第一章 異世界部の日常

第2話 日常:目標;適当

2515年3月 都内某中学校

「なあ。俺、異世界に行きたい」


 地上37階、10メートル四方ほどの広さを持つ教室。

「冒険者だか勇者だかになって、剣と魔法のファンタジー世界を心ゆくまで見て回りたい。それが叶えば死んでもいい。」


 白を基調とした明るく清潔な印象を与える床と壁紙に、天井には一辺の長さが1メートル程の正方形の面光源がタイル状にいくつも取り付けられている。

「魔法を使って、てのひらから火炎球ファイアボールを出したい。それが叶わないなら、生きてる意味がない。」


 その白い光と南側の窓から差し込む昼下がりの暖かい日差しによって、所狭しと敷き詰められ散らかった実験器具やら試作品のメカ、その他大量の電子機器の金属面が輝いてある種幻想的な空間を演出していた。右を見ても左を見ても機械機械機械。俺達の3年間の活動の成果である。

伝説の剣エクスカリバーを手に入れて、魔物や魔王と心躍る命がけの戦いがしたい」


 その中でも部屋の中心にある長テーブルとその周りはきちんと整理されていて、今席に座っている俺を含めた3人はゆったりとした日曜午後のティータイムを楽しんでいるのだった。

親友ライバルたちと腕を競い合って、『やるじゃねえか』『お前こそ』なんてやり取りがしたい」


 部室には、俺の声とカタカタ、カタカタというキーボードを叩く音だけが響く。

「悪者の魔の手から美少女ヒロインを救って、夢のイチャラブ展開が…」

「うっるさいわね!こっちは作業してるんだから少しは静かにしてなさい!」


 だらっと紅茶を飲んでいるのはどうやら俺だけだったらしい。だが虚しい独り言のようになってしまっていた俺の発言にやっと反応してくださった俺の幼馴染1号、部員3号でもある少女、倉城くらき明香里あかりとそのまま会話を試みる。


「アカリもドラゴンと友達になって背中に乗せてもらいたいとか思うよな!」

「だーかーら、うるさいって言ってるのよ!それにアンタ、中一の春と言ってること全然変わってないじゃない!反応に困るのわかるでしょjk!」


 カタンッと大きくキーボードを叩き、やっと画面から目を離しこちらを向いたアカリは、眉間のしわをヒクヒクさせねがら続ける。


「だいたい今アタシとトモはアンタの課題を手伝ってあげてるんだからね!毎度毎度『新作を作ってて手が離せない』って仕方な~く部長であるアンタの仕事のはずの部活関係の書類請け負ってあげてたら調子に乗りやがって、挙句あげく中学の卒業課題までサボり倒すってどういうことよ!今回はさぞ力作が出来上がったんでしょうね!?」


 この幼馴染、アカリは言ってしまえば美人だ。肩にかかるくらいの綺麗な茶髪を、こうしてすぐにプンプン怒りながら振り乱しさえしなければ、さぞ男たちからモテることだろう。

 だが、こいつの言うとおり。今日みんなにこの部室に集まってもらったのは他でもない、俺の苦手な学校の課題を手伝ってもらう&遂に完成したこのマシンをお披露目するためなのだ。


「よくきいてくれたなアカリ。トモも課題はいったん休憩にして、見て欲しいものがあるんだ・・・ってトモ?おーい、もしもーし」

「…!ああ、ごめんきょーた。すっかり熱中してた。今からお披露目会?」


 ありがたいことに俺の課題に集中して取り組んでくれていて、やっとこちらに注目してくれた眼鏡が異様に似合っている少年は、幼馴染2号、部員2号でもある、西にし智則とものり、通称トモ。

 ちなみに今こちらの声に気付かない程に集中していたのは、トモがアカリと違ってキーボードではなく思念入力デバイス、身体の動きを使わずに脳内で念じた文字を機械に読み取らせて入力するものを使っていたせいもあれば、単に本当に勉学が好きなせいでもあるのだろう。


「トモは察しが良くて助かる。では早速、今回の発明品は・・・こいつだ!!」

ジャジャーン、という効果音がつきそうな勢いでテーブルの上にそれを置く。

「なによこれ…ふたつの…箱?」

「燃料タンクのようなものに噴射口、小型ロケットでも作った?」

「これはズバリ、『ジェットパック』だ!!それぞれティッシュ箱を2つ重ねたくらいの大きさしかないこいつを背中と腹部に装着するだけで、地上約20メートルの高さまで浮遊、飛行できる。」

「……」

「またすごいのを作ったね!これ先月僕が教えた理論をさっそく使ったんだね!」

「おうよ!ここに量子力学を持ってくるなんて、トモはやっぱり天才だぜ!」

「……」

「理論なんて、ジェットパック自体は数百年も前からある物だからね。それよりどうやってここまで小型化を!?」

「それはだな…」

「って、やっぱり今回もぜんぜんじゃないのよ!!」


スパーーーーン!!スパーーーーン!!とアカリが俺とトモの頭をクラシカルハリセンでぶっぱたくところまでが我らが部活のお約束の流れとなっていた。

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