005-1 蜥 蜴 lizardman
それを合図に男女二人組の生徒に見えた存在は、みるみる膨れ上がり異形の姿に変貌を遂げた。
ほぼ同時にりおなはトランスフォンを手に取り、サービスセンターにコールする。
【はい、こちらサービスセンター】
――毎回律儀に応答するんかい。
「ファーストイシュー・イクイップ、ドレスアップ!」
トランスフォンから、データが転送される。
りおなの身体は光に包まれソーイングフェンサーに変身を遂げた。
りおなは剣の先を相手を牽制するようにヒュンヒュンと振りながら
「今の人、女子がまだ
とひとりごちる。
「認識阻害の効果で良くも悪くも気付かれていませんよ」
と、りおなの
「あの慌てた様子だと、屋上で喫煙でもしていたのでしょう。
今逃げた男子は、ひょっとしたら往年のロックミュージシャンのファンなのかもしれないですね」
彼の解説がわからなかったりおなは、当然のように彼のコメントを黙殺した。
ベンチにいたチーフをつかみ首の後ろ、ネコ耳フードに突っ込む。
――昨日と違って今度は一対二やけん、油断したら即負けじゃ。
醜悪な姿になった二体のヴァイスフィギュアは、昨日戦ったフロッグマンに負けず劣らずの、奇妙な外見をしていた。
向かって右のは、直立歩行する大きなトカゲ人間といった外見。
爬虫類特有の感情を持たない瞳に、チロチロと辺りを探るように出し入れしている長い舌。
それに、筋骨隆々の身体が体温を感じさせない茶褐色の鱗に覆われている。
もう片方、左の一体は魚をモチーフにしたデザインだった。
腕や脚の各所にヒレがついていて、身体全体が青白く濡れている。
上半身は海水魚のそれで、黒ずんでよどんだ視線をりおなに向けてくる。
両方とも普段なら目を背けたくなるような醜悪な外見だった。
が、身にまとっている装備がそうさせるのか、りおなは戦意を失わず冷静に二体の怪物を交互に見る。
「チーフ、作戦は?」
フードの中にいる参謀役に声をかける。
「向かって右のリザードマンは攻撃力や守備力、左のフィッシュマンは相手の攻撃をかわす回避能力に優れています。
どちらかを足止めした上で、もう一方を倒すのが効率的な戦術ですね」
チーフが言い終わるより先に敵の左側、フィッシュマンが仕掛けてきた。
屋上のコンクリートの床を、左右に揺れながら滑るようにりおなとの距離を縮めてくる。
りおなはカウンターの要領でフィッシュマンに向かった。
レイピアの一撃を相手の左脚に繰り出す。
だが、攻撃が当たる瞬間、フィッシュマンは事前にそこに攻撃が来るのをあらかじめ知っていたかのように、するりと足を動かす。レイピアの一撃を難なくかわした。
「これくらいじゃ効かんか」
りおなは小さくつぶやいて、ソーイングレイピアをフィッシュマンに構え直す。
その時、りおなのツインテールに留めてあるネコ耳バレッタが、右を向いて強く震えだした。
反射的にりおな自身も右を向く。
そこには前傾姿勢で拳を構えるリザードマンの姿があった。
リザードマンが右の拳を繰り出すその刹那、りおなは無意識に左脚を踏み込み、相手の拳に合わせるようにレイピアを突き出した。
と、りおなの顔めがけて撃ち込まれた拳は大きく弾かれた。リザードマンは右腕を押さえ苦悶の表情を浮かべながら低く唸る。
「今の敵の攻撃を弾いた技がディフェンシブ・ショットです」
「ディフェンシブ・ショット?」
りおなはもう一体のヴァイスフィギュアを警戒しながら、首元にいるチーフに確認する。
「はい、相手の攻撃に合わせて、レイピアをタイミング良く撃ち込むと発動して相手の攻撃を無効化、または相殺して、ダメージを減らします。それと」
チーフは言葉を続ける。
「頭に着けてあるネコ耳バレッタは、敵の接近や攻撃をいち早く察知して、方向や危険の度合いを的確にりおなさんに知らせます」
――うん、効果は今のではっきりわかった。ただのコスプレアクセサリーかと思っちょったけんど、使えるみたいじゃ。
「よし、さっき
敵の攻撃を察知して防御できるとなれば気持ちに余裕ができる。りおなは自然と気合いが入った。
「はい、では前回と違って―――」
フィッシュマンのつかみどころのない攻撃をステップでかわし、リザードマンの突きや蹴りをレイピアでいなす。
りおなはチーフが立てた作戦を頭の中で
――一旦、奴らの前から姿を消し、虚を
「まったく、口ではなんとでも言えるっちゃ」
りおなは二体の動きに警戒しつつ、屋上に出入りするドア近くまで移動した。鉄柵を背に感じながら敵の攻撃に備える。
そこにリザードマンの巨体が一度かがむように踏み込んで、渾身の左アッパーをりおなに繰り出してきた。
りおなは敵の
同時に両足で上後方に跳ぶ。
相手の打撃を逆に利用し、鉄柵の向こう、空中に退避する。当然、そのまま落ちれば地面に激突するが―――
自分の身体が柵より下に降りて敵の視界から消えたところで、ソーイングレイピアを屋上部分の壁めがけて撃ち出し、
剣針から伸びた糸がピンと張ると、りおなは校舎の壁に両足を着け、壁を右方向に駆け抜けた。
校舎の角まで来た時、建物の出っ張りに足を掛け、糸の反動を利用して真上に跳躍。
屋上扉の上部分に飛びあがり、音も無く着地する。
すぐに体をかがめて下を確認すると、フィッシュマンは落ち着きなく動き回っていた。
りおなを吹っ飛ばしたと思い込んでいるリザードマンは、鉄柵に両手をついて下を見下ろしている。
――おっし、二匹の連携が取れちょらん。こっちが見えてない今がチャンスじゃ。
――フィッシュマンの攻撃に対する自動回避能力は、ネコ耳バレッタの索敵能力より大きく劣ります。りおなさんがやつの死角に入れば攻撃はまずかわせません。
りおなはフィッシュマンの背後に音も無く飛び降りた。
青白い鱗に覆われた、右
不意を衝かれたフィッシュマンは、最初に自分に何が起こったのか解らない様子だった。
だが足を斬られたのに気付くと、耳障りな声で悲鳴を上げた。
りおなは思わず顔をしかめる。
その甲高い悲鳴で、もう一方のリザードマンが事態に気付いた。
肩を震わせて怒りを露わにする。
りおなは
こちらを敵視して攻撃してきた相手だが、相手がなんであれ、苦しむ姿は見たくない。
フィッシュマンはとどめを刺され、喉元の傷口からオレンジ色の光が上空に舞い上がり身体はゆっくりと消えていった。
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