第37話
「奏ちゃん、どうしたの?」
首をかしげる私に、奏ちゃんはやや強気な表情になった。
「どうしたの、なんてうかうかしてる場合じゃないよ、実梨ちゃん!今日が何の日か、覚えてる?」
「え、誰かの誕生日、とか?」
私のその答えは的外れだったらしく、それを聞いた奏ちゃんはやきもきしながら、声を潜めてかつはっきりした口調で私にこう告げた。
「今日は、ホワイトデー、だよ!」
「あー、そういえば忘れてた!朝、家を出てたときには覚えてたんだけど…」
そう言いながら、私は急に脈がアッチェレランド…徐々に早く…し始めた。
「てことは…もしかしたら…葵くんからバレンタインデーの返事が来るかも!?」
「高確率でね、実梨ちゃん」
そう言って奏ちゃんは、私の両手をぎゅっと握って、キラキラした眼差しで私を見つめた。そうされると、私まで奏ちゃんにときめいちゃいそうだった。
「ん?」
ふと私の脳内で、バレンタインデー前日の行動が再生された。
「どうしたの、実梨ちゃん?」
キラキラした眼差しのままきょとんとした奏ちゃんに、私は確かめるように言った。
「奏ちゃん…遼弥くんに本命チョコ作ってたよね?」
うん、と奏ちゃんは急に頬を赤らめた。
「あれ、遼弥くんにちゃんと渡せたの?」
も、もちろん、と答える奏ちゃんに、私は、それで!?と詰め寄った。
「その時、本当は私のほうから遼弥くんに、付き合ってください、っていうつもりだったんだけど、遼弥くんが…」
「おーい奏、まだ隅でこそこそしてたのか?」
唐突な声にビクッとした私と、身体の内側からチークが湧いたように一層頬を赤らめた奏ちゃんが一斉に声の主のほうを見る。そこには、いかにも本命チョコが入ってますよー、といった感じで分かりやすくラッピングされた箱を持った遼弥くんが立っていた…のだが、遼弥くんまでもが照れたような満面の笑みに、奏ちゃん同様に自然に染まった頬という、いつもと違うオーラを醸し出していた。
「ほら、ほら、奏、こっちに、来いよ」
遼弥くんは緊張しているらしく、一言一句が自分の胸に刻まれるビートに乗っていたようだった。遼弥くんに左手首を掴まれて、奏ちゃんは部屋のほぼど真ん中へ引きずりだされた。練習場に残っていた全部員と賛助の視線を浴びて、遼弥くんは高熱でもあるのかというぐらいに顔全体を赤らめた後、ふう、と一息吐いてから口を開いた。
「奏、バレンタインはありがとうな。奏の愛情が込められてて、とびきり甘くおいしくいただいたぜ。これはそのときのお返しだ、もちろん受け取ってくれるよな?」
「うん、あ、ありがとう、遼弥くん」
奏ちゃんは差し出された箱を丁寧に受け取った。照れ笑いする奏ちゃんはやたらキラキラ輝いていた。
「そして、ここからだ、奏。バレンタインのときの約束通り、ここで言わせてもらうぜ」
遼弥くんと奏ちゃんの二人ともがこれ以上ないほどに胸が高鳴っているのが、見ている私にも伝わってくるようだった。そんな二人が真っ直ぐに見つめあって、遼弥くんは奏ちゃんにこの台詞を捧げた。
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