クリスマスの予定は?

第27話

 クリスマスコンサートまであと1週間になった。

「じゃあ、最後にオーメンズを1回通して、今日の合奏は終わりにしましょう!」

穂香ほのかちゃんの指揮に合わせて、みんなも楽器を構えた。毎度のことだけど、「オーメンズ・オブ・ラブ」が「恋の予感」という意味だからだろうか、私にはなんとなくだけどこの曲を練習しているときのみんなが他の曲に比べて、自然とキラキラ輝いているように見える。きっと、恋をしている部員たちが他のみんなまで眩しくさせているのだろう。

 合奏の途中で誰かが出入りする音が聞こえたような気配を感じた。通し終えると扉のほうから拍手が聞こえた。そこにはフルートらしき楽器のケースを持った見知らぬ女性が立っていた。遼弥りょうやくんが女性に向かって声をかけた。

「何か御用でしょうか?あ、よかったらこっちへどうぞ」

拍手してくれた女性は、遠慮がちながらもドラムをたたいていた私の左斜め後ろまで歩いてきて、それから口を開いた。

「勝手に入ってすみません。何か用があるわけではないのですが…この部屋の近くを通りかかったら“オーメンズ”が聞こえてきて、でも私が知ってる編曲と何か違うなと思って、気になってお邪魔してしまいました」

すると遼弥くんは、テナーサックスを置いて立ち上がると言った。

「ああ、あなたが言っているのは、チャイムが目立つ古い大編成向け編曲の“オーメンズ”のことですね。僕たちが合奏していたのは、数年前に発売されたばかりで小編成向け編曲の“オーメンズ”なんです。それより、あなたが持っているのって管楽器ですよね?」

女性が、フルートを持っています、と答えるのを聞いて、遼弥くんは続けた。

「だったら、よろしければ今から一緒に“オーメンズ”を最初から演奏しませんか?みんなも、いいよな?」

やり取りを聞いていた私たちは賛成の意味を込めて、盛大に拍手した。

「あ、ありがとうございます!喜んで、こちらこそお願いします!」

そうして、女性がフルートを組み立てるのを待って、私たちはもう一度「オーメンズ・オブ・ラブ」を合奏した。時折、この飛び入り参加のフルート奏者を見ると、すごく嬉しそうに、楽しそうに吹いていた。

「ありがとうございした!あの、それで…一つお願いがあります」

合奏を終えると、飛び入り参加のフルート奏者は立ち上がり、遼弥くんを見て言った。

「みなさんはお気を悪くされるかもしれませんが…私、実はアンサンブルクラブの部員なんです。でも、みなさんと一緒に演奏してて、すごく楽しかったんです!だから…私もみなさんの、吹奏楽部の仲間に入れてください!」

フルートの女性からのお願いを聞いた私が再び拍手すると、みんなも一緒に、またまた盛大に拍手した。遼弥くんは笑顔で答えた。

「みんなもこんなに歓迎してるし、もちろん喜んで!あ、僕は主将で経営学科2回生の松前まつまえ遼弥です。今後もよろしくお願いします!」

「私、経済学科2回生のシゲマツアンリです。これからよろしくお願いします!」

 この後、2回生で集合してLINEの機能を使い、重松杏理、を2回生グループトークに追加した。そして杏理ちゃんは、入部届を書くと、こう言った。

「私、これでアンクラ…アンサンブルクラブは辞めますね!ちょうど、アンクラやってて何か物足りないなーって思ってたところだし、いい機会だから!」

「おお、そこまでしてくれるんだ。それで杏理ちゃん、来週のクリスマスコンサートだけど、よかったら一緒に出る?無理はしなくていいんだけど」

遼弥くんの誘いに、杏理ちゃんは二つ返事で乗ってくれた。それから杏理ちゃんは、夢中で来週の曲目を譜読みして練習し始めた。

 「華英はなえちゃーん、今度僕とデートしてよ!」

葵くんに向かって歩いていたと思われる華英ちゃんを慶太けいたくんが呼び止めた。

「こ、今度っていつ?」と、華英ちゃんがやや困ったように聞き返した。

「もちろん、クリスマスに決まってるよ!あ、イブでも当日でもいいよ!」

満面の笑みで答える慶太くんに、遼弥くんが「その調子だぜ慶太、いけ、いけ!」と援護した。それを横目に見ながら、私はまもるくんに近づこうとすると、真織まおりちゃんから「こっち、こっち」と手招きされた。

実梨みのりちゃん、今日はこのあと時間ある?」

バイトまでなら大丈夫、どうしたの?と返事すると、真織ちゃんはニヤッとしてこう言った。

「よし、それなら、女子会という名の作戦会議しよ!」

「え、何の?」と私は聞き返した。すると、真織ちゃんは膝を少し曲げて私に耳打ちしてきた。

「クリスマス周辺の、に決まってるでしょ!」

私の気分は温度が急上昇した。真織ちゃんは続けた。

「穂香とかなちゃんもすでに誘ってあるから、あとは主役の実梨ちゃんさえ来るだけよ!」

それなら行く、と私は答えた。

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