第4話
土曜日、休日の今日は洵は昼間から春樹の部屋に来ていた。
洵「ええ――?!高城さんが三保さんを?!それで二人ともなんか変だったのか。麗華は思いっきり足蹴ってくるし、痛かったんだぞ」
春「悪かった。あの場で他に方法が思いつかなくて」
洵「どうしてわかったんだ?」
春「麗華だよ。気が付いて夏生くんに聞いたんだってさ」
洵「そしたら案の定?」
春「女の勘っていうのは怖いね」
洵「何もできない…」
春「もしかしたら俺達の気付いてない“何か”も知ってるかもしれないぞ」
洵「誰が?」
春「麗華も七海ちゃんも」
洵「え!嘘だろ」
春「いやいや、気を付けたほうがいいかもね」
洵「脅さないでよ」
その日の夜『CLUB BLUE MOON』の受付に凌がいた。
凌「俺の顔は覚えたか?」
桐「(ほんと嫌な奴!)ええ、おかげさまで、覚えさせていただきました」
凌「そうか」
凌はニヤッと笑って店内に入っていった。
一方また凌にバカにされて桐野大樹はムカムカしていた。
桐「あの人どこまでも、嫌味な人ですね!」
店員「まぁ、そう言うな。ああ見えても椿さんは悪い人じゃないんだぞ」
桐「悪い人じゃないかもしれないけど、いつまでもどこまでも嫌味な人です!
あ~あ、どこかにあの人を負かしてくれる人いないかなぁ」
店員「また言ってる。無理な相談はやめろ」
そして今夜もまた凌が一人勝ちをしている。凌はちょっと飽き飽きした様子でポーカーのテーブルにいた。
そこに、見慣れない顔の男が入ってきた。
瞬「俺が相手になろう」
男はスラッとした長身で、ブランド物のスーツを何気なく着こなしている。派手に着飾っている訳ではないのにやたら華のある男だ。
春「!?」
その様子を春樹は店内のバーから見ていた。一方、桐野も受付からその様子が気になり見ていた。
桐「誰でしょう、あれ?」
店員「さぁ…、俺は初めて見る顔だ」
桐「でも会員ですよね?」
店員「ここにいるんだからそうだろう」
凌とそのやたら華のある男のゲームが始まった。しばらくするとめっぽう強いはずの凌が苦戦し始めた。ゲームはそれからまたしばらく続いたが凌はずっと苦戦している。辺りがざわめいた。
瞬「№1の実力がこんなものか。どうやら買い被っていたようだな。失礼する」
その男はポーカーのテーブルをすっくと立つと、颯爽と店を出て行った。
桐「カ、カッコ良い!」
桐野は彼のその一部始終を見て一目で魅了されてしまった。目がキラキラと輝いている。
店員「おい、今の人なら椿さんを負かせられるんじゃないか…」
桐「先輩!なんて人です!?」
店員「ええーと…」
先輩店員は顔写真付きの会員台帳を開いて彼を探した。
店員「あった!『
台帳には顔写真と名前以外何も書いていない。こんな例外は“椿凌”以外いないはずだった。
桐「何者でもいいです!なんてカッコ良いんだ。先輩、俺はあの人についていきます!」
店員「は?お前何言ってるんだ」
桐「あの人についていくと言ったんです!」
桐野はまだ目をキラキラと輝かせている。
店員「好きにしろ」
その晩、緑川邸に戻ってきた洵は春樹を中心に麗華と3人で額を突き合わせていた。
春「あれは“利河瞬”だ」
麗「利河瞬!?つばさ銀行の!?」
春「そうだ。そしてもう一つの顔が以前洵が『BLUE MOON』に出入りする 前に№1と呼ばれていた男だ。しかし、ある日忽然と姿を消した」
洵「それが今頃になって何で出て来たんだろう」
麗「“椿凌”よ」
春・洵「椿凌?」
麗「私が思うに、彼、以前は自分が№1の座をほしいままにしてたでしょ。それが今は“椿凌”というどこの馬の骨か分からない怪しい人物にその座を奪われたのよ。これは大変だ!って、出て来たんじゃないかと思うの」
洵「そんなつまんない理由でイキナリ現れないだろ」
麗「あらつまんない理由じゃないわよ。失礼ね」
春「いや、利河瞬のことだ、きっと何かある。調べてみる必要がありそうだな。 ちょっと出てくるよ」
洵「え、こんな時間に?」
春「ああ、何かわかったら連絡する」
春樹はそのまま部屋を出て行った。その後ろ姿を見送りながら洵がおもむろに言い出した。
洵「春ってさ、ビジネスマンだよな?」
麗「ええ」
洵「何者なんだろう?不思議じゃないか?」
麗「不思議?」
洵「だって、考えてもみろよ、春ってただのビジネスマンとか言っておきながら高城さんと仲が良かったり、警部さんと知り合いだったり。今だって、なんで“利河瞬”のこと知ってるんだ?不思議じゃないか。ただのビジネスマンが知ってることじゃないよ」
麗「そう言われてみればそうね。私普通のビジネスマンがどういうものかよくわからなくて。春樹しか知らないから、みんなあんな感じかと思ってたわ」
洵「バカ言うなよ」
麗「しょうがないでしょ。お嬢様育ちなんだから」
洵「そうなんだよなー。緑川グループの会長の娘だもんなー。俺だって普通に学生してたらこんな風に話せるような相手じゃないんだよな」
麗「洵…」
洵「麗華の性格がそう思わせないんだよ。俺、麗華と友達になれて良かったよ」
麗「突然なに言い出すの!びっくりするじゃない。でも不思議よね。洵がギャンブラーじゃなかったら私達出会ってなかったのよ」
洵「それも春のおかげだよね」
麗「やっぱり春樹って不思議な人ね」
洵「ほ~んと。そうだ!麗華、春が利河を調べてる間、俺たち春のこと調べてみないか?」
麗「まあ!楽しそう!やりましょう!そうと決まれば、即実行よ!」
翌週、大学に来た洵は大学の図書館のイスに座りこみ、手元の書類を読み込んでいる。
貴「おい、お前またなんか始めたのか?また毛利先生の時間、上の空だったぞ」
洵「え、そうだっけ?」
貴「いいかげんにしろよ。いくら毛利先生が優しい先生だからってな…、おい、聞いてんのかよ」
洵「聞いてる、聞いてる」
貴「さっきから何読んでるんだ?」
洵「調査報告書」
貴「調査報告書?何それ」
洵「うちの大学の先輩で長日部春樹って先輩いたの覚えてる?」
貴「ああ、あのすかした感じの人な。覚えてるよ。長日部先輩がどうしたんだ?」
洵「その長日部先輩のことを調べてるんだ。で、こっちはさっき大学の図書館で見つけた卒業生の記録」
貴「それで、何かわかったのか?」
洵「いや、全然。成績は優秀だったみたいだけど、別にたいして特別なことは書いてないなぁ」
貴「長日部先輩のことなんか調べてどうするんだよ」
洵「ちょっとね」
七「朝倉くん、何見てるの?」
貴「ああ三保さん。こいつバカでさぁ、長日部先輩のこと調べるんだって、卒業生の記録とか持ち出してきてんだよ」
七「長日部先輩って、まさか!この大学の卒業生なの?!」
洵「そうだよ。俺達の2つ上」
貴「三保さん、知らなかったの?でもどうして本人のこと知ってんの?」
七「え?あ、それはその…朝倉くんが親しいのよ。それで会ったことがあるの」
貴「え!?お前長日部先輩と親しいのに、そんなこと調べてんのか!?お前、そりゃストーカーだ」
洵「ストーカー!?俺が!?春の!?」
貴「春!?お前先輩のこと“春”って呼んでんのか!?」
洵「(しまった!)ああ、そうだよ。春とは随分な付き合いになるけど、あいつ何年経ってもつかみ所がなくて、よくわかんないからさ。それで」
貴「ふーん………」
貴士はちょっと疑いの目で洵を見た。
大学の記録では春樹のことは分からなかった。それじゃあということで、洵は街の中にいた。
洵「学校じゃ春のことは分からなかった。と、いうことは春自身を尾行するしかないな~」
洵は春樹が行きそうな場所に目星を付けて張り込んでみることにした。
街の中でも高級感漂う、オシャレな一角につばさ銀行本店はあった。
今朝も店内では朝の恒例行事が行われている。
瞬「やあ、志保美さん今日も綺麗だね。穂波さん今日は新しいスーツだね。とっても似合っているよ。ああ、北嶋さん口紅の色変えたね。とっても綺麗だよ」
女子行員たち「キャー!頭取おはようございます。今日もとっても素敵です~♪」「キャー頭取、私はどうです?」
瞬「君もとっても素敵だよ。今日のランチの予定は?」
女子行員たちに愛想を振りまく頭取・利河瞬。頭取という立場にありながらあちこちをうろうろし、女子行員たちに愛想を振りまき、しかも女子行員たちにとんでもなく人気がある。その様子を窓口担当の
映(みんなはあんな風に頭取とお話できるのに、私はダメだわ。みんなみたいになんてできない。自信がなくて…)
そこに一人のお客が入ってきた。春樹だ。
映「195番でお待ちのお客様、お待たせ致しました。どうぞ」
春「あの、すみません。実は通帳を失くしてしまって…」
映「通帳を失くされたんですか?」
春「ええ、本当に恥ずかしいんですけど。こういう人っていないでしょう?」
春樹は苦笑いして言った。
映「そんなことありませんよ。割とそういう方っていらっしゃるものです」
映美は営業スマイルで答えた。
春「そうなんですか?こんなバカなことするなんて自分だけじゃないかと思って」
映「そんなことありません」
春「でも、あなたは失くしたりしませんよね?」
映「え?私ですか?そうですね、あんまり失くすことはないですね」
映美は営業スマイルを崩さずに話している。
春「そうですよね…。ああ!すみません、ついくだらないことをベラベラと。あ、あれ。あのちょっと目立つ人はどなたですか?」
映「え?ああ、あれは当銀行の頭取です」
春「頭取ですか?!いや、カッコ良い人ですね。若いし」
映「ええ、そうですね。銀行内でも女性に人気が高いんですよ」
春「そうでしょうね。人目を引く方だ」
頭取の話になった途端、映美の営業スマイルが少し崩れた。
映「…」
春「ああ!すみません。本当にくだらないお喋りを。僕みたいなのは迷惑な客ですよね」
映「いいえ、そんなことありませんよ。大切なお客様ですから」
映美はまた営業スマイルに戻って答えた。
その日の夕方、銀行の更衣室で映美が自分のロッカーのドアを開けようとするとメモがはさんである。何かと思って開いてみた。
〔今度の土曜ランチでもいかが?12:00に角のカフェの前で 瞬〕
映「頭取?!どうして私に…?」
嬉しいのと戸惑いが半分ずつだった。でもきちんと話したこともないのに不思議でしょうがない。
映「からかわれてるのかしら。でも…」
頭取はからかってこんなことをする人間ではない。映美はちょっと信じてみることにした。
土曜日、約束の角のカフェを目指している映美は歩きながら時計を見た。
映「ちょっと早く来すぎちゃった…」
あと数メートルで角のカフェ、という所で時計の長針はまだ8を少し過ぎたところを指している。緊張して早く着いてしまったのだ。
映「どうしようかな…」
ちょうどその頃交差点の対角線上の歩道を洵が歩いていた。すると車道を挟んだ反対側の歩道を春樹が歩いているのが見えた。
洵「ビンゴ!春発見!」
洵は慌ててビルの陰に身を隠し、春樹の行動を目で追った。すると春樹は誰かと待ち合わせのような様子で角のカフェの前に立った。
洵「ん?誰かと待ち合わせかな。時計見てるし。ちょっと見ていよう」
するとそこに見慣れない可愛らしい女性が来た。
洵「誰だ、あれ?まさかあの子と待ち合わせじゃないだろうな」
映美は着くのが早すぎてしまいどうしようかと思ったが、頭取を待たせる訳にはいかない、遅れるよりは待った方がいいと思い、そのまま約束の角のカフェの前にやってきた。
春「遅いなぁ、とっくに時間過ぎてるのに」
映美が立った場所から少し離れたところから声がした。映美はなんとなくその声の方を見てみた。
映「あら?あなたは」
春「え?ああ!あなたは銀行の。先日はすみませんでした。くだらない話をだらだらと」
映「いいえ、いいんですよ」
春「あなたも待ち合わせですか?」
映「え?ええ、そうです。あなたも?」
春「ええ、そうなんですが…、もう時間とっくに過ぎてるんですよ」
映「まあ。それはお気の毒に…」
映美は営業スマイルで会釈をしてから自分もまた時計を見てみた。12:00までにはまだ少し時間がある。映美は少しドキドキしながら12:00を待った。
そしてさらに時間は過ぎ、立っている足が少し痛くなってきた頃、少し離れた隣りからまた声がした。
春「もう来ないかな…」
映「…」
春「あの…、失礼ですけど、何時に待ち合わせを?」
映「え?えと、12:00に」
春「そうですか。僕は11:30です。どうやらすっぽかされたようだ」
時計の針はもう12:40を過ぎていた。
映「私も、どうやらそのようです…」
映美は苦笑いして春樹に言った。
相手は頭取なので時間通りには来ないのかも、と思っていたが、あの頭取が女性を40分もこんな所で待たせる訳がない。あきらめて帰ろうと足を一歩前に出したその時、隣りからまた声を掛けられた。
春「あの、もしよろしかったら僕に今日付き合って下さいませんか。ここで会ったのも何かの縁だと思うし。実はランチの予約をしているんですが、せっかく2人分してあるので、あなたがよければ、なんですが」
映「あ、あの…」
春「あ、すみません。やっぱり嫌ですよね。こんな知りもしない男となんて」
映「い、いいえ!せっかく予約なさったんですから。お付き合いします。私も今日は誰かといたい気分です」
春「本当ですか!?ありがとう。予約もキャンセルしなくて済んだ。実は人気のあるお店で1ヶ月前から予約してあったんですよ。すっぽかされるなんて思ってなかったから」
映「よかった。私でお役に立つのなら。そんな人気のあるお店なら私も行ってみたいし」
春「それじゃあ行きましょうか」
二人は楽しそうにその場を離れた。
その一部始終を交差点の対角線上のビルの陰から見ていた洵は、見てはいけないものを見てしまった気持ちだった。
洵「う、うそだろー!?あの春があの子とデート!?麗華になんて言ったらいいんだよぉ。こんなこと言えないよ~。どうしよう、とりあえず後つけてみようか…」
その時、麗華から洵の携帯に電話がきた。
洵「うわ!麗華!えと、あのもしもし…?」
慌てて恐る恐る出る洵。
麗「洵、今どこ~?春樹の調査すすんでる~?私もね、私なりに…」
麗華が一生懸命話しているが、洵の耳には聞こえてこない。今この春樹の状況をどうしたらいいのか。説明するにできない。
麗「ちょっと洵、聞いてるの?私が喋ってるんだから聞いてよ」
洵「あ、ごめん麗華。俺今ちょっと手が離せない状態でさ。またこっちから電話するよ。悪いな、じゃ!」
洵は焦って一方的に電話を切った。
麗「もう、なによ~、洵のやつ~」
麗華は一方的に切られたのでちょっとムッとしていた。
洵(ごめん、麗華。でもこんなこと言えないよ…。はっ春!?追わなきゃ!)
春樹は知らない可愛い娘とオシャレなレストランで食事をしている。それをレストランの外から街路樹の下に植えられている生垣に隠れ、ハンバーガーをかじりながら洵がそこで張っていた。
洵「春のやつ、あの娘と一体なに話してんだ?しかもちょっと楽しそう…。
くそ――――!あっ出てくる。今度はどこに行くつもりだ…」
春樹と映美の後をつける洵。春樹たちはウィンドーショッピングなんかを楽しみ、公園まで行って散歩なんぞをしている。傍から見ているととっても楽しそうだ。
洵「おいおい、マジでマジデート!?麗華には言えないよ~。どうしよう~」
そうこうしているうちに、春樹と映美はその公園で別れた。洵がそれを見てホッとしていると、春樹の姿が消えた。
洵「あれ!?」
いつの間にか春樹が背後にいた。
春「洵、俺に何か用か?1日中つけてたな」
洵「(ウソ!?バレてる…)あの、どうしてわかったの?」
春「尾行が下手なんだよ。丸見えだったぞ。幸い彼女には気づかれてないようだったが」
洵「よかった~。じゃない!そうだよ!あの娘は誰!?何なの!?」
春「つばさ銀行の窓口のお姉さん」
洵「つばさ銀行?」
春「そう。利河瞬について随分わかったぞ」
洵「あ」
春「「あ」ってなんだよ」
洵「それで彼女に近づいたの?」
春「他に何がある」
洵「そっか~。そうだよな。あ~よかった」
春「何がよかったんだ?」
洵「あ、いや、別に…。それで?彼女なんだって?」
春「彼女は関係ないだろう。知りたいのは利河瞬のことじゃないのか?」
洵「そうそう!そのつもりで聞いたんだけど」
春「ここで話すようなことじゃないな。麗華の家に行こう。ちょっと麗華にも手伝ってもらうことができた」
洵「?」
翌日、麗華、春樹、洵の3人はつばさ銀行の会長室にいた。
誠「これは麗華嬢。わざわざいらっしゃるなんて、どうかなさったんですか」
麗「こんにちは、誠さん。別に用という程のものではないですわ。近くを通りかかったものだから、季節のご機嫌伺いにと思いまして。これ、つまらないものですけど」
誠「すみません、わざわざ。せっかくですからうちの頭取にもご挨拶をさせましょう」
麗・春・洵「(きたっっっ!!)」
誠が机の上のボタンを押し、秘書に伝えた。
誠「私だ。利河くんを私の部屋に呼んでくれないか。お客様だ」
秘「はい、かしこまりました」
誠「しばらくお待ち下さい。先日のパーティではご挨拶もできなかったので」
麗「いらっしゃいませんでしたものね。でもその前のお披露目の時は私のほうが失礼してしまいましたので。でもやっとお目にかかれるなんて、嬉しいですわ」
麗華はニッコリ笑って言った。
そこに会長室のドアがノックされた。
瞬「利河です、失礼します」
ドアが開いた。利河瞬だ。今日も相変わらずスラッとしたスタイルにブランド物のスーツを何気なく着こなし、立っているだけで華のある男だ。
誠「利河くん、こちらは緑川グループ会長のご令嬢で、緑川麗華さんだ」
瞬「初めまして、利河瞬と申します。お噂はかねがね、会長の方から伺っております。お目にかかれて光栄です。先日のパーティは仕事でスイスへ行っていたものですから、失礼してしまいました」
麗「こちらこそ、お目にかかれて光栄ですわ。先日は残念でしたけど、お仕事では、仕方がありませんもの。それより、私のほうこそ、頭取のお披露目パーティには失礼してしまい申し訳ありませんでした」
瞬「いえいえ、お父上にはお会いできましたから」
麗「これからも緑川グループをよろしくお願いしますわ。ところで、今日はお友達が一緒ですの。ご紹介しますわ。こちらが長日部春樹さん。
誠「青蘭学院ですか。優秀でいらっしゃる。でも麗華さんとはどの様なつながりでお友達に?あ、いえ、ぶしつけな事を言いました。すみません」
麗「いいえ、結構ですわ。ちょうどいいわ。利河頭取もいらっしゃることだし」
春・洵「(きたっっっ!!)」
誠・瞬「?」
麗「誠さん、利河さん、“椿凌”という人物はご存知?」
誠「椿凌?ええもちろん。ギャンブラー界の№1だ。こないだもパーティにいらしていましたし」
瞬「…」
麗「利河さんも、ご存知ですわね?」
瞬「!!」
誠「利河?知ってるのか?」
瞬「会長…」
麗「それで、あんなに強い人は初めてだと椿凌が申しまして。また勝負したいと」
春・洵「(そんなこと言ってない!!)」
誠「まさか…、瞬また行ったのか!?もう行かないって約束したじゃないか!」
瞬「だって、こないだのパーティに椿凌が見かけない素敵なお嬢さんを連れて来てたって、誠が言ったんじゃないか。誠が他人のお嬢さんを褒めるなんて滅多にないことだから、これはよっぽどだと思って」
誠「それで『BLUE MOON』に?」
瞬「ああ。椿凌の出入りしてる所なら会えるんじゃないかと思って。ギャンブルをしに行った訳じゃない。でも椿凌はひとりで来てて彼女はいなかった。それでつまらなくなって、早々に引き上げてきたんだ」
誠「はぁ~~~。また悪い癖が…」
麗・春・洵「(そんな理由のために…)」
誠「でも、じゃあ、麗華さんと椿凌とはどんな関係が…?」
麗「洵、教えてあげなさいよ」
麗華は明らかに呆れ切った態度で洵に言った。
洵「利河さん、俺を覚えていませんか?俺が椿凌です」
瞬「え!?」
誠「???」
洵「ちょっと訳ありで、昼間は学生、夜はギャンブラーをしています。学生のままの俺じゃ、大学にバレるとまずいんで、“椿凌”という偽名を使ってるんです。その面倒を見てくれているのが麗華です」
誠「これは、驚いた。そうだったんですか。でもまさか麗華さんがギャンブラーに協力しているとは」
麗「あら、私は一銭ももらってないわ。うちの一部を提供してるだけ」
誠「それじゃあ№1と言われる君の稼いだものは何に使ってるんだ?」
洵「『BLUE MOON』の支配人へ借金の返済、あとは自分の生活費と学費で消えています。なんの儲けにもなってませんよ」
麗「私は友人としてのボランティア」
誠「そうでしたか」
瞬「それじゃあ、彼女は?」
洵「え?」
瞬「彼女は何なんだ」
洵「ああ、俺の大学の友人です」
瞬「友人か。それじゃあ俺にもチャンスが」
麗「あら、ダメよ。彼女は洵にご執心なんだから」
瞬「え!」
洵「いや、そんなことは…」
麗「もう、またそんなこと言って。七海ちゃんがかわいそうじゃない」
瞬「七海ちゃんっていうのか。しかし!!№1の座を奪っておいて、さらに彼女まで!(見たことないけど)朝倉洵、いや椿凌、俺と勝負だ!種目は何でもいい」
洵「しゅ、種目…??」
春「運動会でもするのか?」
瞬「ライバルがいた方がやる気が出るんだ。燃えてきたぞ――!!」
誠「瞬…」
誠はがっくりと肩を落とした。
その帰り道。
麗「ちょっと、私が言った利河瞬が現れた理由を「くだらない」と言ったのはどこの誰よ。もっとくだらない理由だったじゃない!女の子のためだなんて!いい?洵!あんなヤツに七海ちゃんを渡しちゃダメよ!わかった!?」
洵「はい、わかりました…」
春「しかし、勝負って…。本当にやるのか?」
洵「さぁ…」
-第4話 終-
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