに引きこもる事にした。
「それにしても子猫ちゃん達!なぜボクが入院したのに、お見舞いに来なかったんだぁい?照れなくて大丈夫なのにぃ!ボクはいつだってウェルカムなのさぁ!!」
しかし若大路を誰も見ようとはしない。
居るのに居ない。若大路を空気として、いや、無かった事にして扱っているのだ。
「子猫ちゃん達!ボクに取り巻きしないなら、他行っちゃうよぉ~!!」
しかし誰も反応しない。
「しょうがないなぁ~!ボクがそっちに行ってあげるよぉ!!」
若大路は一番固まっている女の子グループに近付く。途端に蜘蛛の子を散らすが如く、女の子が散らばった。
「恥ずかしがる事ないじゃないかぁ~!!!」
若大路が女の子達を追っ掛け始めた。すると一人の男子生徒が我慢できなくなり、キレた。
「若大路!お前ウゼェんだよ!嫌われてんのに気がつけよ!!!」
若大路は男子生徒を睨み付ける。
「男は話かけるな鬱陶しい!このイケメン若大路が嫌われる訳がないだろう!つまらない言い掛かりは止めたまえ!!」
そう、男子生徒から離れて文句を言った。取っ組み合いになれば痛い思いをするから離れたのだ。若大路はヘタレなのだ。
「うるせえ!何で退院してきたんだ!!」
男子生徒の質問(?)にソッポを向く若大路。答える気は無い、とアピールしているのだ。
「何で退院してきたのよっ!!」
女子生徒の質問(?)にニコニコしながら答える若大路。
「それはキミに早く会いたかったからだよぉ~!!」
「誰もお前に会いたくねぇんだよ!」
男子生徒の憤りに唾を床にペッと吐き出す若大路。言葉を発するのも勿体ないとアピールしているのだ。
「誰もアンタに会いたくないのよっ!!」
女子生徒の憤りにニコニコしながら答える若大路。
「大丈夫大丈夫!キミの心の内はちゃんと理解してるからぁ~!」
「若大路テメェ!!」
男子生徒が本格的に若大路にキレた。逃げる若大路にズンズンと近付いていく。
「近付くな貴様!このイケメン若大路は貴様如き下等生物と同じ空気は吸いたくないのだ!それ位理解したまえ下郎!」
若大路はとっても不愉快な表情を浮かべて教室からズンズンと出て行った。
しかし脚はガクガク震えていた。
ビビったのだ。そして逃走したのだ。
若大路はブツブツ言いながら焼却炉の前に来ていた。
「このイケメン若大路に嫉妬の侮辱など…!だから男はキライなのさ!」
若大路はドリアンのCGが描かれているカードをポケットから取り出す。
「この前は不覚を取ってしまったけど、今度はそうはいかないぞラフレシアン!!」
若大路はカードをベルトのバックルに無理やり押し込んだ。
しかし、クラスの男子に恐れをなして逃走した若大路がラフレシアンに挑むとか、本気でこの男の思考が理解できない。
いや、彼にとっては女子は愛でる存在だ。か弱い地球の女子だろうと、カンキョハカーイをぶっ叩き続けるラフレシアンであろうとも同じなのだ!!
黄金の光が降り注ぎ、同時に鼻を摘む臭気が発生する。
「マスク・ド・ドリアン参上!!」
若大路はマスク・ド・ドリアンに変身した。
「ハハハ…来いラフレシアン!この若大路…おっと、マスク・ド・ドリアンが君達を迎えに来たぞ!ハァッハッハッ!!」
マスク・ド・ドリアンはラフレシアンをカンキョハカーイとは別の理由で狙っていた。
マスク・ド・ドリアンはラフレシアンをおびき寄せるべく、臭気を発する。
「早く来いラフレシアン!今日こそキミを我が手に抱き止めよう!!」
若大路は前回入院する程のダメージを受けたにも関わらず、ラフレシアンを自分の物にしようとしているのだ!!
トイレに引きこもっていた珊瑚の鼻に、かつて感じた事のある匂いが鼻に付く。
「…ブツブツ…トゲトゲの被り物していた男の人…ブツブツ…再び現れたのかしら…ブツブツ…私を陥れようとやって来たのかしら…ブツブツ…」
珊瑚は棘紅郎の入っている巾着を持ち、トイレから匂いの元を辿る。
「また焼却炉の方から…ブツブツ…私を燃やして証拠隠滅を計ろうと言うのかしら…ブツブツ…」
ブツブツ言いながら焼却炉の近くの小屋に到着した珊瑚。
「よう。またクセェ果物が現れたようだな?」
「今度こそ壊れるところを見るのら~…クスクスクスクス…」
到着した桜花と紅葉の話で、匂いの元は黄色い変態だと知った珊瑚。若干肩すかしなのは否めなかった。
「この臭い…来たかラフレシアン!」
マスク・ド・ドリアンは桜花達を見渡す。
「また来たのかクズ!!」
「…ブツブツ…暇な人…ブツブツ…」
「今度は逃げるななのら~…クスクスクス…」
ラフレシアン達はマスク・ド・ドリアンを取り囲む。逃がさないように。
「今度は不覚は取らないぞラフレシアン!ボクの本気を見せてやろう!」
マスク・ド・ドリアンは両腕を曲げて股を開き、力を込める。某サイヤ人みたいに。
「はあぁぁぁぁあ……」
マスク・ド・ドリアンの両拳に、ドリアンの形を象ったグローブが装着された。
「はぁあ!!これがマスク・ド・ドリアンの武器!!ドリアングローブだ!!」
ドリアンのトゲトゲがグローブにくっ付いてるような、見た目は痛そうなグローブだ。当たれば。
「その前に、オメー別の町からやって来たんだよな?そこにもラフレシアンが居たとか?どの町で何てラフレシアンだ?」
桜花は気になっていた事を尋ねた。館館町の白いラフレシアンの情報を持っているかもしれないと。
「ボクはここに来る前は
崎崎町の黒いラフレシアン…館館町のホワイトスノーブリザードとは違うのか…と言うか結構いるんだラフレシアン。
「よし、解った。後は勝手にやれよ」
桜花は途端にマスク・ド・ドリアンから興味を失った。聞きたい事を聞けたのだ。これ以上黄色い変態に用は無い。
「ま、待ちたまえ!このボクと戦…」
「私は金になんねー事はやらないって言ったろクズ!!話くらい覚えてろや!!この能無しの変態野郎が!!ぶっ殺すぞ!!」
マスク・ド・ドリアンが勝負を所望するも、桜花が凄い剣幕でマスク・ド・ドリアンを黙らせる。完全にビビって萎縮してしまった。
「大丈夫なのら。ちゃんと私が相手してあげるのら~…クスクスクス…」
「い、いや、キミは勘弁だ。前回でキミはトラウマになってしまったから…」
やる気満々の紅葉から目を逸らしてもう一人のブルーのラフレシアンに狙いを定めた。
「キ、キミ!キミがボクの相手だ!!ボクが勝ったらキミを連れて行く!!」
指名を受けた珊瑚は、ズーンと暗くなった。まあ、指名されてもされなくても暗くなる事には違いないが。
「…ブツブツ…やっぱり私はナメられてるんだわ…ブツブツ…私なら楽勝だと思われているんだわ…ブツブツ…」
そう言いながら、珊瑚は変身携帯に01と入力した。
棘紅郎が巨大なトゲの塊となり、モーニングスターにトランスフォームする。
「え?えええええ!????」
若大路は自分のグローブとモーニングスターを見比べた。何度も何度も何度も何度も。
同じトゲトゲの球体状なのに、見た目から破壊力が段違いと解る。あれ?これボク死ぬんじゃ?
「…ブツブツ…勝てるか解らないけど…ブツブツ…」
珊瑚はモーニングスターを振った。あのデカい見た目鉄球を簡単に振り回す珊瑚に若大路は唖然とした。
「なんてバカデカい鉄球だ…当たればヤバい!!ボクは確実に死んでしまう!!」
向かって来るモーニングスター。若大路はかろうじて直撃を回避した。背中を地面に打って無様を晒す。しかし躱せた。これは奇跡だ。二度目は無い。
「躱された…ブツブツ…やはり私の攻撃なんて通用しないんだわ…ブツブツ…私はあのバカみたいなマスク男に連れ去られ、慰み者に…ブツブツ…」
青くなっていた若大路は安堵した。躱されたショックの方が大きかったのかブツブツ言っている。だったら主導権は此方にある。
「いきなり攻撃とは不躾じゃないか?名前くらい教えてくれてもいいだろうハニー?」
既に勝利を確信しているのか、カッコつけている。場合によってはハッタリも充分有効なのだ。
「私は…青い海、気分爽快、開放感万歳…だけど、プカプカ浮いてるクラゲが不快…美少女戦士!!ラフレシアン グレートバリアリーフ!!」
「グレートバリアリーフか。じゃあ決着だよハニー!!」
若大路はドリアングローブを構え、珊瑚に接近する。主導権がこちらにある以上、実力差がかなりあってもなんとかなる。
そして勝ったあかつきには…
若大路の口元が嫌らしく笑っていた。
ぞわわわわっ!
珊瑚の全身に鳥肌が立つ。
「嫌だわ…ブツブツ…あんなキモいイタい人…ブツブツ…私以上に生きている価値の無い人…ブツブツ…初めてよ…」
マスク・ド・ドリアンに不快を感じた珊瑚。特にあのいやらしい笑みが一番ムカついたしキモかった。その不快感に呼応し、頭のデカい花の臭気が増し、モーニングスターが直径2メートル程に倍化した!!
「うわあああああああ!!デカい!!デカ過ぎる!!
若大路は真っ青になった。黄色いマスク越しでもはっきりと分かる。
「えい」
珊瑚は倍加したモーニングスターを奮った。
「ひえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええええええええ!!!!」
再び躱そうと飛び跳ねた若大路だが、巨大過ぎて躱せない。
迫り来るモーニングスター。若大路はそれを号泣しながら見つめている。
ドガアアアアアアアアアアッ!!
モーニングスターがブチ当たる。と言うか逆に飛び跳ねたせいでモロに喰らってしまった!大人しく屈んでいれば…首から上が消し飛んでいたかもしれないが。
「うわああああああああああああああああああああああああ!!!」
キラッ!!
……マスク・ド・ドリアンは星になった…
「…勝った…の?」
「勝ったどころか、あの変態死んだんじゃねーか…」
「派手に飛んだのら…姿が見えなくなったのら…」
珊瑚は巨大になったモーニングスターをしげしげと見つめた。ちょっと不愉快に 思った程度でここまで威力が違うのか、と。単にデカくなった分だけ破壊力が増しただけだが。
棘紅郎のトランスフォームしたモーニングスターは珊瑚のテンションにより、大きさが変化するようだ。
普段ネガティブな珊瑚ならば50センチ程度だが、マスク・ド・ドリアンを不愉快に感じた珊瑚のテンションで、2メートルまでデカくなったのだ。
「よかった…グレートバリアリーフが普段温厚でよ…」
温厚じゃなく自虐なのだが。
「あの程度であんな大きさなら、本気で不愉快になったらどんだけデカくなるのら…」
あの程度じゃない。マスク・ド・ドリアンは珊瑚が出会った人間の中でもトップを争う程の不快人物だ。
ともあれ、桜花と紅葉は珊瑚に軽くビビった。
コイツと友達で良かったー。とか思っていた。敵だったらゾッとし過ぎる。つうかやっぱ友達なのか。
その日の放課後。帰路に付く桜花達。自然と再登校してきた若大路の話題になる。
「そういや、若大路君、朝登校してたけど、酷い怪我してまた入院だって」
「ええ~っ?どうして?」
「復学一時間足らずで、また入院?」
「大型のトラックに跳ねられたような怪我したみたいよ」
まさか若大路をそこまで追い込んだのは自分だと知らずに心配そう(上辺だけ)の珊瑚。
「ふ~ん…噂の転校生、見たかったんだけどなぁ~…」
とは言いながら、全く興味など無い桜花。
「なんかツいてない人ね…べ、別に心配してないけどねっ!」
本気で心配していない紅葉。
それよりも気掛かりなのは、黄色い変態が言った崎崎町の黒いラフレシアンの存在だ。
全てのカンキョハカーイが幌幌町に集うらしい今、黒いラフレシアンは崎崎町から駆け付けてくるのだろうか?
そしてその実力は?
しかし桜花は(私の方が絶対可愛いから、何の心配もねーけどなぁ)と、全く関係ない事を思っていた。
崎崎町で、荷物の整理をしている一人の女の子…
キツめの顔だが、そこが可愛い。眼鏡を掛けているから知的要素も盛り込まれている。
さながらクールビューティーと言ったところか。
「幌幌町に引っ越しなんてな…つくづくカンキョハカーイとマスク・ド・ドリアンと縁があるんだなぁ…」
函館の朝市で売っているような、立派な毛蟹みたいな黒い物体が言葉を発した。
女の子は作業の手を止め、空を仰いで溜め息をついた。
「お父さんの転勤なんだから、仕方ないでしょう。結局カンキョハカーイとも決着つけなきゃいけないから好都合だわ」
強がっているようだが、その表情はウンザリしていた。
「まぁ、それも定めか。ラフレシアン フルムーンナイト…」
女の子はキッと黒い毛蟹みたいな物体を睨む。
「それを言うのはやめて!私は今変身していないのよ!」
毛蟹みたいな黒い物体は申し訳なさそうに沈黙する。
「…まぁいいわ。またカンキョハカーイと変態との戦いが始まるのよ。頼むわよ?」
女の子は黒い物体に微笑んだ。しかし、それはどことなく嘘臭い微笑みだった…
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