温泉宿での攻防!!

 この日は珍しく珊瑚が桜花に声をかけて来た。

「桜花、温泉の宿泊券が三枚あるんだけど、行かない?」

 爽やかにニカッとしながら宿泊券を両手に広げて見せた。

「温泉?いいわね!」

 微笑み返す桜花。ここからは副音声()内を交えてお送りしたい。

「どうしたのこれ?」

(でかした珊瑚!!売っぱらって金にしようぜ!!)

「本当は次のお休みに家族と行く事になってたんだけど、お父さんギックリ腰やっちゃってね~」

(ダメよ…ブツブツ…別に私一人でも良かったんだけど、お父さんが、お前一人じゃ部屋から一歩も出ないだろって言われたから…ブツブツ…)

「行きたい行きたい!連れて行って!!」

(チッ、しゃーねーな…私達のプライベートショット写して売りさばくか…)

「オッケー!紅葉も誘うわよ!」

(…ブツブツ…私の写真なんか…ブツブツ…トイレットペーパーの代わりになるに違いないわ…ブツブツ…私の写真でお尻拭くんだわ…ブツブツ…)

 表面上は互いにニコニコしていたので、通りかかった男子生徒がポワァ~ンと見惚れていた。

 が、中身は金とネガティブで会話しているとは誰も気が付かないのだ!!

 紅葉のクラスへ行き、紅葉を呼び出す桜花と珊瑚。

「と、言う訳だけど、温泉、行くでしょ?」

 あくまでも爽やかに笑う珊瑚。

「温泉か~。出展する絵を仕上げようって思ってたんだけど…」

 イマイチ乗り気じゃない紅葉に桜花が説得を開始する。

「いいじゃない!行きましょうよ!きっと楽しいよ!」

 パンと手を叩き、目をキラキラさせた桜花。ここからは副音声()内を交えてお送りしたい。

「確かに行きたいんだけどぉ~…」

(何企んでるのら?桜花はチケットをお金に替える筈なのら!!)

「ご飯も美味しいよ!たまにはゆっくりしなきゃ!!」

(流石だ紅葉。私達のプライベートショット写して売りさばこうかなと思ってなぁ!!)

「う~ん、う~ん、う~ん…」

(ふざけるんじゃないのら!!何で私が桜花のお小遣い稼ぎに協力しなきゃならないのら!!)

「ね?一緒に背中流しっこしよ~よぉ~!!」

(儲けたらナイフ買ってやっからよ!!)

 紅葉の頬がボッと赤くなり、プイッとソッポを向いた。

「し、仕方ないわねっ!全く!!私がいないとダメなんだからっ!!」

 桜花の右拳がガッツポーズを作った。

 

 そんな訳でお休みの日。温泉一泊旅行をする桜花達は、到着した温泉宿でマッタリとしていた。

「空気美味しいぃ~!!」

 両手を広げて伸びをする桜花。

「来て良かったね。森林浴も楽しめるしね。ところで周りに誰か居るのかな?」

 鞄からタオルを出した珊瑚。お風呂に入るつもりだ。折角の温泉なのだから当然だ。

「誰も居ないんじゃないかなぁ?お客さん私達の他誰も居なかったし~」

 紅葉がニコニコしながら、窓からワイヤーを吊した。

「だよなー!誰か居たらリラックス出来ねーしな!!」

 ドッカと胡座を組み、タバコに火を点ける桜花。

「良かった…ブツブツ…誰も居なくて…ブツブツ…私みたいな女の子が温泉に入るなんて、罰当たりだと思われる所だったわ…ブツブツ…」

 珊瑚が部屋の隅に移動し、体育座りをしながら俯く。

「かかったのら!!ここいらの野鳥は警戒心が薄いのら~!!」

 吊したワイヤーに野鳥がかかり、ご機嫌の紅葉。

 三人とも、真の意味でリラックス出来ているようだった。

「つか温泉行こうぜ温泉!!盗撮されたっぽく写真撮るんだ!!」

「…ブツブツ…私の着替えをネットで晒そうと言うのね…ブツブツ…そして全国の男子の慰め者になれって…ブツブツ…あ、私ごときの裸が慰める事なんて不可能か…ブツブツ…私よりも温泉につかっている猿の方が遙かにマシだからね…ブツブツ…」

「いいけどバスタオルは絶対に巻くのら。クソ男子に私の裸体は勿体ないのら」

 驚くべきことに撮影はいいらしい。しかし流石に裸は勘弁らしかった。それは桜花も同意だったので、それ以上は言わなかった。三人は早速、お風呂に向かう事にした。金儲けのために。

 場所は露店風呂に決定した。風景と相まって美し過ぎる自分の肢体が映えて高値で売れると踏んだからだ。

 向かう道中、桜花達の鼻に嗅いだ事のある、親しみ深い匂いを感じた。

「お、おい!?」

「棘紅郎達を…ブツブツ…連れて来てない時に…ブツブツ…やはり死ねと言う事ね…ブツブツ…」

「とにかく行ってみるのら」

 桜花達は臭いの元に足早に、静かに向かった。

 そこは露天風呂だ。自分の撮影場所と決めた場所だった。

 桜花達は柱の影に隠れて様子を伺う。

「カンキョハカーイかアレ?」

 桜花の指指す先には、坊主頭の青白い、虚無僧みたいな男がいた。

 その坊主モドキは面倒そうに誰かに向かって話している。

「おいおい、そう構えるな。それがしはここを暫く離れるが故、別れの挨拶をだな…」

どうやら坊主モドキは、この地を離れるようだ。

館館町たてたてちょうから離れて、どこで悪さをする気なんですの?」

 桜花達はギョッとした。

「白い…ブツブツ…ラフレシアン?」

 対峙している女の子は、真っ白な魔法少女みたいな物を着ていた。

 スカートは桜花よりも長めだが、やはり動けば必ずパンツが見える長さだった。フリルのレース。その柄は雪の結晶みたいだ。

 そしてやはり、頭部に真っ白い、バカデカい花を咲かせていた。

 女の子は両手を頭に当て、そのまま後ろに両手を流し、左手を後ろに回し、右手をくの字に曲げる。そしてゆっくりターンをしていく。

「舞い散る雪…手のひら触れると溶けて無くなり儚くて…だけど!!寒いと垂れる鼻水が不快っ…!!美少女戦士!ラフレシアン ホワイトスノーブリザード!!」

 そのまま右手を唇まで持って行き、人差し指と中指で投げキッスのポーズを作る。

 これがホワイトスノーブリザードのキメポーズだった。

 ラフレシアン ホワイトスノーブリザードは坊主モドキに指を差す。

「館館町からは一歩も出さないですの!!」

 それを聞いた紅葉は感動した。

「白いラフレシアンは真っ当な正義なのら…」

 金の為の桜花、死に場所を求めている珊瑚、そして壊したいだけの自分と比べると、立派なヒロインだと思ったのだ。

「お主はシツコイからのう…いい加減にして貰いたいのだが…」

 坊主モドキは困った表情をした。敵がここまで弱気な態度を取るとは、ホワイトスノーブリザードは相当な手練れのようだ。

「加勢すっか」

 そのホワイトスノーブリザードに貸を作っておけば後々良い事があるかも、と思い、桜花は加勢を提案する。二人の異を唱える事無く頷いた。

 そして三人は変身した。恥ずかしい格好のスーパーヒロインに!!

「待て待て待てぇい!!」

 突如聞こえた声に、坊主モドキと白いラフレシアンは互いから視線を外して其方を向いた。

「咲き誇る桜…目にも艶やか心も豊か…だけど!!湧いて出て来る毛虫が不快ぃ…!!美少女戦士!!ラフレシアン チェリーブロッサム!!」

「青い海…気分爽快、開放感万歳…だけど…プカプカ浮いてるクラゲが不快…美少女戦士!!ラフレシアン グレートバリアリーフ!!」

「燃ゆる山…緑に黄色にそして赤…だけど!!銀杏臭いし、かぶれて不快ぃぃぃ!!美少女戦士!!ラフレシアン レッドリーブス!!」

 それぞれのキメポーズを取った後、桜花はビシッと坊主モドキに指を指した。

「おいハゲコラ!テメェカンキョハカーイか?」

 坊主モドキは驚いたが、直ぐに平静を装った。

「そうか、お主等が幌幌町のラフレシアンか。いかにも、某はカンキョハカーイ館館町支部長…スイギン!!」

 スイギンは怪しく笑う。

「幌幌町のラフレシアン?他にもラフレシアンがいたんですの?」

 白いラフレシアンはすこぶる驚いていた。しかもキメポーズも自分とおなじく持っていた。アレは自分でやっている分には分からなかったが、こうして第三者の視点で改めて見てみると物凄く恥ずかしい。自分もそう見られていたのか、と、暫し呆然とする。

「カンキョハカーイならぶっ潰すに決まってんだろクズ!!」

 スイギンの真正面に桜花。そして右に珊瑚、左に紅葉が立ち塞がる。逃げ道を塞ぐ形だ。若干間合いが開いているが、それはスイギンがどう動いても対処可能にした結果だった。

「…ブツブツ…三対一…いえ、四対一だけど、逃げ切れると思ってるんだわ…ブツブツ…私の所が穴とか思っているに違いないわ…ブツブツ…」

「こんな所で壊せるなんて思ってもみなかったのら~…クスクスクス…」

 温泉に来たからか絶好調の二人。まだ疲れを癒してもいないと言うのに。

 やはり旅は色々と解放してしまうものだろう。正確に言えばこれから解放しようとしているのだろう。具体的に言えば日頃の鬱憤とか。

「焦らずとも、いずれお主等の元に現れると言うのに…フッフッフ…」

 含み笑いをするスイギン。

「どう言う事だよハゲコラ!!」

 一歩踏み出す桜花達!!

「ダイオキシン様の命により、幌幌町に全ての支部長が集まるのだ。お主等は本気で我等の王を怒らせたのだよ!!」

 スイギンはそのままジャンプし、宙に浮いた。

「あっ!?逃げるかハゲコラ!!タイマンで勝負しろクズ!!」

「このスイギン、無謀な勝負はせぬ。ああ、幌幌町のラフレシアンよ、一つ忠告してやろう。ホワイトスノーブリザードを仲間にするのは止めた方が良いぞ。奴は厄災を呼ぶ…フッフッフッフッフッフッフッフッフ…」

 スイギンの姿は、そのまま掻き消すよう消えた…

「あーっ!?ちくしょう!!金になってたのに!!」

「…ブツブツ…私の所じゃなく頭上から…ブツブツ…」

「つまんないのら!!ガッタガタにしようと思ったのに!!」

 残念がる桜花達に、白いラフレシアン…ラフレシアン ホワイトスノーブリザードが近付いて来た。

「…この辺は夜冷え込むですの。早く宿に帰った方がよろしいですの」

 桜花を見据えて、そして目を伏せ、通り過ぎる白いラフレシアン。

「よく温泉宿に泊まってるって解ったな?」

 白いラフレシアンは振り向きもせず、

「幌幌町から来られたのでしょう?ならば温泉しかないですの。この辺は温泉しかありませんからね」

 白いラフレシアンはそのまま闇に消えた。別に名推理な訳でもないが、最後にドヤ顔をしたのが見えた。それは、闇に紛れて消えた事でミステリアスを演出し、キレ者っぽく思わせた事に成功した、とのドヤ顔だったが、桜花達はそんな事に気付く事も無い。何故なら、館館町は本当に温泉しか無いからだ。

「マトモそうなラフレシアンだったのら」

 桜花達は自分達がマトモでは無い事を知っている。故に正義で動いているホワイトスノーブリザードに驚嘆したのは事実だった。そこは誇ってもいいと思う。キレ者の演出はポシャッたにしても。

 しかしスイギンの去り際の言葉。ホワイトスノーブリザードを仲間にすると後悔する…あれはどういう意味なのだろうか?

 シリアスに考えている桜花達だが、

 グゥゥゥ~…

 桜花のお腹が鳴って台無しになった。

「美少女の私がお腹鳴るなんて!!有り得ないぜっっ!!」

 頭を掻き毟る桜花を余所に、珊瑚と紅葉は、取り敢えず宿に帰り、ご飯を食べながら考える事にした。

 変身を解いた桜花達は、せっかくだから、ご飯より先に露天風呂に行く事にした。真の理由はサービスショットの撮影である。

「結構いい雰囲気じゃねーかよ」

 撮影抜きにしてもなかなかの景色だった。何より他の客がいない。まさに開放的空間だった。

 桜花は早速脱衣場に行き、服を高速で脱ぎ捨てる。

「きゃあ!!」

 と、露天風呂の近くの林で悲鳴が聞こえてきたではないか。

「カンキョハカーイの坊主がまだいたのら!!早く駆け付けるのら!!」

 珊瑚と紅葉は悲鳴の聞こえた林にダッシュした。

「おい!私もう全部脱いじゃったんだよ!!ちょっと待ってくれよ!!」

 衣類を全て脱ぎ、露天風呂に入る寸前だった桜花は、一人乗り遅れる形となった。

「この美少女の私のすっ裸を誰かに見られねーよう、ちゃんと着替えなきゃな~」

 桜花は一人でタラタラと服を着直す。

「…ブツブツ…もし、カンキョハカーイに襲われた人だったら…ブツブツ…そしてその人が死んだら…ブツブツ…桜花の責任になるのかしら…ブツブツ…連帯責任で私達も重い罰を受けるのかしら…ブツブツ…いけない…ブツブツ…桜花のせいにしちゃ…ブツブツ…全て私が産まれて来たせいね…ブツブツ…」

「だーっ!解ったっつーの!なるべく早く着直すから待ってろっ!!」

 桜花は速攻で着替え、悲鳴の聞こえた林にダッシュで向かった。

 林の中にはパジャマ姿の女の子が倒れていた。

「だ、大丈夫ですか!?」

 流石面倒見の良い珊瑚(外ズラ使用)、直ぐ様女の子を抱きかかえる。

 女の子は、倒れた時に付着したのか、髪に土が付いていた。その土を軽く払う珊瑚。

「…んっ…」

 女の子は眉根を寄せて、目を開ける。

「良かった!気が付いた!!」

「…あ、大丈夫…ちょっと転んじゃって…」

 女の子は自力で立ち上がろうとした。

「つっ…!!」

 しかし、左足首を押さえ、蹲ってしまった。どうやら脚を挫いてしまったようだ。

「無理はダメよ。私達が送ってあげるから」

 珊瑚は女の子に肩を貸した。そして驚いた。

 身長は自分よりも高い位なのにも関わらず、軽い!!

 自分も新体操をやっているから、体重は軽い方なのだが、更に軽かった。

 なのに、胸は珊瑚を凌駕していた!!

「ありがとう…」

 驚いている珊瑚に向けて女の子は弱々しく笑う。しかし痛むのか、顔色が悪い。 身体が弱いんじゃないか?と思う程に青白かった。

「いいえ!さぁ、案内して!」

 女の子は珊瑚に身体を預け、道案内をした。儚げな笑顔を振り撒いて。

 そしてシャンプーか石鹸の匂いが鼻に付いたが、何故か、いつも嗅いでいる匂いを女の子から感じた…


「あ、あれ?ここは?」

 女の子から案内されたのは、自分達が宿泊している温泉宿だった。

「え、アナタ、ここの人?」

 女の子はニコッと微笑む。

「お客様でしたか。私はこの旅館の娘です。天乃橋白雪あまのばししらゆきと、申します…」

 女の子…白雪は足を揃え、御辞儀をした。

「白雪!どこ行ってたんだ!!」

「お前は外に出歩いちゃダメでしょう…」

 温泉宿から、女将さんと大将、おそらく白雪の両親だろう。その二人が慌てて白雪を抱き止める。

「ごめんなさい…」

 白雪は女将に抱かれながら寄りかかった。

 女将さんと大将は桜花達に向き合い、辞儀をした。

「お三人様が娘を助けて下さったのですか。お客様にご迷惑をおかけしました。」

「困った時はお互い様ですよ!!」

 珊瑚は爽やかに笑った。

「御礼と言うか、お詫びも兼ねて、お食事は豪勢にさせてもらいますわ」

 女将かニコッと微笑む。

「御礼なんかいいですよ~」

 と、珊瑚は恐縮していたが、桜花の右拳がガッツポーズを作っていた。

 女将の言葉通り、食事は滅茶苦茶豪勢だった。

「内緒でビールもつけますから」

 女将が『解ってるから何も言うな』みたいなウインクをする。

 桜花達は恐縮したが(ビールだラッキー!!うひょひょひょ!!)とか思っていた。

 食事も終わり、お風呂に入り、浴衣を着てダラダラしている桜花達。

 不意に紅葉が口を開く。

「全ての支部長が幌幌町に集まる…って、やっぱり私達をマジボッコにする気なのら?」

 先程のビールを取っておいた桜花が、コップにビールを注ぎ、ゴキュゴキュと飲みながら、

「構わねーだろ。いずれ全部ぶっ潰さなきゃならねーんだし」

 と、来るなら来やがれクズ!!と毒を吐く。

「…ブツブツ…白いラフレシアンを仲間にすると後悔するって意味は…ブツブツ…」

 桜花は再びコップにビールを注ぎ、ゴキュゴキュと飲み

「仲間にするも何も、館館町のラフレシアンを幌幌町に呼ぶ訳にもいかないだろー?」

 と、仲間にしたくても出来ねーよと、否定する。

 しかし珊瑚と紅葉は何かモヤモヤしていた。

 紅葉は正義の為に戦っていたラフレシアンにカルチャーショックを覚え、しかも、仲間にすると後悔すると言われた事。

 珊瑚はあの女の子…天乃橋 白雪から感じた、儚げな表情と、いつも嗅いでいる臭気が微かに漂っていた事を…

 翌朝…帰路に付く為に支度をしていた桜花達の元に、天乃橋 白雪がやって来た。

「昨日は申し訳ありませんでした…」

 三つ指を付き、深々と御辞儀をする。

「あれ?もう大丈夫なの?」

「ええ、すっかり…」

 ニコッと微笑む白雪。青白い笑顔がやはり儚げだ。

「まだちょっと顔色悪いかな?」

 白雪の顔を覗き込む珊瑚に、白雪は目を泳がせて視線を逸らした。

「え、ええ…私、体が弱くて…よく体調を崩して学校も休みがちで…」

 微かに動揺している節があるような?しかし今は外ヅラバージョン。突っ込んで万が一本性を晒す事になるのは御免だ。自分達は高校のアイドルで、運動部のアイドルで、文化部のアイドルなのだから。

「それは大変だね」

「ええ。でも、この所、体調が良くて…幌幌町の叔父の所へ手伝いに行く事になりまして…」

 幌幌町?そこは…!!

「私達幌幌町から来たのよ!!」

「そうでしたか…もしかしたら、転校する学校が同じかもしれませんね…」

 儚げに笑う白雪。再び三つ指を付き、御辞儀をして部屋を後にした。

「…っかしいよな~…」

 一連の会話で違和感を感じた桜花は疑問を感じ、頭を掻く。

「何がおかしいのら?」

 紅葉と珊瑚が桜花を食い入るように見る。

「だってよ、少し体調良くなったからって、わざわざ幌幌町に転校する必要あるのか?普通にこっちの学校へ復学すりゃいいじゃんか?空気もいいから、養生すんならこっちだぜ?」

 それは確かに二人ともそう思った。

「本当に身体弱いのか?倒れていたのは、病気のせいなのか?」

「それは…ブツブツ…私達が決め付けちゃいけない事だし…ブツブツ…」

「まぁ、何にせよ、転校先が幌幌高校なら私達とかち合うのら。病弱で可愛い、儚げな女の子…バカな男にとっては守ってあげたくなるスキルなのら」

「私の方が可愛いから問題無いぜ!!」

 桜花は胡座を組ながらカラカラ笑う。呆れて溜め息が出る珊瑚と紅葉。何処からその自信は来るのか、と。

「よっしゃ帰るか!」

 帰宅する桜花達の見送りに、わざわざ門まで来てくれた大将と女将に手を振り、門柱に乗っかっているデカいカエルの置物をニ、三度撫でて、幌幌町へ帰って行った。


 そして帰りの電車内。

「きゃあああああああ!!」

 と、いきなり桜花が悲鳴を挙げた。

「ど、どうしたの桜花!?」

「な、何があったの!?」

(外面上は)心配そうに桜を見る珊瑚と紅葉。

 桜花は二人の方を向き、血の涙を流しながら呟く。

「わ、私達のプライベートショット撮るの忘れた…」

 珊瑚は溜息を付き

「邪だからよ…」

 と返したが、心の中では

(…ブツブツ…良かった…ブツブツ…私のプライベートショットなんて見た人はきっと気が狂ってしまうくらい後悔しちゃうんだもの…ブツブツ…桜花は気の毒だけど、これで沢山の男子の命を救ったと思ってくれれば…ブツブツ…やっぱり私って最低ね…ブツブツ…桜花の不幸を喜ぶなんて、悪魔より外道だわ…ブツブツ…)

 と、いつも通りの自虐を行っていた。

 紅葉は頬を赤らめてそっぽを向き

「そ、それは大変だけど、もう手遅れね!!フン!!」

 と、返したが、心の中では、

(ザマァ無いのら!!だけどナイフは買って貰うのら。これは約束なのら。約束を違える事は絶対にしてはいけない事なのら。なぜなら、私もまだ刑務所に入りたくないからなのら。人間を捌く事は極力したくないのら。解ったならちゃんと買って寄越すのら~…)

 と、桜花に脅迫していた。 

「ちぇっ…お前等友達が困ってるってのに、なんつう言い草だよ…」

 珊瑚と紅葉の心の内が楽勝で読める桜花はげんなりした。何時もの外ヅラを作る事も忘れて。

 これには珊瑚も紅葉も驚いてしまった。『あの』桜花が外ヅラを忘れる程弱っていた、と言う事に。たかがサービスショットを撮り忘れたと言う、しょーもない理由で。

 そして、それは更に別の驚きを呼んでいた。

『あの』桜花が自分達を『友達』と言ったのだ。外ヅラの無い状態で!!

 これはひょっとして…と、珊瑚と紅葉は顔を見せ合う。

「ん?なんだよお前等?私なんかおかしな事言ったか?」

 フルフルと首を横に振る二人。そしてひとまず冷静になる。

 考えすぎだ。桜花は自分達と一緒の写真を撮りたかっただけだった、と考えるのは。

 そう思い直した二人だが、なぜか自然に顔が綻ぶ。

「何ニヤニヤしてんだお前等?」

「…ニヤニヤなんて…」「してないのら!!」

 見事にハモった二人に、桜花は「変な奴等だな…」と、首を傾げて呟いた。

 二人は相変わらずニヤニヤしながら桜花を見つめていた。帰りの道中、ずっと。 それは、自分達も憧れていたからだろう。『友達』の存在に。

 真実の自分を知りながらも、『友達』と呼んだ事に、感動を覚えたのだろう。尤も、その『友達』の真実も十分に知っているのだが。


 幌幌町の城に、館館町支部支部長、スイギンが参上した!

 スイギンはダイオキシンに深々と頭を下げる。

「ダイオキシン様、お久しぶりでございまする…」

【スイギンよ!良くぞ参った!!】

「館館町に幌幌町のラフレシアンが現れましたぞ。なかなか気の強い小娘でしたわ。ハッハッハ!!」

 愉快そうに笑うスイギンにダイオキシンが憤る。

【なあにぃ?…すると館館町のラフレシアンが仲間になったのか!?】

 スイギンはゆっくり首を横に振る。

「今はまだ…しかし、いずれは手を組むやもしれませぬ…が…」

 スイギンは歪んだ笑みを浮かべて続けた。

「ホワイトスノーブリザードが仲間になれば…奴等は勝手に自滅するでしょうなぁ!!ハッハッハァ!!!アァッハッハッハ!!」

 スイギンの含みのある言葉に、ちゃんと理由を知りたいダイオキシンだったが、スイギンがメチャメチャ豪快に笑っていたので、水を差すのも何だ、と思い、成程と言わんばかりに頷くのみだった。

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