四話 蹴散らした後 (リータ)
三時間にわたって、不良どもは身体を起こすことを許されなかった。起き上がろうとした奴は漏れなくリータに踏まれ捻られ、また這いつくばるハメに。
最初は反抗的に毒づいてくる奴もいたが、延々意志を挫かれるうちに不良どもの心はベキベキに折れてしまった。何人もが泣きを入れてきたが、リータは雨に唄えばを口ずさみながらそいつの頭を踏んづける。
そして誰もが起き上がる意志を失った辺りでリータは声を出した。
「どうだ、クズ野郎ども! 無敵のチェスノコワ姉妹にちょっかいを出したらどうなるか、これで分かったか! 今度何か仕掛けてきたらこの程度じゃ済まないぞ? 修験行者も近寄らないような山奥に、裸で放り捨ててやる! やると言ったらやるぞ? チェスノコワ姉妹はそういう女なのだ! 分かったか!」
小さな声で何やらぶつぶつ言う男達。
「聞こえん! 聞こえんぞぉっ! 分かったか、鼻紙以下ども!」
「わ、分かりました……もう勘弁してください……」
ようやく聞こえる声を漏らしてきた。
<上出来よ、リータ。これで連中も無敵のチェスノコワ姉妹のタチの悪さを思い知ったわ>
「よし、じゃあ行こうか、宗作。待たしてゴメンね」
と、敗北者どもを置き去りにして二人その場を去る。
二人は駅前まで戻ると、いつもリータが使っているカフェに腰を落ち着けた。
「あんなことして大丈夫かな? もっとタチの悪い連中に助けを求めるかもしれないよ?」
宗作が心配そうに言ってくれる。
「その心配はないよ。あの連中はチンピラにもなりきれてないような半端者なの。ちゃんと警察に聞いて連中の人間関係は把握してるんだから」
「それにしたって、あんまり無茶はしない方がいいよ」
「ふふ、大丈夫。チェスノコワ姉妹はあんな連中には絶対に負けないから」
頼りにはならないくせに、宗作はこうして心配してくれる。リータはうれしくて胸の中がむずむずしてしまう。
「キミは何を習ってるの? 空手ともところどころ違うみたいだったけど」
そう言われてリータは軽く肩をすくめる。
「よく分かんない。お父さんが昔ロシアの軍人だったんだよ。それでいろんな格闘技を知ってるの。最初は遊び半分で教えてくれたんだけど、すぐに本格的に教えてくれるようお願いしたんだ。サーシャを守りたいから」
「サーシャ……お姉さん想いなんだね」
「サーシャもいっぱい想ってくれてるよ。いつも超能力で助けてくれるの」
<やめなさい、リータ>
<この人は大丈夫だよ>
「超能力か……。そのペンダントでお姉さんと通信してるって言ってたよね? 本当はテレパシーなの?」
「あ、話早いね。このペンダントはね、二人の繋がりを強めてくれるの。ロシアのすごい超能力研究の成果らしいんだけど、それは私たちにはあんまし関係ないかな。これには、二人はずっと一緒って想いが込められてる。だから二人の心を繋げてくれるって、そういうふうに思ってるんだ」
「そうなんだ」
宗作は優しく微笑み、リータの話を少しも否定しなかった。
「超能力の話は内緒だよ? 宗作だから教えたんだからね?」
口元に人差し指を当てて軽くウィンク。こう言えばこの人は決して他言しない。リータはそう確信している。
<リータは考えが甘いわ。何か脅迫できるネタを仕込んどいて、口封じをしておかないと>
<酷いなぁ。大丈夫だよ、そんなの……>
「ありがとう、内緒の話をしてくれて。じゃあ、俺も秘密を明かそうかな」
<ほほう、向こうから来たわね>
サーシャのゲスい考えはここではスルー。
「どんな秘密?」
「超能力ほどすごい話じゃないけどね。そうだな……うーん……」
腕組みをして首を傾げ始めた。
「ええ? ここまで来てもったい付けるの?」
身を乗り出して宗作の腕を揺する。
「いやいや、そうじゃないよ。やっぱりここは、ちゃんとお願いすべきだな」
宗作は一人でうなずいた後、椅子に座り直して居住まいを正した。リータも合わせて背筋を伸ばす。
「リータさん、俺のゲーム作りを手伝ってくれないかな?」
真面目な顔をして、言ってきた。
「ゲーム? ゲームなんて作ってるの?」
リータにとってゲームとは遊ぶものだ。身近な人がそれを作っているだなんて想像したこともないので、ただただ呆気に取られてしまう。
「うん、会社を辞めてから仲間を集めて作ってるんだよ。それでちょっと行き詰まってるところがあって、リータさんに助けてもらえるととても助かるんだ」
「え? でも私、絵は下手だし、プログラム? あれもできないよ?」
学校でパソコンの授業はあるが、まるでついていけない。苦手意識が半端じゃなかった。ましてやプログラムだなんて。
「でも、キミにしか頼めないことがあるんだ。……うーん、実際に見てもらわないと説明が難しいな。もし時間があればだけど、今度俺の家へ来てくれないかな?」
「え? いいの? 宗作のお部屋にお邪魔しても」
今まで散々お願いしても断られていたのに、向こうから誘ってくるだなんて。急な展開にリータはうれしくて胸が沸き立ってしまう。
「うん、是非ともお願いしたいんだ。あっ! で、でも今すぐは無理だけど……その、部屋を……」
「ええ? そんなの気にしないよ? 善は急げだし、明日にでもお邪魔したいなぁ。一晩でちゃちゃっと片付けちゃってよ」
「えっ、う、うーん。分かったよ。俺から誘ったんだしね」
やや青ざめた顔で宗作が頭の後ろをかいた。よし! 明日、いよいよ宗作の部屋で遊べるぞ!
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