第3章 キラキラが合わさって、ギラギラの予感

恋の予感がお酒に乗って

第24話

 明後日から12月、今年も残り1カ月と少しになった。しかし私たち吹奏楽部には、うっかりすると忘れそうだけど大切ものがあった。大学内のいくつかの音楽系サークルが合同で開く、クリスマスコンサートだ。これは今年が最初の新しい試みで、去年のうちから公立で観客が1000人くらい収容できるホールをクリスマス直前の土曜日に押さえてもらっていた。そのクリスマスコンサートに、吹奏楽部も参加することになっていた。

今日は7人の新入部員を迎えてから最初の練習だ。

「はい、楽譜持ってきました!」

ライブラリアン、つまり楽譜の管理係をしている麻乃あさのちゃんが注文してくれた楽譜を遼弥りょうやくんに手渡しした。「ありがとう、麻乃ちゃん」と言って遼弥くんは受け取った。すると麻乃ちゃんは少し考えていたような表情をした後に、こう言った。

「だけど遼弥先輩、私たち、そろそろ指揮者を立てたほうがよさそうじゃないですか?」

「そう、それ。俺たちもかなまもると話してたんだよな。なあ、実梨みのり?」

遼弥くんが向かい合っていた私に話を振った。

「うん。人数が増えただけじゃなくて、今回はテンポが変わるメドレー曲も演奏するし、ドラムだけじゃテンポをキープするのがきつくなってきたのよね。それで、誰に指揮をお願いするか考えてたところなの」

「そうだったんですね。それなら、ちょっと待っててください!」

そう言うと麻乃ちゃんは、少し離れたところにいた知奈ともなちゃん…麻乃ちゃんの友達でトロンボーン担当、入部したばかりの1回生…を呼んだ。知奈ちゃんが小走りでこっちに来ると、麻乃ちゃんはキラキラした声で続けた。

「知奈ちゃん、指揮やってもいいって言ってたんですよ!ね、知奈ちゃん?」

「はい、ただ…ちょっと迷いもあるんですよね…」

ややアルトな声で言うと、知奈ちゃんはセミロングの緩やかなパーマヘアをだらんとさせてうつむいてしまった。

「何、どうしたの?」と私が言うと、知奈ちゃんは向き直った。その目線の高さはちょうど私と同じくらいだった。

「確かに指揮もやってみたいのですが、その一方でずっと指揮ばかりで楽器吹けないのもちょっとつまらないなと思ってまして…」

「ああ、知奈ちゃん、それなら心配いらないよ」と遼弥くんが口を開いた。

「どのみち、指揮者は2人…それも1回生と2回生から一人ずつ立てようという話があったんだ。だから1回生は知奈ちゃんで、あと2回生からもう一人募れば全然問題ないぜ」

そう聞いた知奈ちゃんは、気を取り直して宣言するように言った。

「それなら、私、指揮者やります!」

遼弥くんと麻乃ちゃんに合わせて私もパチパチ、と拍手した。

 「そうなると、あとは2回生だね」と私が言うと、遼弥くんは「そうだな」と言って、2回生全員を招集した。

「指揮者をどうするかについてだけど、1回生と2回生から一人ずつ出そうって話になってるんだ。1回生は入部したばかりの知奈ちゃんがやってくれるっていうから、残りは2回生から誰かってことなんだけど、立候補者!」

しかし遼弥くんのこの発言の後、私たちの中には沈黙が流れ、聞こえてくるのは1回生たちが楽器を鳴らす音だけだった。すると、あっ、となった様子になって新入部員でトランペット担当の真織まおりちゃんが発言した。

「そうだ、穂香ほのかがね、高校のときに先生の代わりに指揮振って演奏したことあったんだよ!」

「ちょ、真織!」と言ってもう一人の2回生新入部員、アルトサックスの穂香ちゃんが真織ちゃんの口を手で塞いだ。真織ちゃんの赤いメガネがずれた。

「あの、本当にちょっとだから!その、大きなホールとかじゃなくて、学校の文化祭での話よ!だから私、そこまで上手いわけじゃないんで!」

真織ちゃんをもごもごさせながらそう言う穂香ちゃんは、弁明するようでもあり、謙遜するようでもあった。

「へえ、そうだったんだ。それならもっと早く教えてよ、真織ちゃん!」

葵くんが感心したような口調で言った。真織ちゃんは穂香ちゃんの手を両手で下に引っ張り、はあーと息を吐いてメガネを直すと話した。

「ね、だから、2回生の指揮者は穂香で決まりでしょ!」

「よし、主将権限で指揮者は穂香ちゃんに決定ってことで!」

遼弥くんの指名に私が拍手すると、真織ちゃんと奏ちゃん、葵くんもそれに乗ってくれた。

「本当に私でいいのかな。でも指名されちゃったんだし、精一杯頑張らせてもらいます!」

なんだかんだ言って穂香ちゃんは引き受けてくれた。

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