第38話
「
「…
奏ちゃんの返事のあと、互いに頭を下げて右手を差し出していた二人は、再び真っ直ぐ見つめ合ったまま互いに駆け寄り、全身全霊で愛を表現しています、と言わんばかりに抱き合った。みんなからの視線を跳ね返してしまうほどに輝く遼弥くんと奏ちゃんに、一同から大きな拍手や、おめでとう、の声が送られた。そんな輝きの主たちに、私はゆっくりと歩み寄った。
「二人とも、本当におめでとう。なんかプロポーズみたいに見えないこともないけど、さっきの奏ちゃんの話の続きってこういうことだったのね」
私のほうに向きなおった奏ちゃんは、涙をきらめかせながら話してくれた。
「そう。バレンタインに遼弥くんにチョコを渡したらね、遼弥くん、こう言ったんだよね?」
そう言って話を振られた遼弥くんが、照れて頭をボリボリ掻きながら奏ちゃんに続いた。
「もしかしたら、奏は今日、俺に付き合って、って言おうとしたのかもしれないけど、それはちょっと待ってくれないか。ホワイトデーに俺のほうから言わせてほしいんだ、ってな。とにかく、奏と俺は今日から吹奏楽部公認カップルだ!堂々といちゃつこうな、な、奏?」
もう、遼弥くんったら、と言いつつも、奏ちゃんは嬉しそうだった。
そこに、
「二人とも、ちょっと俺についてきてくれるかな?」
そう言うとゆっくり歩き始めた葵くん、そして華英ちゃんの後ろを、私も言われるがままに歩き、練習場の外に出た。歩みを止めて三角形を描くように向き合った私たちを見て、ワンテンポおいてから葵くんが勇気を出したように口を開いた。
「二人とも、バレンタインは本当にありがとう。あれから1カ月考えたけれど…ごめん、今の段階ではまだ二人とも付き合えないんだ」
しばしの間、空気が緩やかに流れた。私と華英ちゃんを交互に見て、葵くんは続けた。
「上手くは言えないし、どっちがどっちとも言えないんだけど、今は実梨ちゃんにも華英ちゃんにも恋愛感情を抱いているんだ。ただ、俺の中での二人の比率は3:2なんだよ。つまり、どっちかのほうに少し強い想いがあるけど、もう一人にもまだ恋心が残ってて、はっきりしないから付き合えない…。そんな俺を、もう少しだけ、待っててくれるかな、二人とも?」
うなずいた私と華英ちゃんに、葵くんは持っていた袋から小さな箱を二つ取り出し、両手で「はい、バレンタインのお返しだよ」と差し出した。それを受け取る私と華英ちゃんの目が一瞬合ったけど、どちらからともなくすぐに下に逸らしてしまった。
「あー、華英ちゃん、ここにいたんだ!ほら、受け取ってよ、僕のホワイトデーと華英ちゃんへのキ・モ・チ!」
ほんのりビターな時間に、とびきり甘い
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