第4章 信じていいの、上手くいく予感

バレンタインデーの決戦

第31話

 大学は春休みになり、吹奏楽部の練習が再開する明日はバレンタインデーだ。私はかなちゃんの家のインターホンを鳴らした。すぐに奏ちゃんは玄関扉を開けてくれた。

「はーい、実梨みのりちゃん、いらっしゃい!」

お邪魔します、と言って私は靴を脱いで上がった。今日は奏ちゃんと一緒に材料費を割り勘して、吹奏楽部のみんなに配るお菓子としてブラウニーを作ることになっていた。あらかじめ材料を一通り買っておいてくれた奏ちゃんに、私はまず材料費の半額を払うと、洗面所を借りて手を洗った。

 それから私は奏ちゃんの言うとおりにボウルへ卵を割って溶きほぐし、砂糖を加えて混ぜた。その間に奏ちゃんが刻んだ板チョコを湯煎にかけて溶かしておいてくれた。奏ちゃんと私はそれぞれ卵と砂糖の混ざったボウルに溶かした板チョコ、次いで牛乳を加えて混ぜると、最後に薄力粉とベーキングパウダーを入れて生地を作り終えた。そうして出来た生地を、奏ちゃんが用意してくれていた20センチ四方くらいの焼き型に流し入れた。そのあとにミックスナッツを生地の上に散らす…のだが、ここで奏ちゃんはイヒヒと笑いながら言った。

「ちょっと待って実梨ちゃん、これを見て」

すると奏ちゃんは、10センチくらいの大きいものと、4センチくらいの小さいものの2つのハート型を差し出した。

「奏ちゃん、もしかして、その大きいハートの抜型は…」

私は声に期待を込めた。奏ちゃんは、「もしかしなくてもそうだよ」とフフフ…と笑って続けた。

「だから、この正方形の焼き型で出来上がったブラウニーは、まもるくん用の大きなハート型で抜いた残りを小さいハートで抜いてみんなに配るものにするんだよ。なので、どのあたりを大きいハートで抜くか考えて、そこだけナッツを多めに散らしておいたらいいよ」

私は奏ちゃんの言った通りに生地にナッツを散らすと、予熱しておいたオーブンへ入れて焼き始めた。私がブラウニー生地をもう1セット作っている間に、オーブンから美味しそうな香りが漂い始め、とうとう私の作ったブラウニーが焼き上がった。粗熱が取れるのと奏ちゃんの分が焼き上がるのを待っていると、何やら奏ちゃんが閃いたような表情をした。

「奏ちゃん、どうしたの?」と私が尋ねると、奏ちゃんは答えた。

「明日、葵くんにリベンジしてみたらどう、実梨ちゃん!」

私は一瞬、ドキッとなった。

「えっと、私、葵くんのほうから答えを出してくれるまで自分からはもう一度告白しないつもりだったんだけど」

「それじゃあ遅いよ、絶対!」と奏ちゃんは前のめりで力説した。

「なんていったって明日はバレンタインデー、恋する乙女には最高のチャンスだよ?それを逃すなんてもったいないよ!」

奏ちゃんがここまで熱くなっているのは珍しかった。それだけ、本気で私と葵くんの恋を応援してくれているというのが伝わってきた。

「分かった、私、やってみるよ、葵くんにもう一度告白するの!」

そう言った私に、奏ちゃんは右手をグーにして突き出した。私も真似てグーをこつん、とぶつけ合った。

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