第23話

 室内なのに日焼けしそうなぐらい眩しかった部屋を出た私たちは、そのまま建物の外のバザーに向かった。各々から揚げやフライドポテトやハンバーグ串、焼きそばに焼きおにぎり、アメリカンドッグなどを買い、部室で食べようと向かっていた。その途中、私たちは保健所のブースがある前を通りかかった。そこでは「エイズ撲滅、HIV予防」と言って、小さくて薄い長方形の箱が入った袋を無料で配布していた。再び日焼けしたように熱くなった私たちは、その前を沈黙で通り過ぎた。なんだか気まずくなってしまった。

「なんか、オトナだな、あーいうの。まだ俺たちって子どもなんだなあ」

最初に口を開いたのは遼弥りょうやくんだった。それを聞いた私は、気が付いたら発言していた。

「あの、こういう感覚って、ずっと昔…小学校高学年くらいのときに覚えたのと似てるような…」

「ああ、分かる!あの男女別の教室で違うこと教えられるやつでしょ?」

かなちゃんも共感してくれた。しかしまもるくんは、部室に入るまでうつむいていた。

 「俺、ジュース買いに行ってくる」と言って葵くんはバザーで買ったものを置くとまた部屋を出た。それに遼弥くんも付いていったので、部室には奏ちゃんと私だけになった。「奏ちゃん」と私が呼ぶと、「何、実梨みのりちゃん?」と優しく反応してくれた。

「私、いつ葵くんに告白したらいいのかな?遼弥くんは急いだほうがいいって言ってたし、前に紗絢さあやちゃんも、うかうかしてたら華英はなえちゃんに葵くんを持っていかれるって私に言ったし。だけど…遼弥くんと同じで、私もまだ今じゃない気がするの。でもそうしているうちに葵くんが華英ちゃんのものになっちゃうのも嫌で…」

私が言い終わるのを待って、奏ちゃんは自分の右手で私の左手をとって、それからニコッとして言った。

「それは、きっと華英ちゃんのほうもそうなんじゃないかな。華英ちゃんも、実梨ちゃんが言ったのと同じ不安を持って、それで駆け引きしようとしてると思う。でもまあ、今日のところは遼弥くんのおかげで実梨ちゃんに軍配が上がったね。こんな感じで私も遼弥くんも応援してるから、頑張れ実梨ちゃん!」

そう言ってると、葵くんと遼弥くんが戻って来た。

「あ、俺たちが戻ってくるまで食べずに待っててくれたんだな?」

遼弥くんの一言に、私は、「ただ単にガールズトークしてただけ」と返した。

 私たちが食べ始めてすぐに他のみんなが来はじめたので、そこでダブルデートは終わった。このあとはみんなに聞かれても差し支えない雑談ばかりだったけれど、すごく楽しかった。それにしても、葵くん、顔が真っ赤になってばかりで可愛かったなあ。

 12時半からの書道部と合唱部とのコラボステージには、会場の7号館ピロティ前の通りが塞がりそうなほどに、植え込みギリギリまでたくさんの観客が集まってくれた。その中で私たちが2曲を演奏している間に、書道パフォーマンスが完成した。久々に拍手喝采を浴びて、やっぱり大勢に見てもらえるのはいいな、と思った。

 ピロティから撤収し、私たちが楽器を部室に運んでいると、後ろから見知らぬ男性2人組が付いてきていて、遼弥くんと何か話していた。そして、そのまま私たちと一緒に部室に「失礼します」と言って入って来た。

「みなさん、演奏お疲れさまです!この調子で特設ステージでの演奏も頑張りましょう。そして、なんと今のコラボステージを見て、この吹奏楽部に入部したいって人たちが来てくれてます!」

なんと、部員獲得作戦の一環だったコラボステージは、本当に上手くいったのだった。そうして、この1回生の男性2人組の他に、2回生の女性2人と1回生の女性3人が私たちの仲間に加わった。これで、私たちの吹奏楽部には17名の部員が所属することになった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る