キラキラな夜景の中で

第29話

 クリスマスコンサートでの演奏が終わり、会場で積み込んでもらった楽器の荷卸しも滞りなく終えた。まもるくんも私と同じように荷受け側で練習場にいるけれど、華英はなえちゃんは会場に残って後片付けをしているので今はここにいない。これはチャンスかもしれない。

 「葵くん、今日はお疲れさま!」

私が帰り際の葵くんに声をかけると、「実梨みのりちゃんもお疲れさま」と返してくれた。私は本題を切り出した。

「葵くん、このあと時間ある?」

「うん、あるけど…?」といつもの様に優しく落ち着いて、でもきょとんとした口調で葵くんは答えてくれた。

「じゃあさ、ちょっと私に付いてきてくれたら嬉しいな。街のほうなんだけど!」

なんだか口調がガタガタになってしまいながらも、私は葵くんのテンションに合わせるように努めた。なんだか顔を赤らめたような葵くんを見た。私だって顔から湯気が出そうだけど。ああ、断られるかな。もうすでに華英ちゃんに先を越されているのかな。そうじゃなくても単純に私からのちょっとしたデートみたいなお誘い、嫌かな。女性と2人きりが恥ずかしいのか、それとも私と、なのが嫌なのか…。

「…いいよ、俺のほうこそ誘ってくれて嬉しいよ。じゃあ、行こうか」

まず、それぞれの自宅に荷物を置きに一度戻った。それから私は、葵くんのマンションの前に向かい、葵くんが出てくると一緒に、自転車で本町通りを南に下った。信号で止まる度に、私の後ろを葵くんが付いてきているか振り返った。そして松山城のお堀に沿って右折すると、少しして私たちはもう一度右折して花園通りに入った。すると、紫とオレンジのグラデーションの下を行き交う自動車がライトで照らす中、青白いイルミネーションのオブジェが通りにずらりと並んで輝いていた。そんな花園通りを、電飾の施された路面電車が通り過ぎた。

「葵くん、私、この綺麗なイルミネーションが見たかったんだ。でも、一人で足を運ぶのも寂しくって…。葵くんが一緒に来てくれてよかった!」

信号待ちで私の左側に止まっていた葵くんに私は言った。「それなら、俺もよかったよ」とはにかむ葵くんは、赤らめた顔に青白いライトが反射していた。

 私たちは自転車を降りて、手で押しながら花園通りを南下した。時折、私は電飾に輝くベンチへ腰を下ろしてみたり、青白いアーチをくぐってみたりした。そんな私を、葵くんは優しい眼差しで見てくれた。

 そうしているうちに、私たちは松山市駅前に着いた。さあ、ここからがメインイベント、勝負所だ。私は深呼吸をして落ち着いてから、葵くんの目をじっと見つめた。気付いて葵くんが私と視線を合わせてくれると、私は口を開いた。

「ねえ、葵くん、私…あのイルミネーション、もっと高いところから見てみたいな。だから、一緒にデパートの観覧車に乗ろう?」

言い終えた私は、口角をニコッと上げた。ああ、どう返事されるかな。断られても仕方ないよね。

「それはいいね。俺、ずっと小さいころに松山に遊びに来たとき以来乗っていないや、何気に。じゃあ、乗ろうか」

葵くんは、私の顔を真似たように口角を上げて笑った。ハッとなって、私たちはようやく目を逸らした。

「うん、私も似たようなものだよ。ありがとう、葵くん」

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