通じてほしい、私たちの思い

第49話

最初に吹奏楽部とアンクラの幹部が会合を開いてから2日が経った。今日は吹奏楽部の練習場に吹奏楽部とアンクラの全部員が集まって、話し合いをすることになっていた。ところが、約束していた18時になっても、アンクラの人たちが来る様子がなかった。吹奏楽部のほうは、新入部員も含めて28人全員が揃っているというのに、どうしたのだろうか。

約束の時間から5分が経ったころ、練習場の扉がコンコン、と外からノックされて、ゆっくり開いた。「失礼します」と言って入ってきたのは坪内つぼうちくんだった。

「ごめんなさい、遅くなってしまって。うちの…アンクラのみんな、連れてきました」

「待ってたよ、こっち…吹奏楽部はもう全員揃っているよ。さあ、どうぞ入ってください」

遼弥りょうやくんがそういうと、坪内くんが外開きの扉を内側から押さえて、ぞろぞろとアンクラの人たちが練習場の中へ入ってきた。しかし、何かがおかしい。聞いていた話ではアンクラには新入部員を除いても50人近くの部員がいるというのに、それにしては少ない…目で見て30人前後といった人数しか部屋に入ってこなかったのだ。しかも、そこには華英はなえちゃんや慶太けいたくん、ももちゃんの姿も見えなかった。

「なあ坪内、これってアンクラ全員じゃあないよな?他のみんなはどうしたんだ?」

遼弥くんが問いかけると、坪内くんは顔をもごもごさせてから答え始めた。

「それが…今まさに首藤すとうが説得しているところなんだけど、アンクラと吹奏楽部が再び一つになることに反対の部員が一定数…だいたい20人くらいいて、だからどうしても吹奏楽部との話し合いに行きたくないって言ってアンクラの部室から出てこようとしないんだ」

ああ、やっぱりな、と言うと、遼弥くんは頭を抱え始めた様子でしばらく考えているようだった。そして、遼弥くんは不意に私のほうを見ると、何かを頼みたそうに顔をくしゃくしゃにして口を開いた。

「なあ実梨みのりまもると一緒にアンクラの部室へ行ってきてくれないか?本当は俺が行きたいところだけど、俺にはこの場のこともあるし、それに主将の俺が行ったら下手に刺激を与えそうだからさ」

分かった、と私は遼弥くんへ強い眼差しを送ってうなずいた。

 それから私は葵くんと一緒にエレベーターで3階へ上がり、アンクラの部室へ向かった。私が一息おいて扉をノックすると、すぐに首藤さんは開けてくれた。

「ああ、末広すえひろさんと宇高うだかさん、なんかすみません。どうぞ、こちらへ」

首藤くんに促されて、葵くんと私はアンクラの部室へ足を踏み入れた。私はすぐに部屋の中を見回した。すると、華英ちゃんに慶太くん、桃ちゃんの姿を容易に見つけたのだけど、3人とも私や葵くんと目を合わせないぞ、という強いオーラを放っているかのように黙ってうつむいていた。

「首藤さん…ここにいる皆さんは、なぜ吹奏楽部とアンクラが再び一つのサークルになることに反対なのですか?」

葵くんが尋ねると首藤さんは、いかにも困惑しきった様子で説明してくれた。

「うん、ここにいるみんなは主に、アンクラという自分たちの居場所がなくなることを危惧している人たち、それから大編成の吹奏楽がもう演奏したくない人たちなんだ。それから…ももともと吹奏楽部だったあの3人は、末広さんと宇高さんのことを気持ちの上で引きずってつらい、という坂下さかしたさんと寺尾てらおさんに、坂下さんと一緒に居たい吉良きらくんがここにいる、というわけ」

言い終えると首藤さんは向き直って、アンクラの部員たちに訴えかけ始めた。

「なあ、みんな、聞いてほしいんだ。今、吹奏楽部から様子を見に来てくれたこの方たちは、決してみんなにとって敵ではないんだ。みんなの気持ちを無視して無理やりひとつのサークルに戻ろうとしているわけでもないんだ。分かってくれるか?」

首藤さんの話に、アンクラの部員たちは各々、納得しない様子や不安げな反応を見せた。

「末広さんと宇高さんからも何か、言ってくれますか?」

首藤さんから促されて、葵くんは私と強い意志がうかがえるアイコンタクトを交わして、アンクラの部員たちに語り始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る