28話「静かなる再出発、再確認」

使用方法が分った二つの魔法の芋の使用法を役場や商工会の上に説明すると、昨日の今日で忙しないがそれに関わりそうな人たちが再び招集された。

 それも予定外の緊急招集として、たまたま話を聞いた女性が異様なテンションで――

「――美容品!?」

「お肌がつるつる!?」

「若返るの!?」

「比喩としてならそうですね」

冷静に対処したが勢いは変わらず目がマジなので。

「――とはいえ実際、食べた人は今日の朝にはツルツルの艶々でしたよ?」

「どこの誰!?」

「命さんです、神様に使用法をお聞きしたので早速試して貰いました」

「巫女様ね!?」

「私ちょっと事実確認してきます!」

「畑耕してくるわ!」

「正直男目線で言うなら、いくら肌が艶々しても顔が悪けりゃ――」

 殺気が迸った。

「……まあ、キレイになるのは良い事だわな」

 余計な事を言いかけた男は目を逸らした。

 女性陣は本気であった。それはこれまでのとりあえずやってみましょう的な和気藹々のゆるゆるな感じでは完全になかった。

 それは捨て置き、

「……で、それで何をするんだ? ――食べるだけじゃねえってことだろ?」

「街興しの一環で定期的にミスコンでも開きますか? この芋を食べて綺麗になりました――と銘打って」

「ちょっと宣伝が露骨すぎないか?」

「美人の町、美人になれる街、きれいな女が多い宿場町――うーん。女以上に変な奴が来そうだな」

「とりあえずあえてそれを押し出す必要はないのでは? 美人が増えたからと言って女を買いにくる輩は確かにいそうですけど、いい商品になることは確かですし、ここ特産の美容品とだけすれば――」

「この街の新しい加工業として仕事が増やせるな!」

「なら原材料確保の為、しばらくの間は一般用の食料品として売るのは止めた方がいいですかね。それを種芋として盗まれて余所で量産なんてされたら――」

「厳重に管理した方がいいかもしれないな」

「となると警備に人を雇った方がいいか?」

 ほんの少しだけど、呼ばれた当初の目的については目途が付いて来た、と言っていいのかもしれない。とりあえず、という程度の街の収入源の確保なのだろうが。マニアックなちょっと変わった芋、ではなく確実な目玉になる魔法の芋だ。

 芋だが。確実に効果の出る美容品なんて女性から見れば喉から手が出るものだ。

 あんな夢を見た後の所為かそこをそれほど気にする余裕はなかったが、普段より確実に肌は煌めいていた。

 家を出る際、いつもと調子の違うことで心配させてしまった。それが申し訳ない。

 この世界で俺がやるべきことが一つ増えたわけだが、ミナカ様には、今日の夜にも夢の中で知り得たことを話さなければならないだろう。

 それはともかく議題は尽きない。

とりあえず、ピンクのハートの芋は『乙女のハート』と名付けられ、その名前のよういつまでもみずみずしい肌を保つ芋として量産されることが決まったのだが。

「で、こいつは……」

「魔法に反応して芋料理になる、ねえ」

「じゃあ試しに一つ」

 余っていた謎芋を昨夜と同じくまず魔法で4分割、皿の上のそれに火を出しながらポテトチップスを食べようとイメージし点火。

 ポン! と、出来立て揚げたてのそれが皿の上に広がる。

 会議室に驚きが響く中、

「とまあこんな感じです。あと、魔法を芋に与える際食べたい物のイメージも必要です。試したのは火と水までですけど――そこでなんですけど、魔法が使える人います? 私が使えるのはまだまだ弱い魔法で、種類もそんなになんで」

「あー、誰か居るか?」

「昔は使ったこともあったけど、今はなあ……」

「そうねえ……」

「私も――」

「俺もダメだなあ……」

「あれ、結構いないんですね?」

 ファンタジー世界の住民なのに。

「年を取ったからなあ、道具を使って火を付けた方が確実なんだ」

「水も井戸や水路から運んだ方が確実ね。それか魔術道具」

「子供たちの方が、出来る子が多いかも知れないわね」

「純粋な魔法となるとねえ」

「使えたら楽だけど、好んで使いたいとは思わないからねえ」

「なるほど、そういう理由もあったんですね」

 いやまあ、使ってる人を見ることがなかったというのは分っていたが、単に魔術道具の方が楽なだけでなく、割と普通に使えなかったのか。

 考えてみたら当たり前だけど、使えたら肉体労働なんかしてないもんな。

 魔法は――その根幹は魂で操るものだから、老いで使えなくなるのか? 

 やはり俺が使えるのは、100+0を÷2なのだろうか。

 となると、

「……今後のこの街の為には丁度良い物だと思ったんだけどなあ」

「ん? どういうことだ?」

「ああいえ。外に買う人間が居るのかって言うのもなんですけど、今後もこの世界独自のもの――純粋な魔法や魔術、錬金術で売りを作るならそれを発展させる必要があるわけで……この芋でおいしく練習できるんじゃないかと思ってたんで」

 使える人間自体がごく少数なら……。売りにもこの街の礎にもならない。

「それでなんですけど、この町で今魔法が使える人って、どれくらいるんですか?」

「そうだなあ、おおよそ二割り――三割には届かないだろうな。それも見込みを入れてだ」

 ファンタジー物の知識なんてそんなにないが、多いのか少ないのかよくわからないな。

 いや、それに比べれば多いのか? 昔話や童話だと村に一人居るかいないかが多いし。

 もれなく全員使えるってわけじゃないのか――使えるならもうそれが勇者製品より発達しててもおかしくないしな。

 錬金術師もベアマートだけだし。やはり数は少ないのかもしれない。

 それはともかく、これはここで言っておいた方がいいだろう。

「これからこの街を発展させるには……ベアマートさん一人に頼りきりになる訳にはいかないし、やはり、魔法自体をこの街の新しい特色や文化として磨くには、それを使えることが前提となると思うので」

 ベアマートはうんうんと頷く。やはり負担が行っていたのだろう。

 それを見て、

「……勉強しろってことか」

 おもわず、そこにいる面々が唸り上げた。

 それは難しい、ということは俺も分っているのだが。

「これはここから先、十年二十年と見てやっていかなければいけないことなので、今は実感も成果も感じられないでしょうけど、種は撒いておくべきだと思うんですよね」

 絵本片手にあいうえおを覚えるみたいな、それに近い。 

 人が目の前にあるものを感じることが出来る理屈の一つ――知ること。

 何か物事を感じるにはそれがあるというのを知ること。眼でもいいし知識でもいいし、しかしそれを知らなければ気づきもしないだろう。

 そこで感じる心――感性が芽吹かなければ、何も感じられない――

 しかしそれが発展することで、何か新しいことが始まると思うのだ。

 そして何かを思い描き作るのなら、より多くを知ること。それがより感性の幅を広げそして深めていくことになる。これは現実の物作り――物に限らずシステムや法律、スポーツ、何かを勉強するというそれ自体も同じだろう。これは出来る出来ないではなく、やらなければ始まらない――という言葉の根幹にあるものだと俺は思う。

 何も感じないから、やらなければ。

 なんてなんとなく思うのだ。確証も誰かの保証もないが。

 なので、

「それで手始めに、かたっ苦しい勉強や練習じゃなくて、こういうおやつになる物で――生活の一部として、子供が一人でも出来たり、大人と一緒に何かをするところから。にはもってこいだと思ったんですけどね」

 根本的に使える人数が少ないのでは、難しいだろう。

それに、魔法が本当になにかの文化になるのかというと、正直いまは皆目見当もつかない。

 何故かというと、魔法はもう魔法として発展する余地のない完結したシステムである気がする。極端な話、願ったものが何でも叶うのだ――それ以外何が必要なのかと思わないだろうか?他に何か――と、ぱっと思いつかないのはその所為ではないのか。

 何でも出来るというのは――技術、文明として発展する余地が無くなるまで突き詰められたものだろう。それを生活に根付いた理念の営み――文化にするには、逆にいったいどんな工夫が必要になるのだろうか。

 何かが足りない気がする。使える人が少ないとかそういう事ではなく。

 今の俺には全く分からない。

 なんとなく、金儲けや労力の削除には使わない方がいいと思うのだが。今回みたいに、他にはない物、この世界に存在するはずの無いものを作りだすには問題ないと思うのだが。

「まあとりあえず、このまさに魔法の芋――とりあえずマジックポテト、略してマジポテとしますが、少ないでしょうが需要はある筈なんですけど、これを使って街興し――にはちょっと手間も時間もかかると思うんですよね」

 正直、大っぴらな金稼ぎ向きではないのは確かだ。

「――町長はどう思う」

 そのベアマートの声に頷きを返し、フライトは答える。

「そうだな……だが、必要な事ならやはりするべきとだと思う」

「じゃあ、」

「だが、今は祭りの事だな。とりあえずそれに合わせて今回は動こう」 

 芳しくない反応だが。それがいいだろう。

 魔法も芋の方はその性能テストで各種属性魔法が試されることに。

 やはり、火は揚げ物や焼き物、水は煮ものと酒。

 当初は全て料理になると思っていたが、土の属性は料理にならずしかし土で芋の大きさを自体が分裂し増えることが分った。これは単純に、操作した土から栄養を取ってその場で増えるという事で。風、は対応せず。これについてはベアマートが仮説として、芋は土の中にある、つまり土属性と風属性の相克関係によるものだとされた。

「今日はここまでだな。あとは後は祭りまで各自の作業を進めて欲しい、進捗の報告は密にな、では解散としようか」

 全員が席から起立し、口々にお疲れさまと返してその場から離れた。


「――お疲れ様。ボンドくん」

 そばかすも朗らかになる笑顔でミーナが言う。

「ミーナさんも。お茶くみお疲れ様です」

 彼女は暇さえあればそこに集まる面々をおもてなししていた。先日のウインキによる俺への魔女裁判で、彼女たち親子についても糾弾されたことが尾を引いているのかもしれなかった。町長の娘として、酒場の看板娘だけをしているわけにはいかないのだということだが。

 そして、街のまつりごと、政務に関われる人間ではないから。ただのウエイトレスである彼女にはそれぐらいしかまともにできないから、と卑下していた。実際にはやれば経理でも事務でも書類整理でも出来るのだろうけど、それをする人間なら既に役場にごまんといるし勝手も彼らの方が分かっている。椅子取りゲームの無用な横取りは出来ないだけだ。

 やる気のない人間の、無駄な爪痕だけは残っている。あれからまだ音沙汰はないが。

 最初から勇者と公表されて街興しをしていたら――いや、それではきっと便利屋なんて出来なかったから、ここまでは来れなかった。

 難しいなあ。

「――なにかあったの?」

 唐突に、そう聞かれた。

 メモの整理に残った会議室で。

 笑顔を取り繕うと思って――

 年上の女性の、浮かない顔をして、誤魔化されたときの笑顔を用意している顔に気づいた。

 ああうん、完璧にばれている。それだけでなく気を遣って貰っている。なんとなく、誤魔化すべきではない距離に気づいて。

「……そうですか? そんなに、可笑しかったですか俺」

「うーん、分る人にはわかったと思うけど、すこし、落ち気味っていうか……ううん。少し雰囲気が変わったような気がして」

 そうだろうか。

 だとしたら、

「……まあちょっと色々思うところがありまして」

 思った以上に割り切れていない。

 この世界に来た、自分がやるべきことを見つけたのに。

 失恋自体も、彼女が死んだ――いや、死のうとしたということがしこりになって残っている。

 整理しようにも、思い返せばそれほど多く気持ちの思い出がある訳ではないのだ。教師に頼まれて電話をして、それ以前にほんの少し付き合いがあって――手遅れの片想いに気づいて。勝手に舞い上がっていたようなもので。

 彼女の問題についてもなにも手を打ててなかったことに気づいた。割と自己満足で、本気で対処していなかったと今更思った。話してほしいと言われていただけで。その手の医者でも専門家に頼るでもそんな責任がある訳でもないが――しておけばよかったのではないかと。

 クラスメイトとして、知り合いとして、縁があって、今の自分に出来ることをしていただけで、本当に必要な事は出来ていなかったわけで。

 ――そんなことばかりが頭の中を思い巡っていた。

 片手間で会議に参加していたかもしれない。

 頭と体に仕事の姿勢を叩き込んでいたことは幸いしていたがこれはいけないかもしれない。

 生半可なことをしているのだろうか。

「……少しぐらいお休みした方がいいんじゃないかな? ボンド君が請け負っていた仕事は、もうほとんど終わってるんだし」

「そうですか? まだいろいろやることはありますけど」

 確かに、変わり種の芋も魔法の芋も、とりあえずは手を放して大丈夫だ。だがその代わりに便利屋の仕事は増えていた、畑の拡張にも人手が要りそれはもともと慢性的に不足していたのだ、そこは手を止めていられない。他にもやりたいことはある。この世界で彼女のやりたいことを見つけるには。いや、もう何かあるのではないのか? 一緒に何か――何かをする時間を作る。とりあえず屋台をやるということは決まったがそれだけでいいのか。

 今は一つ一つやるべきことをやるしかないにしても整理できない。目の前のことに集中していないとすぐに頭の中がぐちゃぐちゃになりそうになる。

 そもそも、やりたいことある? なんて聞けない。以前の彼女のように、何もなかったら――万が一それを思い出したら。

 そう思うと怖くて聞けない。やはり出来るだけ一緒に何かをして、察するしかない。

 ああうん。現在進行形で物思いしてしまった。

「……なにがあったのか、話せる?」

「……うーん」

 ああ、この人は、気持ちの整理の手伝いをしようとしてくれているのか。

 悪い人ではないし。

 どう話したもんかな……。

「……実は、夢の中で件の片想いの彼女に失恋しました」

「え? ……」

 煙に巻こうとしているのではない。でも、例え話と思うだろうか。ミーナさんは俺に片想いの人が居たことは知っているから全くのウソとは思わないとは思うが。

 あきらめた、と、伝わるだろうか。

 夢の中での話なんて、と、苦笑いでもするかと思った。 

 しかし、

「……失恋、じゃあ、もうその子の事は、好きじゃないの?」

 年上、そばかすのおねーさんは笑わなかった。

 安心して話す。話を聞いてくれる人だと思う。

「……いや、好きですよ? 好きですけど、もう叶わなくなったというか……ああいや、そうじゃなくて……本当にやるべきことが出来たというか……なんだろ、それが出来ないというか――」

 命さんの事を命さんとしてみたい。見なくちゃいけないのに――

 他にもいろいろある。

 彼女の事を思い浮かべてしまう自分に不快感を覚える。頭の中がモヤモヤして気持ち悪い。

「――うまく区切りが付けられないんですよね」

 失恋ってこんなごちゃごちゃするとは思わなかった。単純に会いたくても会えないとか会っちゃいけないとかそれだけじゃないだなんて知らなかった。

 そこを、考えないようにしなければいけないのだけど、現状、そうは行かないわけで。

 そういう時、どうすればいいんだろうかと。それに、ミーナさんは意外な事を言う。

「……片想いのままにしておいていいと思うよ?」

「……え? どうしてですか?」

 逆にダメだろう。自分のように特殊な場合はともかく、普通の場合でも。

「理屈じゃないからかな。恋心って、そんな簡単に消えないよ? 割り切れても、割り切ろうとすればするほど、無理すると逆に強くなっていく様なものだから――初恋?」

 言いづらいことを聞くなあ。

「……そうですが何か?」

「じゃあ尚更、大切にしなくちゃ。初めて人を好きになったその気持ちは、忘れなくていい物なんだよ? 恋が実るとか実らないじゃなくて、心が人として成長したところなんだから」

 そういうものなんだろうか。それと片想いのままにしていいのかは違う気がするが――ああ、方便か。辛い部分を時間を掛けて忘れて、きれいな部分を残すための。多分、それはこれから自分がしなければいけないことなのだろう――そこに今の自分を落としてくれた。

「……そうですか? ……あ、なんとなく、わかりますけど――」

 でも、目の前にやるべきことが転がっているのに。

 そんな悠長なことをしていていいのだろうか。手落ちにならないか? 仕事にプライベートを持ち込んだら駄目だろうしやっぱり釈然としない。

 それが自然と眉間の皺に出てしまった。

「こら、無理して背伸びしない、自分のゆっくりした成長を大人しく受け入れなさい、年下くん」

「……いやいやいや、時と場合が差し迫って――」

「だから! ああもう、ボンドくんもやっぱりこういうところで変に男の子なんだぁもう。ただの見栄っ張りじゃないのはいいけど……あのね? それじゃあ言わせてもらうけど自分が大変な時は他人を頼るのも意見を聞くのも仕事の割り振りじゃないの?」

「――それは」

 ……そうかもしれない、ていうかそうだ。

 そうなんだけど……個人の問題で他人に迷惑を掛けるのは――

 素直に甘える気にはなれない。

「――じゃあおねーさんが許可します」

「……はい?」

 いやいや訳分らないですよ。

「おねーさんところでだけ、そうやってウニャウニャしなさい。ほかでは無理してシャキッとする。それでいいでしょう」

 折衷案か? だが、それでいいのは貴女では?

「……微妙?」

 ニコリ。そしておねーさんの手が万力のようにガッチリ俺の頭を挟み込んだ。

「何がカナ?」

「……年齢って言ったら怒る場面ですよね?」

「そうだね?」

 ニコッ(狂)! 怖い! あれ、腕が外れない、意外に力強い――! 

 無駄のない労働筋肉が盛り上がった太い二の腕がぎりぎりと!

 いや、誇張表現。

 俺が勝手にそう見ただけだ――本当は優しく微笑んでいただけだ。

 子ども扱いして。

 普通に放してくれた――ああうん、真面目に優しくしてくれたのだ。

 ――でも、その約束は、もう彼女に上げている。

 いざとなったら、泣き場所を提供して貰うのは――

 皮肉な因果に苦笑する。

「……すいません、先約がありますんで」

「……あ、命ちゃん?」

「ああ、覚えてたんですか?」

「じゃあ、大丈夫かな? ……」

 少し残念そうにおねーさんは苦笑した。

 でも実質頼れないので苦笑を返してしまうと、察してしまったのかすっと目の奥を覗き込んできた。

 思わず逸らしそうになる眼を堪えた。

 それにミーナさんは困ったように苦笑して、手招き、屈むよう指示され、従うと横に来て背伸びして、耳打ちして来た。

「――どうしてもえっちしたくなったら、おねーさんにしていいから」

 離れる、目を丸くした。なんて冗談言うんだこの人は。

 逆に、眉間に皺が寄った。

 そんなこと、この優しい人にしたくなかった。

「……怒っていいですか?」

「本気よお?」

「ああそうですかー」

 棒読みし合った。鼻で笑い合い、

「じゃあ今度は本気で、いざとなったら、おねーさんが結婚してあげる」

「はいはい。いざとなったらですね? でも今は目の前の人――じゃなくて、目の前のことに集中してお祭りを成功させることだけにしたいんで」

 だから、とりあえずは、この世界での彼女の母親に報告しないとな。

 ああ、そうか。

「……もう、本気なのに」

「はいはい、本気で感謝してます」

「本当に?」

「本当ですよ」

 問題に向き合えるのは、何も自分一人ではないのだ。

 とりあえず、そのことだけは分った。

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