第20話
「え、ということはいるのね!?」
「いや、その…いないんだけど、最近になって
「それでさっき、
「あ、分かっちゃった?たとえ葵のことについて聞きに来ただけでも俺は奏と話せて嬉しかったとか、俺はいつでも奏を待ってるとか言われて…」
奏ちゃんは完全に顔を手で覆って下を向いてしまった。
「いいじゃない、遼弥くん!付き合っちゃいなよ!」
私が押すと、奏ちゃんは手から目を覗かせてこっちを見ながら言った。
「うん、遼弥くんはいい人だよ。でも、私のほうにそういう感情が本当にないから、まだ…」
「なーんだ。でもさあ、奏ちゃん、最近ってことはメイクし始めてからだよね?」
私にそう聞かれた奏ちゃんは、ようやく手を抹茶ラテのほうに持っていき、それを口に運んでから答えた。
「そのちょっと前から少しずつ私の気を惹こうとしてたけど、やっぱりメイクするようになってからすごくアタックしてくるようになった…」
それを聞いた私はこう断言した。
「ああ、きっと遼弥くんはメイクのキラキラな魔法を身にまとった奏ちゃんに魅せられちゃったんだね。間違いない!」
「ああ、それならメイクするの辞めようかな?」
奏ちゃんはクスッと笑ってそう言った。
「いやいや、それはもったいないよ、奏ちゃん」
「なんてね。でも私の気持ちもまだどうなるか分かんないし、やっぱり好かれるのもまんざらでもないしね。まあ、
「うん、奏ちゃん、ありがとね」
このあと私は奏ちゃんと別れ、バイトの前に一旦帰宅した。そして、百円ショップで購入した材料でメガネケースを丁寧に、想いを込めながらラッピングした。
しかしよく考えると、今年は葵くんの誕生日が木曜日で、練習のない日だった。どうしよう、前日の練習で渡す?いやいや、やっぱり当日に渡したいな。よし、当日に葵くんと会う約束をしよう。
私は大学の食堂前にあるベンチに座った。スマホを見ると、今は13時15分、約束の5分前だ。昨日の練習の後に、葵くんに声をかけて都合のいい時間帯を聞いて会う約束をすることができた。もちろん、勝負日メイクでばっちりキメてきた。
葵くんがこっちに向かってくるのが見えたので、私は手を振った。葵くんは笑顔で手を振り返してくれた。ベンチから立ち上がり、私は葵くんのほうに近寄った。
「葵くん、誕生日おめでとう!」そう言って私はプレゼントを手渡しした。
「これ、くれるの?ありがとう、開けていいかな?」
照れ笑いしながら開封する葵くんは、どこか可愛かった。
「あ、メガネケースだ。なんで俺のメガネケースが壊れかけていること知ってたんだ、実梨ちゃん?」
びっくりして目を丸くした葵くんに、「それは秘密です!」と私は言った。
「あ、秘密なんだ。まあ、ありがたく使わせてもらうよ。それより、実梨ちゃんはこの後、時間ある?」
突然の葵くんからの質問に、私はある、と拍子抜けした声で答えた。
「じゃあ、せっかくだし、一緒に食堂でご飯食べる?」
私は内心浮かれてしまった。葵くんのほうから誘ってくれるなんて。
「う、うん、喜んで!」
大好物だというカツカレーをとても嬉しそうに食べる葵くんと一緒に、私は和風ハンバーグを食べた。とりとめのない話ばかりだったけれど、私にとっては最高に幸せなひとときだった。
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