第7話〈後編〉
洵は右手の人差し指と親指で持った超小型の発信機を見つめながら思った。やっぱりさっきの春樹の言葉が引っかかる。
「そいつ、信用できるのか」
普通に話しているだけなら高校時代の祐翔と変わりなく見える。でもそう言われると今は大学生でもなく、何をしている人なのか分からない。今の祐翔だけ見ていると確かに不審者だ。
祐「俺たちが誘拐犯。これ使えそうだな」
洵が祐翔のことを考えていると、祐翔が突然言い出した。
洵「え?」
祐「あの黒ずくめのヤツと取引できないかな」
洵「取引!?それ王女様をおとりにするってこと?」
祐「ああ、そうだけど」
洵「お前正気か!?」
祐「王女様を助けて、他の招待客も危険にさらさない方法…そもそもあいつ何で王女様を狙ってるんだ?」
洵「さぁ?あっ、あいつがパーティ会場で投げたカード!それに書いてあったことが分かれば何か分かるんじゃないのか」
祐「それだ!」
洵「春に聞いてみるよ」
携帯を出して春樹に電話をした。
洵「もしもし春、パーティ会場で犯人が投げたカードって何が書いてあったか分かる?」
春「ああ、ここにある。『王女を返してほしければ50億円用意しろ。その後連絡を待て』だ」
洵「営利目的か…。『その後の連絡』は王女様を俺達がさらって来ちゃったから向こうとしては計画が狂った訳だ」
春「その代わり『王女を警察が保護したら招待客を一人ずつ誘拐する』っていう連絡がきたけどな」
洵「でも50億ってちょっと額が大きくないか?」
春「警察側もそれを不信に思ってる。もしかしたら金ではなく王女様自身の何かが目的なのかもしれない」
洵「何だろう?」
春「さぁな」
洵「実は王女様に発信機が付けられてたんだ」
春「発信機?そうか、だからあいつにそこがすぐにバレたのか」
洵「春、俺達でもしかしたらできることがあるかもしれない。ちょっと任せてもらえるかな」
春「大丈夫か?」
洵「大丈夫だよ。警察が下手に動くとまずいだろう。何かあったら連絡する」
春「分かった、何でも協力するから言ってくれ」
洵「ありがとう」
その会話を横で聞いていた祐翔がちょっと明るい顔で言った。
祐「なるほどね…、だいたい分かってきたな。でも結局あいつの真の目的は分からず、か…」
洵「よし!それじゃあそれを聞き出してやろう」
祐「どうやって?」
洵「俺と勝負して、俺が一つ勝つごとに情報を一つずつ教えろって言うんだ」
祐「負けたら?」
洵「こっちが持ってる情報を教える」
祐「あいつが欲しい情報なんて持ってるのか?」
洵「大丈夫、負けないから」
洵はニッと笑った。
洵「ただどうやってヤツをおびき出そうか…」
祐「それなら簡単だ」
今度は祐翔がニッと笑った。
洵「?」
夜も深くなり辺りが真っ暗闇に覆われた頃、洵の家から1人の人間が出てきた。丈の長いものを着ている。ドレスのように見えた。そこに裏から回ってきた車が停まった。ドレスの人間が乗り込み車は静かに何処かへ走り去った。
しばらく走ると車は路地裏のバーに着いた。バーは古く寂びれていてもう営業はしていない。床も壁もほこりを被っている。
ドレスの人間と運転手がそのバーの中に入って行った。
それから5分程遅れてもう一台の車が着いた。黒ずくめの男が降りて来てバーの中に入って行った。ドアを開けた途端、黒ずくめの男の目に入ったのは、丈の長いコートを羽織った男だった。
洵「やぁ、また会ったな。待ってたよ」
黒「な!どうして…、王女じゃなかったのか!?」
祐「これをつけてここまで来たんだろうけど、残念だったな、回収させてもらったぜ」
祐翔は言いながら王女様に付いていた発信機を黒ずくめの男に見せた。
黒「ちくしょう!」
洵「お前、王女の何が目的なんだ?俺達と一緒か?」
黒「フン!そんなこと誰がお前らに話すと思う」
洵「フ~ンそうか~、それじゃあそこで相談なんだが、ここで俺と勝負しないか」
黒「勝負?」
洵「ああそうだ。俺が勝ったらお前の持ってる情報を教えろ。お前が勝ったら俺達が持ってる情報を教える。1つ勝つ毎に1つずつだ。どうだ?お前も警察には捕まりたくないだろう。そこは俺達も同じだ。俺らのアジトの周りをお前にうろちょろされたんじゃ、警察に目立ってしょうがないんでね。どうだ?」
黒「俺が勝ったらお前らの情報を本当に教えてもらえるんだろうな」
洵「ああ、お前が勝ったら教える。間違いなくお前も知ってて得する情報だ」
黒「分かった、ただし条件がある。俺の好きな勝負でいかせてもらう。イカサマなんてされたらたまんないからな」
洵「OK何でもいいぜ」
黒「それなら…」
黒ずくめの男は自分のジャケットのポケットからトランプを出した。
黒「これでどうだ?」
洵「構わない。それで勝負しよう」
洵はニッと笑った。
洵の後ろでは祐翔が顔には出さずヒヤヒヤしている。
祐(こいつ、ここまではったりを…大丈夫なのか?)
洵と黒ずくめの男の勝負が始まった。
ゲームが始まって約3分。あっさり洵が勝った。
洵「さてと、何から聞こうかな~。お前、あのパーティ会場で投げたカードには何て書いてあったんだ?」
黒「何で」
洵「負けたんだから正直に答えろよ。でなきゃ今ここでサツに売り渡してもいいんだぞ」
黒「分かったよ、『王女を返してほしければ50億円用意しろ。その後連絡を待て』だ」
祐(こいつ嘘はついてないな…)
洵「50億?50億も取ってどうするつもりだ?」
黒「1勝負、1つの情報じゃなかったか?」
洵「分かった。じゃ次だ」
またあっさり洵が勝った。
洵「さっきの質問だ。50億どうするつもりなんだ、仲間と分けるのか?」
黒「仲間なんかいない、いたら分け前が減るだろう」
洵「それじゃあ1人で50億もどうするつもりだ」
黒「50億は時間稼ぎだ。いくら警察でも一晩で50億はさすがに無理だろう。アインレナクに連絡して国で50億用意してもユーロから円に変換する時間が掛かる。その間に王女からある物を頂くつもりだったんだ」
洵「ある物?」
黒「おっと、これ以上は言えないぜ~、1勝負、1情報だからな」
洵「じゃあ次いこう」
また洵が勝った。
黒「また負けた!何だよ!」
洵「王女の何を頂くつもりだったんだ」
黒「指輪だ」
洵「指輪?」
黒「知らないのか?へぇ~、じゃあ俺とは違う目的で王女をさらったんだな」
洵「指輪が何なんだ?」
黒「1勝負1情報だろ」
洵「分かった」
祐(とか言いながらこいつ結構ペラペラと喋ってるよな)
黒「だぁぁぁぁぁ~~~~!!!!また負けた!お前何なんだよ!イカサマじゃないのか!?」
洵「イカサマって、お前のカード使ってるのにイカサマなんかできないだろう」
黒「くぅぅぅ~~~!!今度は何が聞きたいんだよ!!」
洵「その指輪、何なんだ?」
黒「指輪は…宝の地図が隠されてんだよ」
洵「宝の地図?」
黒「アインレナクは小さいが金は持ってるんだ」
祐(なるほどね~)
洵「それなら指輪だけ頂戴すれば良かったじゃないか。俺達のアジトまでウロウロされたんじゃ…」
黒「いや、お宝を頂戴するには指輪と王女自身が必要なんだ」
洵「何で王女自身が必要なんだよ」
黒「それは次の勝負に勝ったら教えてやるよ。まぁ次は俺が勝つ番だけどな」
そしてまた洵が勝った。
黒「お前、絶対なんかやってるだろ!」
洵「お前が弱いんだ。それで?どうして王女自身が必要なんだ」
祐(いや、この黒ずくめのヤツ、そんなに弱くはないと思うが…)
黒「王女しか知らない暗号がある」
洵「他のヤツは知らないのか?」
黒「前国王が死んだ時に王女に教えたらしい」
洵「なんで王女しか知らないんだ?」
黒「さぁね、よっぽど孫娘が可愛かったんじゃないのか?そんなことまで俺は知らないよ」
洵「そうか…」
その時バーのドアをぶち破るように警察がドッと押し寄せて入ってきた。
警「警察だ!王女誘拐の容疑で逮捕する!」
黒「はぁ!?誘拐してるのはこいつらだろ!」
警「残念だったな、この人たちは警察側の人間だ」
黒「何だって~~~!?騙したのか!」
洵「お前が勝手に俺達を誘拐犯だと思ってただけだろう。俺らはそれを利用しただけだ」
黒「このヤロー!!」
警「話はこちらの方の携帯を通して全部聞かせてもらった。さぁ行くぞ」
黒ずくめの男は今度は逃走できず、手錠を掛けられ警察に連れて行かれた。
春「洵、お疲れさん」
洵「春!王女様は?」
春「ああ、もう大丈夫。今は安全な所にいらっしゃる」
洵「良かったぁ~」
春「君が真渋祐翔くんだね。ありがとう、助かったよ」
春樹は右手を出しながら祐翔に近づいた。祐翔もそれに応え握手をした。
祐「いえ、長日部さんは後輩の俺を疑ってたみたいだけど」
春「悪かった。いくら後輩でも君の今の状態がわからなかったんでね。少し調べさせてもらった」
祐「言えなかったんで、すみませんでした」
春「でも分かってからは安心して任せられた。洵もこういうのには慣れてない訳じゃないし」
祐「洵って何者なんですか。普通の大学生じゃないことは分かるけど」
洵「ちょっと待て!その前に二人で分かり合っちゃってるけど、何なんだよ、祐翔は何者なんだよ」
春「ユーロポールだ」
洵「はい??え~と…ユーロポールって??」
春「欧州刑事警察機構。欧州連合の犯罪対策組織だ。アインレナク王国が王女様の為に極秘で雇っていたんだ。元々いるSPや日本の警察には内緒でね」
祐「普段はそんなことする機関じゃないんだけど、今回はアインレナクの為に特別」
洵「お前…、それならそうと俺にくらいは言っておいてくれても…」
祐「悪いな、プロジェクトが終了するまでは言えないんだ」
洵「は~ぁぁ、春が祐翔のことで変なこと言うから、いらない気まわしちゃったじゃないか~」
春「悪い悪い」
春樹はニコニコしている。
祐「で?洵は何者なの?」
春「№1ギャンブラー」
祐「ギャンブラー!?」
春「そう。高校時代からやってる。な?洵」
洵「・・・・・・」
祐「高校時代って、俺と一緒にいた頃から!?全然気付かなかった…」
洵「当たり前だ、気付かれないようにやってたんだから…」
洵はちょっとムスッとしている。
祐「でも洵のおかげであいつから情報を引き出せたんだ、助かったよ、ありがとう」
洵「まぁ、結果良かったんだから良かったよな」
今度はニッと笑った。
祐「でもいいのか?日本でギャンブルなんて違法だろう。しかも警察に関係のある長日部さんの前で」
洵「いいの。ギャンブラーになれって俺に勧めたのは春なんだから」
祐「え、そうなんだ…」
春樹は横でニコニコしている。
祐「それじゃ俺はこれで。あとは日本の警察にお任せします」
春「分かった」
洵「どこに行くんだ?」
祐「帰るんだよ、オランダに」
洵「オランダ~ァ!?」
祐「ああ、本部はオランダにあるんだ。こんなことになって、帰っても処分は免れないだろうけどな」
洵「祐翔…、今度はちゃんと休み取って来いよ。飲みにでも行こうぜ!」
祐「そうだな。またな、洵」
祐翔が洵に背を向け歩き出そうとしたその時、目の前に王女が立っていた。
祐「王女様…」
王「貴方がずっと傍で警護して下さっていたんですね、ありがとうございました」
祐「いいえ、王女様をこんな危険なことに巻き込んでしまい申し訳ございませんでした。これで終われることではありません。アインレナク王国からのお咎めは重々承知の上です」
王「いいえ、そんなことはさせません。私は何事もなく無事にこうしているのですから。人質に取られた訳でもないのです。私は貴方と、そちらの方にはとても感謝しています」
洵を見て微笑んだ。
洵「王女様…」
王「お二人のお名前をお伺いしても?」
洵「はい!私は朝倉洵と申します」
祐「ユーロポールの真渋祐翔と申します」
王「朝倉さん、真渋さん、本当にありがとうございました。国の方には私からちゃんとお話ししておきます。安心して下さい」
祐「王女様…」
王「それではまた、どこかでお会いすることもあるでしょう」
王女はニッコリ微笑んでSPに囲まれて去っていった。
洵「祐翔、良かったな、お咎めなしだってさ!」
祐「ああ…」
洵「なんだ、嬉しくないの?」
祐「いや、嬉しいよ。それじゃ洵、またな。今度は飲みに行こう」
祐翔はニッコリ笑って去っていった。
【第7話】終わり
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