アンクラに奪われそう!?
第34話
大学の卒業式まであと3週間ということは、そろそろ卒業式で演奏する校歌の練習を始めるころになった。私が練習場の出入り口の近くで練習マットに向かって基礎練習をしていると、学生課に行っていた
「
遼弥くんは急に口をもごもごさせると、悔しそうな表情で続きを話した。
「今年は俺たちとアンクラのどっちに校歌の演奏を依頼するか迷ってるらしいんだ」
「ええっ、どうしてそんなことに!?」と私が驚いていると、遼弥くんは、仕方ないか、と言って続けた。
「なんでも、アンクラのほうから、自分たちは吹奏楽部よりもずっと部員が多くて、立派な校歌を演奏できるから自分たちにやらせてくれって学生課に交渉してきたそうだぜ。それで、学生課も半分納得してしまって、今は迷ってるんだとさ」
言い終えると遼弥くんは再び唇に力が入り始めた。そんな遼弥くんに、私は落ち着いて、と声をかけた。
「とにかく、私たちだけで校歌について話していても仕方ないでしょう。幹部を招集して、みんなで考えようよ!」
「ああ、そうだな。ありがとう、実梨」と言って、遼弥くんの表情が若干和らいだ。
それから、吹奏楽部の幹部…去年の夏に私がインターンシップから戻ったときにいた8人のメンバーで集まって、練習場を出て部室へ移動した。遼弥くんが学生課で言われたことを説明すると、みんなは頭を抱え始めた。すると、
「思ったんですけど、アンクラは自分たちのほうが立派な校歌を演奏できるって主張してるんですよね。だったら、私たちも、18人で大人数に負けない立派な校歌を演奏できるって証明すればいいんですよ!」
それを聞いて、みんなと私はうなずいた。そこに、
「渚ちゃんの言う通りです。ただ、そこで私は、何をもって“立派な演奏”なのかを定義というかはっきりさせたらいいと思います」
「それって、音量が大きいのか音色とかハーモニーが綺麗か、とか?」
「そう、まさに翔くんが言ったこと、なのです。さらに言うと、音量と音色のどっちか片方を重点的に強化したほうが、いい演奏が出来そうだなって気がしてます」
「だったら、音量は人数のいるアンクラに敵うわけがないんだから、俺たちは音色とかハーモニーの綺麗さで勝負したほうがいいと思うけどな」
「私は、葵先輩とは逆に、音量を強化するほうに一票です。だって、あまりにも不協和音にならない限り、素人の耳には音色の綺麗さまで分かりませんよ。それに、演奏する場所は3000人も収容できて5階席まである大きなホールですよね?なら、5階まで十分に響き渡るボリュームが必要だと私は思います」
このあと、議論を交わした結果、私たちは音量を鍛えるほうに重きを置くことになった。
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