お互い様でした!?

第51話

 「それでは話し合いを始めます。よろしくお願いします」

前に立つ遼弥りょうやくんに続いて、大音楽室全体に「よろしくお願いします」の声が響き渡った。今日は吹奏楽部とアンクラの全部員が揃っての話し合いの2回目を開いていた。首藤すとうくんが今日の流れについてみんなに説明した。

「今回は、吹奏楽部とアンサンブルクラブがそれぞれどう在りたいか、そして両方のサークルがどう手を取り合っていくかを考える場にします。まず、各サークルに分かれて話し合った後で、それぞれで出てきた意見を共有します。そこで、ブレインストーミングをやってみようと思います。今回のブレインストーミングでは、各自配られた付箋に、1枚につき書く内容は一つずつで、吹奏楽やアンサンブル、サークルについて思っていることを自由に書き出していきます。大体20分をめどにキリが付いたら、各サークルの学年の班ごとに模造紙へ付箋を貼っていきます。このとき、内容が似ているもの同士の付箋を近くにまとめて貼るようにしてください。そして、その模造紙を見ながら、各自思いついたことをどんどん発言していきます。ここで注意事項が2つあります。誰かが発言しているときはそれを遮って口出ししないことと、誰かの発言や付箋の内容に対して否定するような発言をしないことです。それでは、始めます」

 吹奏楽部のほうは3回生と2回生が一緒の11人、1回生だけの11人を金管楽器のパートと木管楽器のパートにパーカッションパートを加えた班にそれぞれ分けて合計4班で作業をしてもらった。2・3回生の木管パートには遼弥くん、金管パートにはまもるくん、1回生の木管パートにはかなちゃん、金管パートには私がそれぞれ付いて上手く書けなくて悩んでいる人のサポートをしながら見守っていた。奏ちゃんと事前に相談して、吹奏楽部の1回生には吹奏楽部の仲間割れがきっかけで発足したのがアンクラで、それ以来たびたび対立してきた、という経緯はあえて説明しないことにした。華英はなえちゃんと慶太けいたくん、ももちゃんはアンクラのほうに入っていた。

首藤くんの合図があると、みんなは模造紙に付箋を貼り始めた。吹奏楽部金管パート1回生の班では、「吹奏楽が好きだ」「みんなと仲良くしたい」といった自分の思いが書かれたものや、「とにかく吹奏楽を演奏したい」「吹奏楽を演奏できる環境さえあればいい」などのとにかく吹奏楽を演奏したい気持ちが綴られたもの、「大編成での吹奏楽を演奏したい」「仲間は多ければ多いほうがいい」など部員をもっと増やしたいという本音が書かれたもの、「吹奏楽部とアンクラの垣根を越えて交流できる機会が多いと嬉しい」「吹奏楽部にいてもアンサンブルを、アンクラにいても吹奏楽を演奏できるフレキシブルな環境がいい」といったサークルの在り方に関するものなどが出てきた。一方で、「少人数でみんな仲良しなほうがいい」という意見もあり、1回生ながらも多様な考え方があることを垣間見た。

「大人数も嫌ではないんですけど、高校のとき所属していた大所帯の吹奏楽部では派閥とか仲良しグループとかで分かれてしまって、そこでもめ事もあったんですよね。私としてはそういうのじゃなくて、みんなで仲良くして欲しかったから少し辛かったんです。だから、少人数でもみんな仲良しなら、それで楽しく演奏できればいいなって思います」

ゆっくりとした口調でそう話してくれたのは、ホルンの芙生花ふうかちゃんだった。それを聞いていたチューバの悠介ゆうすけくんが挙手をしてハキハキと発言した。

「俺は中高と小編成の吹奏楽部で、大編成で演奏してみたい曲がいっぱいあったから、ずっと大編成の吹奏楽部に憧れてました」

コントラバスの瑠未るみちゃんは訴えかけるようにこう言った。

「コントラバスで低音を担当していると、やっぱり大編成のときが演奏していて気持ちいいし、みんなと一体感を味わえるんです。だから、小編成にも魅力はあるけれど、私は大編成のほうが嬉しいです」

「僕は、吹奏楽を演奏できることそのものが喜びなので、編成の大小にはあまりこだわりがありません。ただ、普段は吹奏楽中心だけど、中高とずっとアンサンブルコンテストに出ていたから、アンクラの皆さんと一緒にアンコンには出たいなと思います」

トランペットの大登ひろとくんは夢を語るような雰囲気で話した。ホルンの恭悟きょうごくんは落ち着いた様子でこう発言した。

「たとえ吹奏楽部だけでもアンクラと一緒でも、大編成しかしないとか逆に小編成しかしないとか考えずに、様々な規模の編成の曲を演奏して、それぞれの曲の魅力を最大限に引き出したいです」

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