第40話

 そろそろ、1回生のガイダンスが終わる頃になった。キャンパス内では各サークルの部員たちが、1回生を待ち構える態勢に入っていた。昨日のサークルオリエーテーションを皮切りに、今週1週間は新歓委員会への事前の申請に基づいたキャンパス内での新歓活動が許可されている。特に、1回生のガイダンスが集中している今日と明日の活動が今年度の新入部員数により強く関わっているため、各サークルの部員たちは一人でも多くの新入部員を迎え入れようと意気込んでいるようだった――もちろん私たち吹奏楽部も。

 ガイダンスは大きな教室のある4号館と7号館に分かれて、学科別に開かれていた。4号館と7号館はキャンパス内では中央の噴水広場を挟んで対角線上に離れている。そのため、各サークルの部員たちは自分たちについてPRするビラを持つと、それぞれの建物の出入り口付近に分かれてスタンバイしていた。私はグイグイとビラを配るのが苦手なので、噴水広場の一角に看板と机や椅子を置いて陣取った「活動拠点」でかなちゃんと一緒に待機している。雲一つない快晴だけど、優しく吹いている風はほんのり肌寒い。

「ほんと、噴水広場を勝ち取れて良かったよね」

奏ちゃんが安堵したような表情で言ったので、私はこう返事した。

「それはそうだけど奏ちゃん、噴水広場は新入生が多く行き交うから人気で勝ち取るのも大変な分、多くのサークルの拠点が集まってて、その中で私たちをPRするのはかえって難しいかもよ?」

「そうか…。でも、ここって、今年の新入生はどんな感じかな、とか、どんな風に他のサークルは宣伝してるのかな、とか観察できるから楽しいよね!」

そう話す奏ちゃんはとてもキラキラしていた。なんとなくだけど、遼弥りょうやくんと付き合い始めてからの奏ちゃんは以前にもましてキラキラオーラが強力になった気がする。

 そう話しているうちに、4号館と7号館から広場に向かって1回生たちが一気に溢れ始め、それに伴ってビラを配る各サークルの部員たちの動きも活発になった。ほどなくして遼弥くんが手ぶらで私たちのところに戻って来た。

「遼弥くん、もう最初の20枚を配り終えたの!?」

奏ちゃんがキラキラしたままポカンとした表情で遼弥くんに次の20枚、ビラを渡した。

「へっへー、俺にかかればこんなの朝飯前だからな!」

そう言ってまた人混みに消えていく遼弥くんと入れ違いに、今度は華英はなえちゃんが戻って来た。

「すみません、私も次の20枚ください!」

「華英ちゃん、初めてのビラ配りなのにすごいペースだね!?」

私から驚きと尊敬を込めて言いながら華英ちゃんにビラを渡していると、真織まおりちゃんと慶太けいたくんも手ぶらで私たちのところに来た。みんな、よくそんなに臆せずにビラ配りできるなあ、と奏ちゃんと顔を見合わせていると、7号館に人だかりができ始めた。

「今年も始まったね、新歓活動の名物!」

奏ちゃんが視線を人だかりのほうへ向ける。

「ああ、ダンス部のパフォーマンスね。毎年、すっごく派手にやってるよね」

新歓委員会へ事前に時間と場所を申請していれば、活動の一環としてパフォーマンスをすることができる。中でも、ダンス部のそれは7号館のピロティで大々的にやるものだから毎年多くの1回生に注目されるのだけど、そうして立ち止まる1回生たちはパフォーマンスに注目している間に他のサークルからたくさんのビラを受け取ることになる。

「先輩たち、そろそろ準備に行っていいですよ!」

杏理あんりちゃんがそう言いながらこっちに来た。

「じゃあ、もうすぐ私たちの番だね」と言って、奏ちゃんが私に微笑んだ。

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