第52話

時間がきたので、私は1回生金管班の模造紙を持って前に出た。両サークルの各班に付いていた幹部たちが、私と同じように歩いてきた。そして、班ごとのブレインストーミングを終えた模造紙を床に並べて、私たちは見比べた。すると、アンクラで本当にアンサンブルだけをやっていたい人は15人ほどしかいない、ということに気が付いた。坪内つぼうちくんが説明してくれた。

「みんなの話を聞いていると、最初に24人いたアンサンブルだけをやっていたい人たちの中にも、実は本当のところ吹奏楽もまた演奏したいけど忙しすぎるのが嫌とか大編成吹奏楽部ならではのいざこざに疲れたとかって理由でアンクラに入った人がいたんだ。それで、小編成中編成なら吹奏楽をまたやりたいって彼らは言っていて」

「なるほどね。逆に吹奏楽部の中にも、アンクラのみんなと一緒に冬のアンコンに出たいって言ってる人もいたわよ。あと、吹奏楽部でさえ大編成派と小編成派に分かれてるの」

私はアンクラの幹部たちにも分かるように説明した。

「それなら…これはどうだろう?」

遼弥りょうやくんは幹部たちに先に説明したあと、前を向いて両サークルの部員たちに意見を求めるべく話し始めた。

「みなさん、ブレインストーミングお疲れさまです。吹奏楽でもアンクラでも多様な意見が出て、有意義なものになったと思います。さて、両方のサークルから共通して出てきた意見が幾つかあります。まず、大編成吹奏楽を演奏したい人と小編成吹奏楽を演奏したい人がそれぞれのサークルに一定数ずついること。次に、吹奏楽部もアンクラと一緒にアンサンブルができるようにしてほしい、という意見。これらのことから、皆さんに提案したいことがあります。それは、大きな演奏会では演奏曲目それぞれに合わせた編成、その曲の魅力を最大限引き出して聴いてもらえる編成を曲単位で考えることです。そして、各練習日の合奏曲目をあらかじめスケジュールとして立てておいて、自分が演奏する曲の合奏がある練習日にだけ最低限出席するようにする。これなら、吹奏楽を演奏したいけれど忙しいのが嫌というアンクラの方も、自分の好きな規模の編成がある人にも納得してもらえるのではないか、と幹部同士で考えました。どうでしょうか?」

すると、大音楽室中に拍手が響き渡った。遼弥くんは続けた。

「みなさん、ありがとうございます。それと、前回の話し合いで、吹奏楽を演奏したいアンクラのみなさんにはアンクラと吹奏楽部を兼部してもらう、と言いましたが、アンサンブルを演奏したい吹奏楽部のみんなにもアンクラと兼部してもらおうと思います。また、大きな演奏会…吹奏楽部のサマーコンサートと11月上旬の定期演奏会、アンクラの夏の定期演奏会とオータムコンサートは、今後は合同で年2回の定期演奏会として開催することになる予定です。それでは、よろしくお願いします!」

 再びみんなの声が合わさって、「よろしくお願いします!」の一言が私たちを一体感で包み込んだ。

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