第25話
それから、届いたばかりの楽譜をパートごとに分けて
「これ!小編成だけど“オーメンズ・オブ・ラブ”じゃないですか!やったあ、嬉しい!」
そう、急激に部員が増えたことで、私たちはなんとか、最低限の小編成吹奏楽が成り立つ人数になった。おかげで、紗絢ちゃんの夢の第一段階を叶えてあげることができたのだ。
「それで、紗絢ちゃん、ドラムと鍵盤、どっちがいい?せっかくだから、好きなほうを選んでいいよ」
私の言葉に、「わあ、迷うなあ」と紗絢ちゃんは楽しそうに悩んだ。そして、口角と目尻を思いっきり上げて、「鍵盤にします!」と答えを出した。
「でもやっぱり、いつかは大編成のオーメンズもやりたいです!その時が来るといいなあ!」
そんな紗絢ちゃんの顔には希望が満ちていたように、私からは見えた。
「それじゃ、今が18時5分なので、各自18時40分までに大街道入口への移動をお願いします!」
今日はお酒を飲むのが前提なので、2回生はみんなで路面電車に乗って大街道へ移動した。そのとき、私は意図せずして
「はーい、これで全員揃いましたね!では移動しますよ!」
翔くんを先頭に、私たちはぞろぞろと歩き始めた。そういえば、電車を降りた流れで、私は葵くんのすぐそばを歩いている。電車では
「ね、葵くん、今日って20歳になってからお酒飲むの、最初?」
私は思い切って声をかけてみた。
「うん、そうだね。別に自分で市販の缶入りビールやチューハイとか買ってないし、こういう機会でもなければなかなか飲まないし」
葵くんはいつも通り、落ち着いて話した。でもなぜか、なんとなくだけど若干照れているようにも見えた。
「じゃあ、なんかオトナの仲間入りって感じだね!」
私がこう言うと、葵くんは頭をポリポリ掻きながら笑って返事した。
「いやあ、そんなたいそうなものかな。でもまあ、俺は一応、今日まで一度もお酒に口を付けたことがないからね」
そんな葵くんの横顔が、今はすごく愛おしく見えた。私は葵くんを褒めてみた。
「わー、葵くんって超優等生だね!お酒デビュー、ドキドキじゃん!」
「そうかな。まあ、初めて飲むお酒、楽しみだよ」
そうかな、と言った時の葵くんの照れ笑いに、私は思わずキュンとなった。
「じゃあみなさん、席決めるんでくじを引いてください!」
そう言うと、
幹事の渚ちゃんと翔くんが注文を聞いて回っている間、私はどうするかしばし考えた。ここは新入部員たちとの親睦を深めるチャンス。でも近くに葵くんがいて、だけどその隣が華英ちゃんで…。と考えているうちに、私の目の前に抹茶ミルクカクテルが運ばれてきた。葵くんを見ると、人生初のお酒は瓶ビールだった。
「葵くん、ビールだね。いきなりオトナにジャンプしたね」
私は茶化しを入れた。葵くんはくしゃくしゃに笑いながら言った。
「いやあ、ビールってなんか飲めたらカッコいいなー、なんて単純な憧れだよ」
そんな葵くんに、華英ちゃんが「きゃー、カッコいいー!」と、突っ込んだ。
「まあ、華英ちゃんもハタチになったらね。とりあえず俺がどのくらい大人になったか、これで試してみるよ」
その葵くんの発言は、やたら眩しく見えた。
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