今日って何の日だっけ?

第36話

 卒業式まであと1週間を切って、今日からしばらくの間はアンクラからの賛助が吹奏楽部の練習に合流することになった。

「それでは、今日から入学式当日まで、よろしくお願いします!」

練習始めのミーティングで遼弥りょうやくんがそう言うと、私たち吹奏楽部と賛助のアンクラがみんなで一斉に「お願いします」と言って頭を下げた。それから各自が楽器を鳴らし始めたのだけど、この練習場に流れる空気の神経がとても張りつめているようだった。全体的に吹奏楽部とアンクラが互いに接触を最低限にしようとしているだけではなく、いつもの吹奏楽部の練習にあるもの…時折の他愛のない一言や気楽さも消え去り、吹奏楽部の部員同士でさえも不要な発言をするまいという雰囲気の中でただ各自が黙々と楽器を鳴らす音だけが響いていた。

 ところが、校歌と入学式で演奏する曲の合奏をして練習を終えると、空気の神経に変化が起きていた。麻乃あさのちゃんと元アンクラの杏理あんりちゃんがアンクラから来ていたフルートの女性と話をしていて、何を話しているのか分からないけれどとにかく楽しそうに談笑していた。そんなフルートパートを見て、いつの間にか他のみんなも、吹奏楽部とアンクラの垣根を越えて雑談をするようになっていた。

 遼弥くんに招集されてまもるくんやかなちゃんとともに私も部屋の隅へ移動して、何かアンクラについて変わったことがないか情報を交わそうとしていると、杏理ちゃんが何か言いたそうにこちらへ寄ってきた。その少し後ろをそろそろとアンクラの女性が付いてきていた。

「杏理ちゃん、何か俺たちに用があるのか?」

遼弥くんに声をかけられると、杏理ちゃんは後ろを振り返り、ほらほら、と言って後ろの女性に促した。

「あの、私、今日はとても久しぶりに吹奏楽をしたのですが、正直に言ってとても楽しかったんです!だから、これからも時々、こうして吹奏楽部さんにお邪魔したいなって思うのですが…迷惑ですか?」

 そう聞いた私たちは、一瞬…どころかかなり戸惑った。しかし、遼弥くんがすぐに固まった表情を溶かして、にこやかに答えた。

「そういうことなら大歓迎だよ!どんどん参加していいよ」

な?と私たちを見回して遼弥くんが同意を求めてきたので、私たちもにこやかに首を縦に振った。

「じゃあこれからもよろしくお願いします!あ、私、エンドウアイカっていいます」

そして私たちは順に名乗って、それからレイカちゃんは杏理ちゃんとともに私たちから遠ざかって行った。

 さて、と言って遼弥くんは私たちを見回した。

「今のアイカちゃんの発言、疑うようで悪いけど、もしかしたら何か意図があるのかもしれないな」

「本当に純粋に楽しんでくれたのか、それともアンクラのほうから何か俺たちに働き掛けてくるように言われてるのか…」

葵くんが相変わらず落ち着いた表情と声で言った。

「アイカちゃん、時々お邪魔してもいいですか?ってニュアンスで言ってたよね。てことは、あくまでアンクラに籍を置いたままで、なのかな?」

奏ちゃんが不安と疑いを含んだ表情で首を傾げた。

「その、アンクラに残ったまま吹奏楽部にも顔を出すっていうの、引っかかるよね」

私がそういうと、遼弥くんは、これからもアンクラは様子見ってことで、と締めくくった。

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