33話「あるもの、ないもの、ここにあるもの」
その日の内に、早速、会議に掛けた。
いや、出掛けている内に進めておいてもらったのだが。
「とりあえず、減った見込みをどう回復するかだが」
「そこはやっぱりあれだ、食いもんなんだから料理にするしかねえんじゃねえのか?」
「それじゃ当日までにの客引きにはならねえだろうが――第一時間がねえ、やっつけ料理にしかならねえだろうが」
「それしかねえだろ、出来ることって言ったらあとは……」
「宣伝しようにも、どんなに良くても芋しかないのよねえ」
「他のところに同じ様な人参やらなんやらがあるしねえ……」
打つ手なしだ。
変わった芋で何が出来るのか――カラフルな野菜の中、目立たない肌色の茶色がどう活躍できるのか。
そこで俺は、ただ尻で椅子に乗っていただけだった。
何故か。何も言えることが無いからだ。
もう既に考えられることは全て考えてここまで来ているのだ。
思う、正直、魔法の芋をそのまま宣伝しても効果は薄い、既に目新しさはないからだ。
じゃあ、宣伝でなくても、他に負けないようそれを売るために何か工夫はできないか。
基本食べ物なのだから、そこから更に手を加えるとしたら――加工品になる。
野菜を生の野菜のまま売るのではなく、干し野菜、おやつ、缶詰、各種料理などに形を変え、話題性ではなく腹を掴む。
周辺の町にはまだ魔法野菜こそ出回っているが、まだ野菜のままだ。加工品やそれを主としたレシピは出回っていない。
商売でもスポーツでも何でも、周りが同じことをしてきた時点でその周囲より一歩先に行けばトップになれる。
しかし、やはりここが難点である。
「――それはいままでの準備でしてるだろう」
そう、その通りなのだ。
今まで見たことのない野菜を知ったとしても食べ方が分らなければ買うわけがない、だから生産された魔法の芋が出るたびにその調理法や料理レシピを考えていたのだ。その料理を提供する店の前、屋台の隣で売りに出す、実演販売のようなことをしようとしていた。
だが、
「それを今出していいのか? ――また、祭りまでの間に真似をされてしまわない?」
「でも今出さねえとどんどん後れを取って――」
「焦って切り札を出したら、誰だか知らねえけどそれこそ相手の思うつぼだろう? それに今出しても、結局祭りに来る見込みが増えるわけじゃない」
一番の問題は、ここだ。
極端な話、魔法野菜を売ることは出来るだろう、追従の形になるが出費分は回収できる。
だが――祭りの目玉が減った以上、祭りに来る人間を目当てに準備していた、他の一般参加者の屋台や店がその資金を回収できない可能性が高い。
すでに当日に向け、材料の発注をほぼ済ませているのだ。大量発注なら安く仕入れられるから、レシピ審査をした町役場の方で同じ材料を纏めて仕入れ分配する予定だった。
どれだけ、さけられない出費として覚悟している者が居るか――
いないだろう、商いに携わっていないものは特に。恨まれるくらいで済むならいいが現実それで生活が破綻や破産をしたらどうするのか。
そうならないように売る数の目算を指導もしていたが、根本的に来る数が減るのだ。
やる気になっていたからこそ、最初の一歩で躓くことは――いや、既に失敗済みなのだ。
この町は、既に失敗している。町に活気を取り戻そうとして人を送り出して、そして失敗した。
「……どうすりゃいいんだろうな……」
そんな思い、重い、しかし軽い一言が両肩に圧し掛かる。
しかしそれを払しょくできないまま、その日の会議は終わった。
「――明日はどうしますの?」
「そうだなあ……」
何か打開策が打てるとして、次の行動が移せる限界点まで、あと六日。
俺はトリエに答える。
「……まあとりあえず、半分はいつも通りかな」
「……半分は?」
お茶くみをしていたミーナも、それを聞いていて。
「いつも、通り?」
心配げに。不安げに。表情を曇らせる。
町長フライトや各組合長は、せめて少しでも客が来るようその縁者やコネに伝手に声を掛けに奔走している。十分に打開策を考えられるのは上ではなく下――この会議に参加していた面々だ。特に自由に動ける、俺やトリエはとくに自由に動く権限が与えられている。
考えなければいけないのは分る。
「諦めてもどうしようもないし、下手に頑張ってもどうしようもないしね」
「いっ――今、一生懸命頑張らないといけないんじゃないの?」
叫びそうになるのを堪えている。が、
「それは半分違うと思う――かな」
「……え?」
「――」
とりあえず背伸びをしながら体操、関節を解し、
「こういう時、大切なのは――今いる場所、今あるものでいい答えが無いなら――視野を広げること。新しい物を見つけること、まあ色々あるけど、その為には――まず頭が動かなくちゃいけないと思う」
勉強しなくちゃ勉強しなくちゃ。
頑張らなくちゃ頑張らなくちゃ。
どうすればいいんだろうどうすればいいんだろう。と、これを連呼しているのは思考とは言わない。頭を動かして考えているわけではない。思考の停止は答えが止まっていることだ。
「で、じゃあ頭が動かなくなる、思考が停止するのはどういうときか――それって大概不安や恐怖じゃない? で、それってストレスの所為だよね、多分」
それをどう処理するか――いい状態に転化、昇華させられるかが物事の成否に関わるのは間違いない。スポーツ選手のハングリーさ、飢餓感もある意味それだ。体や心に掛るストレスを利用し五感や貪欲さを暴力的にだが引き上げている。寿命が限られたスポーツという舞台だからこそ生きる手段だが。ただし、これは思考ではなくより肉体的――瞬発的な反射、限りなく感じたままの答え――感性であるので今回使い様がない。
自分を追い込んで出せる類の結果――とは真逆だろう。多分。
落ち着いてよく見なければいけない。広い感性で甘受しなければいけない。
緊張も、不安も消さず、忘れず、程よく放っておくために。
ストレスと共生すること。排除するのではなく。問題だらけ、障害だらけの社会生活で大切なのは。共生とは活かし合うことだ。磯巾着とクマノミのように活用することだ。
どんな辛い状況に陥ってもそれが出来るのなら精神的には潰れない。
と、思う。
「だから、半分いつも通り――出来ること、いつもの仕事やなんかもして、出来ない事だけでいっぱいにならないようにする。ついでに言うなら、視野を広げるなら問題の原因や障害だけを見つめてるより、その外側に目を向けないと新しい情報って手に入らないしね」
幸い、まだその時間は僅かだかある――それが無くなるのが残り一週間までだ。
そこから先三日間が、余裕を失くして頑張る期間。残りの三日で準備、ラスト一日ではどうにもならない。もう当日の準備だけで終わりだ。
今ある材料だけで足りなければ、外に目を向けるしかない。
町の中で可能性を探すよりはずっと――というより、そこで出来ることは全てしたのだ。
格段に、砂漠で針を探すようなもの。
例えば学校で将来の進路を見つけるとき――
学校の中、成績だけで進路先、推薦のある大学や就職票だけを見つめているより。
バイト先や、遊びの先――ゲームでも漫画でもそれを作る人やなにか。
あるいはもっと外――自分探しの旅なんて言わずとも、テレビに映るそれを知ろう、でもいいのだろうが。
と、思うのだが。
「――まあ、それも見つかればの話なんだけどね」
「……それで本当に――」
「ミーナさん」
「……ごめんなさい、不安になっちゃだめなんだよね?」
「うーん。いやいや半分不安になること。残りの半分は、それを利用して何かすること」
ならないようにすると、それを押さえつけることに力を割くので調整が返って出来ない。
「いっそ、意識的に不安になることでそれを制御した方が不安は消えるよ。例えば――失敗する要素を炙り出しにしていくこと、それはそのまま不安にもなるし、やっぱり失敗を未然に防ぐことにもつながる――と思う?」
考えていく内に不安は消える。ただし不安をあおる様に探すのではなく、あくまで見つけるため、見えないそれを形にする方法でだ。
今回、答えが出ない状態だから、答えが出るまで半分ずつ残すのがいいのだ。
そういう俺に、ミーナさんは弱り切った笑みを浮かべる。
「……私年上なのになあ……」
「そこは役割分担ですよ」
気負うことなく告げると、ミーナは困惑しながら弱気を隠して、
「……ええ? 私なにも出来ないのに?」
「不安になってくれてるじゃないですか。俺がそんなに不安にならない分――おかげで緩まないで済みますよー」
「そうですわね、どこかで誰かが騒ぎ立てないと、誰も危機感を覚えないものですわ」
「そういうのはあんまり嬉しくないなあ……」
「――さあさ、各々できることを探しましょう。これ以上は無駄話ですわ」
頷き合い、そこで解散した。
それから、便利屋の仕事と、祭りの進捗の確認、人手の調整に借り出されつつ、連日行われる打開策、解決案の思索に町のみんな全員で、話し合って、料理を試してみて。
何も見つからず、ついには祭りが失敗した時の話をし出し、役場では既に終わった後の予算の削減や組み直しまでに手を出していた。
既に、終わる準備をし出していた。まだやる気を出している、事態を完全には把握していない人達には分らないように。
――もう成功すると思っていない。
そこに歯噛みしながらも、何も出来ない。
魔法野菜の氾濫が判明してから、勇者連盟に挨拶をしてから、一週間。
限界が訪れようとしていた。
どうしようもない。なにも見つからない。
どうすれば、チート勇者どもに勝てるのか。鼻の穴を抜かせるのか。このままでは俺は帰れなくなりそうだし――それ以上に、この町の神社で暮らしている、命さんのやりたいことやこれからの幸せやなにかまで壊れてしまうのではないか?
町がなくなって、そこで暮らしている人が絶望に耽っていて。
彼女の立場でそれに無縁でいられるだろうか。そうなれば彼女はまた――
そういう訳にはいかない。
さて、整理しよう。
勇者たちは真似してきた。差別化し、これからこの町の長所としようとしたそれを。
真似されないためには――それとも真似されてもいいものにするか。今後とも同じような手口でこちらを潰すつもりなら。そんなものが、手段があるのか?
それで、これからどうするのか。
「……ボンドさん」
「ん?」
「――お疲れですか?」
「え? なんで?」
「……難しい顔で、席に着いた切り、匙を止められていたので」
自分の中に余裕がなくなっていることに気づく。
夕食時を大きく越える様になっていたので、しばらく食事は自分を待たないようにしてもらっていた。
元より町の状況や仕事の話も割としていたので、彼女も現状を把握している。
「んー、ちょっとね……」
「珍しいの。いつでも空元気とやる気と能天気で回っとるような男が」
「なんですかその痛々しいバカは」
「この世界に来てからのお主じゃが」
「――そんなことありませんよ」
いや、本当は的確ですとも。
極力何も考えないように、それでいて不安で居つつ、気力だけは絶やさないように。
難しく考えず、場当たり的に、でも深読みしたり。
この町に馴染みつつ、向こうの世界の自分を維持しつつ。
周りを観察しつつ我武者羅に地味に。会議の進行なんて派手なことやったり。
二律背反にし、一人で精神の均衡を保とうとしていた。
でも、さすがにちょっと手に余っている。
「……でもまさか、町興しで妨害工作っていうかわざわざ敵が出て来るなんて思わなかったんですよねえー。それも勇者? 同じ異世界人の日本人とか――精々地元民のやる気の無さとかそれぐらいだと思っていたのに」
勇者なんだから作戦名『みんな仲良く』が標準装備にしておいて欲しい――
「……ていうかあいつら本当に勇者か? あ、いや確か稀人――意図せず、期せずしてこの世界に来てしまったそういう人を集めて保護してるっていうし」
もしかしたら、そういう連中が勇者という虎の威を借りる狐になっているのかもしれない。
だとしたら――案外この世界に復讐して向こうの世界にする為、わざと魔法文化を衰退させようとしているとか? だとしたら性格悪いな。ていうかバカだ、こっちの世界に馴染んだ方が絶対無理がないのに。
勇者なら、召喚される際に精神的資質も精査されるのだから。こんなことをする人間が来るはずがない。けど、組織の名目的に、絶対本物の勇者も居るはずなんだけどな。
そういう人たちは今回のこれを見たらどう判断するのか。でも今『止めさせて』と言ってももう既に広まっている以上は無駄だしな、それは後々考えるか。
「……」
「……じゃろ?」
「あ。あはは、すみません」
食卓でマナーが悪いが頭を掻く。
「まあとりあえず今は食卓じゃ。先程席に着いてから一口も手を付けておらぬだろう?」
「……あー、マジでぼーっとしてたんですね」
「今日は遅くなるであろうし、お主への労いも込めて命にお主の故郷のマスト料理を作る様に言っといたのに」
「ああ、それでー……」
カレー。それも昔ながらのライスカレー。
黄色いルー。ごはんに真上から掛けて食べる感じ。カレーライスではなくライスカレー。
精神的にテンションが下がっている時でも確かに食欲をそそる香りのスパイスだ。
ただ最近は食べ物を見る度に何かアイディアは無いか祭りをどうしようか何かイベントを案をと――思考が迷走するようになっていたので、食べる楽しみは失っていた。
ここで食べるときぐらいじゃないのか。落ち着いて、団欒として。
そこまで侵食されていたのか。と思うと、気持ちを込めて作ってくれていた命さんに申し訳なく、そして情けない。
「――じゃ、頂きまーす!」
気持ちを切り替えた。そうだ、食事は楽しく食べるものだ。
そういえば この世界に来てから基本この世界の料理ばかり――
というか、この神社に来てから基本、昔の日本食のような食事であることが多かった。まだまだ単純に、火を通した具材にシンプルに調味料をかけるか煮込むかだった。
いかにも現代食らしい複雑な味わいのそれは町でも食べなかった。地元食の勉強の為、それに向こうの料理は向こうに変えれば食べられるからと、あえて郷土料理やこちらの家庭料理を選んでいた。
感慨深い、これまで自分のしてきたことを見つめてみて。
「……何気にこっちで初カレーだなあ……」
酷く懐かしい。
木のスプーンで、口に含む。
「……んん?」
噛む、舌で転がす、呑みこむ。
これは、
「――味がおかしかったですか?」
「――ああ、いや、」
嘘を吐かないでくださいね、と、仮面の下で尋ねてくる。
「……珍しいね、正直料理失敗したの初めて見たんだけど」
「うまく逃げたの!」
「悪意ある発言どうもです」
「す、すみません。その、出来る限りボンドさんの故郷の味にしようと思って、売られているカレールウそのままでお作りしたのですが……」
「判定、命さんは悪くない」
と思うのだが。
「……ていうか、なんだろうこれ」
香り立つスパイス、火もちゃんと通ってる、ほろほろのトロトロ具合も完璧、食感が悪くなるほど煮ていないし、辛さも丁度いい。ほのかにコクのある甘みと爽やかな酸味もあって、
「蜂蜜もリンゴも入ってるっぽいのに、なんか、味がボヤけてるってるっていうか」
舌の上で味が纏まらずに解けていく、水っぽいわけでもないのに。こう、バラバラに煮たような感じだ。小麦粉のトロミもあるのに。
「……どうやって作ったの?」
「ええ。普通に具材を炒めて、水、湧いたらコトコト柔らかくなるまで……最後にルウ、ですけど」
「……何も間違えてないっぽい」
「ルウの方が間違っとるんじゃないかの。どれ一口」
神様は直接指を突っ込んで舐める。
「ミナカ様! お行儀が悪い……すみません、ボンドさん、お皿、お下げして装い直してきますね?」
「いやいやこれくらい問題ないから――ていうかミナカ様は食べなかったんですか?」
わざわざ今味見するということは。
「あ、いえ、その、実は私たち、辛いのは苦手で……。以前に食べた時は、その、一口二口で、そこまで味は……」
「ああ、そうなんだ」
敬遠している料理をわざわざ奮闘して作ってくれたのか。
心に響く。カレーの所為ではなく、ぽかぽかと。
「――命、このカレー、塩は入れたか?」
「え? 作り方には炒めて煮てこれを入れるだけと書いてありましたが――炒めるときに下味で、指先で少々。でないと野菜もお肉も臭みが出ますので」
「えっ、ルウで作るやつは普通塩入れないんじゃ?」
主婦の手間を省くため、カレールウだけ入れれ出来るようにしたんじゃないのか?
手軽さが売りだから。板チョコ系のルウは炒めるときに下味の塩なんて入れなくても十分味が付くくらいに塩味が濃い。前にカレーうどんを作ろうと麺つゆにルウを入れたらやたら塩辛くなったことがあるから間違いないし、煮込めばそれこそ下味をしたかなんて分らないほど味も染み込むのだ。メーカーにもよるがそれどころかトマトやバナナにヨーグルト、チョコなどの隠し味も入っていない所の方が珍しい。カレー粉はルウとは違う。
……でもそういえば、具を噛んででなんか妙に野菜の味がはっきりし過ぎていたというか。
それは適度に塩が浸透していなかったからなのか?
「香辛料を粉にして固めただけなんじゃないのかの」
「そんな様には……普通に板の、粘り気も出ていましたし、チョコレートのような形のものでしたが」
どちらにせよ、ルウの所為だろう。
「味見でおかしいとは気付いていなかったのか?」
「説明にはルウを入れるだけと書いてありましたので、こういうものなのかと……」
じゃあ説明の方が悪いな。
「……まあ、これでも十分食べられるんで。ちょっと味がボヤけてるだけだし。普段が美味しすぎるのがいけないだけで」
「タラシめ」
「ソースを?」
「あっ、垂らしますか?」
「ううん? このままでいいよ、一味足りないとは思うけど、十分美味しいから」
「正直においしくないと言ってくれた方が、胸が楽になります……」
「むしろお主らが甘口なのじゃ!」
ははは、笑いのトーク、息が合って来ただけだね。
「まあともかく、勇者製品って言ってもこういうこともあるのか……人の作るもんだし、出も広まってる……考えられるのは……」
普通にパクパクがつがつ食べる。上手くないだけで不味くないのだ。むしろ、とても優しい味に感じる。うん、エコ贔屓だが。もしかして、無意識に彼女好みの甘口にしてしまっただけかもしれない。それはないか。
リンゴと蜂蜜は入っている。小麦粉も油でちゃんと炒めてある。
でも、塩だけが入っていない?
何故か。これを作った人は一般的なカレールウに塩が入っていることを知らなかったのか?
それは自分もカレーうどんで最初は間違えたように。
「……普通に塩が入っていることを知らなかったのか?」
でも要するに、未完成品というか欠陥品だ。
そういえば他の勇者製品も、割と現代チートっぽいことをしているけど――
……実はそうじゃないのが多いよな。
なんていうか、完璧に向こうの世界のそれそのままじゃない。
物を冷やすと保存がきくとか――冷蔵庫、そういう知識はあっても、実際にそれを実現する科学部分を魔術で補っているものが多いし。鉄道だってレールを魔物が壊したり盗賊が鉱物材料として盗むこともあるから、ああいう空飛ぶ形にしたわけだし。この世界に適合させている……。
「――ん?」
この世界にしかない物を、この世界にしかない物で作るなら?
カレーって全く別のテイストになっていたのか? 本来それに似た料理は在って勇者もそれを改良、発展させてこの形にしたってことだし。
それともまったく同じになったのか? どうなんだろう、わからない。
でも――この世界にしかない物にするなら?
なら。
「――っ?」
自分の今までしてきたことは、なんだ?
何を目指していたっけ。
そういえば、広まっている野菜って何だっけ?
――パッと光が差した気がした。
いやいやまて、まだだ、まだ足りないものがある。
今からこれをやるなら確実に人手は足りない。おそらく組み合わせを全て確かめるのに時間が掛り過ぎるしそこに人を割いていたら祭りの運営自体が怪しいしこの町で一般の人に頼むのも自分のところで手一杯の筈――
流石にもう余裕ない筈だぞ? どこを削る? 他に必要な物は? 人以外は? 金は削るだけならどうにかなるか?
そういえば、この世界にしかない物は魔法だけだったか?
「――どうした? やはりまずかったか? 限界が来たか?」
「――もしそうでしたら、遠慮なさらずに……」
「そうだねまずい」
時間が足りない。
「えっ?」
全部掻き込む。飲み干す。温野菜サラダもコップの水も一気飲み。
実はそんなにまずかったのかと絶望的な表情をするが、
「――ああそういう意味じゃないよ? これから急いでやることが出来たから。じゃ」
「――ボンドさん?」
「ダイジョブ、無理はしない、ちょっと来期の予算について相談してくるだけだから」
そうだね、そうだ。
自分だけでどうにもならなければ素直に人を頼ればいい。
誰も力を貸してくれなければ、そのとき自分に運が無いだけだ。
それだけの話だ。
そもそも勇者はソロプレイ推奨ではない。
だから、みんなの力を借りなきゃね。
――それこそ、ときとして、敵の力さえ味方に付けて。
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