第5章 気が気でならない、胸騒ぎな予感

新歓合戦、開幕

第39話

 「それでは、吹奏楽部の皆さん、よろしくお願いします!」

司会の漫才研究部の男性がそう言うと、穂香ほのかちゃんが指揮を振り始めた。私たちが演奏する、いつしかのカルピスのCMで使われていた女性ボーカルのバンドの曲が会場の教室に響き渡った。4月になり、私は3回生になった。今日は新入生向けのサークルオリエーテーションという各サークルが自分たちについて新入生に紹介するためのイベントで、私たち吹奏楽部も演奏を交えながら参加していた。サビで始まるイントロからワンフレーズ演奏して、穂香ちゃんは指揮を止めタクトをマイクに持ち替えた。

「こんにちは!私たちは吹奏楽部です。新入生の皆さん、いよいよ始まった大学生活、どんな風にエンジョイしたいですか~?友達も作りたいし、今の曲みたいに恋も始めたいですよね!?実際、先輩カップルもいますしね、吹奏楽部!」

言いながら後ろを振り返った穂香ちゃんに、私たちはかすかに笑った。それから穂香ちゃんは私たちの活動について簡単に紹介して、新入生を歓迎するお花見の告知をすると、再びタクトを持って振り始めた。

 こうして幕を開けた新年度と新歓活動だけど、実は吹奏楽部には、入学したばかりの1回生よりも先に6人もの新入部員を迎えていた。それも、6人全員が卒業式と入学式にアンクラから賛助で来てくれたメンバーだった。そこには「時々、こうして吹奏楽部さんにお邪魔したいなって思うのですが…迷惑ですか?」と言っていたフルートの遠藤愛佳えんどうあいかちゃんもいた。幾度かの合同練習を経て、吹奏楽部とアンクラからの賛助たちは完全に打ち解けていて、その流れで9人いた賛助のうち6人もが、アンクラを辞めるから自分たちも吹奏楽部に入れてほしいと申し入れてきたのだった。私たちは表面上では一度に増えた新入部員たちを歓迎していた。しかし、元賛助の新入部員たちを迎え入れてすぐに、私たち幹部の中の3回生は会合を開いて、こんな話をしていた。


「疑っちゃ悪いけど、一度に6人もアンクラを辞めて吹奏楽のほうに来るって、どこか怪しくないか?」

遼弥りょうやくんが神妙な面持ちで言うと、私たちはうなずいた。

「愛佳ちゃんも含めて、心から楽しんで来てくれたなって分かる人もいるよね。だけど…アンクラからのスパイもいそうな気がする、なんとなくだけど」

私の発言にまもるくんが「なんとなくじゃなくてもいるって、高確率で!」と突っ込むように言ったあと、葵くんは続けた。

「だから、誰がスパイなのか見極める必要があるんだけど、同じ元アンクラ部員である以上は本当に吹奏楽をしたくて来てくれた人もスパイとのつながりがゼロではないからね。そこが難しいところだね」

「ねえ、これから新歓活動期に入るよね。6人の新入部員たちもだけど、アンクラの新歓活動のほうにも目を配っとく必要があると思うな、私は」

かなちゃんがそう言ったのを聞いて、遼弥くんはこう締めくくった。

「それはアンクラのほうも同じだろうな。俺たち吹奏楽部がどんな新歓活動をするのか、アンクラも注目してる…つまり、互いが互いの様子を窺うような新歓活動になりそうだぜ。とにかく、今後もアンクラには要注意しておこうな」

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