第54話
ミーティングが終わり、
「下着ブランド巡りしよう!」
「か、奏ちゃん、それって」と私がたじろいでいると、奏ちゃんはシーっ、と右手人差し指を口に当てて続けた。
「ここで言わないの。
言いながら顔を赤らめる奏ちゃんはとても可愛らしく見えた。
そうして私は奏ちゃんに付いて、銀天街へ向かった。銀天街には下着ブランドのショップが密集しているエリアがあることはずっと前から知っていたのだけど、まさか奏ちゃんから勝負下着選びに行こう、と誘われるとは思ってもみなかった。
最初に入った店はやや派手でセクシーな下着の多いブランドだった。
「
ぼそっと私が言うと、奏ちゃんは「でもさ」と目を輝かせた。
「私たちがこういうの身に着けてたら、ギャップで余計に惚れてくれそうじゃない?」
「あー、
「でしょ?それは葵くんも同じかもしれないよ」
そう言いながら奏ちゃんはショッキングピンクに黒いレースとリボンがアクセントのセットを手に取った。結局、奏ちゃんの言っていた「ギャップ」がなんとなく腑に落ちたので、私もこの店で鮮やかな赤い生地に白いレースがふんだんにあしらわれたセットを購入した。
2件目はとにかくリーズナブルなのがウリらしいブランドだった。店頭の手前は靴下が豊富に揃っていて、その奥に下着が並んでいた。あまりにもお財布にやさしいブランドだったので、ここでは淡いピンクに白い花柄レースがついたものと白地に水色のリボン柄が刺繍されたものの2セットを購入した。
最後の店は先の2件に比べると随分、値が張るブランドだった。その代わり、機能性とデザイン性が両立されたブランドらしく、どれも清楚なデザインだった。奏ちゃんと二人で悩んだ挙句、ここでも1セットずつ購入してしまった。
「ねえ、奏ちゃん、今日買ったものたちって…いつ使えばいいの?」
行って来た道を戻りながら私が尋ねると、奏ちゃんは「実梨ちゃん、それは…」と言いかけてイヒヒ、と笑い始めた。
「デートの時とか、あ、今日はちょっと期待してもいいのかなって思った日に使えばいいのよ!」
「でもさあ、まさか想定してない時に突然、その時が来たらどうするのよ?だからと言って毎日使ってたら勝負の意味がなくなるし…」
「実梨ちゃん、その時はそのままさらけ出そうよ。私も最初はそうだったし」
「てことは…奏ちゃん…もう…!?」
「うん、普段の上下バラバラで色気ゼロのを身に着けてた何でもない日に突然、遼弥くんが…」
「そうだったのね…。で、ドン引きされなかった?」
私に聞かれて奏ちゃんは最高に顔を赤らめて、一層声を潜めた。
「私は恥ずかしかったけど、遼弥くんのほうは全然気にしてなくて、することをされたよ。それより実梨ちゃん、来月誕生日でしょ?その周辺はちょっと毎日使ってたほうがいいかもね」
「それは私も思っていたのだけど、それよりも早く葵くんがその気になっちゃったら…。いや、葵くんはそういう欲求がないかもしれないし、そのあたりはさっぱり分からないし…。だからといって、今日の買い物が無駄になっても悲しいし…どうしよう、奏ちゃん!?」
「実梨ちゃん、落ち着いて。もう、それは葵くんの心に任せましょう」
なんだか急に、奏ちゃんが先にもっと大人になったような気がした。しかし実際のところ、奏ちゃんの言う通りなのだから、やっぱり体験すると変わるんだなあ、と私は思った。
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