第44話
私は自転車で本町通りを真っ直ぐ北へ進んで地元で一番有名なチェーンのスーパーへ向かった。ここは他の店舗よりも夜遅く、24時まで営業しているから、今が20時過ぎだといってもまだまだ買い物客でいっぱいだ。そして、2リットルの緑茶とポカリスエットの1.5リットルを1つずつに牛乳プリンを3つ、ファミリーパックのシューアイスにバナナをひと房、それに中辛のレトルトカレーとパックご飯も3つずつ…を買い物かごに入れた。結構な重みを感じるけれど、
葵くんのマンションに戻り、エレベーターで5階へ上がると、私は葵くんの家のインターホンを鳴らした。玄関扉を開けて出てきた葵くんはマスクをしていて、そのせいかメガネがくもっていた。買ったものを葵くんに渡して帰ろうとすると、葵くんは「ちょっと…待って…」と言って私を呼び止め、個包装のマスクを差し出してきた。
「
私は言われるままにマスクを装着して、靴を脱ぎ葵くんの部屋に上がった。そして葵くんは奥の部屋からダイニングキッチンに座布団を2つ持ってきて床に敷くと、私に座るよう促した。二人そろって床に腰を下ろすと、私はまず財布を取り出して葵くんにおつりを返そうとした。しかし葵くんは「いいよ、お礼にそれは実梨ちゃんが持ってて」というので、私は財布をバッグにしまった。
「葵くん、熱はどう?しんどくないの?」との問いかけに「38度4分なんだ、しんどいけど、でも…」と何か言いかけたところで葵くんはせき込んでしまった。落ち着いて息を整えると、葵くんは再び口を開いた。
「でも、どうしても今、実梨ちゃんに伝えたいことがあるんだ」
そうして深呼吸する葵くんに、私は胸が高鳴らずにいられなかった。
「実梨ちゃん、俺…実梨ちゃんのことが好き…だよ…。だから…俺と、付き合ってくれないかな…?」
全力を振り絞ったような葵くんからの突然の告白に、私まで熱っぽくなってしまった。ハッとなって、私の高鳴る胸に喜びと幸せが加わり、思わずニヤリとした笑顔をこぼしてしまった。マスクをしているので葵くんには伝わりづらいだろうけれど。
「もちろん、こちらこそお願いします!…だけど葵くん、しんどいのにどうして今なの?」
葵くんはホッとした視線を私に送りながら、答えてくれた。
「本当はね、先月の末頃には
しんどい身体で一生懸命に告白してくれたことに感無量ながらに聞いていた私は、思わず葵くんを抱きしめた。すると葵くんも、しんどいなりにギュッと両腕で応えてくれた。
「ところで、実梨ちゃん」とそのまま、葵くんが私の右耳にささやいてきた。「どうしたの?」とささやき返すと、途端に葵くんは両腕を私から離して床に体勢を直した。私も座りなおしたところで、葵くんは続きを言った。
「実梨ちゃんと俺がこうして正式に付き合い始めたこと、
「分かった。本当に、ありがとう、葵くん!それじゃ、お大事にね」
葵くんのマンションを出て自転車にまたがった私は、思わず小さくガッツポーズをしてしまった。ニヤケが止まらないが、不審者に間違われてもいけないので平常心を装っておこう。遂に、私は葵くんの彼女になれたのだ。後からジーンとくるものを感じながら、信号を待つ間に見上げた空には雲のかかっていない半月が輝いていた。
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