第19話
そう言って
「
「奏ちゃん、シッ!」と私は右手人差し指を口に当てて極めて小声で言い、もう片方の人差し指で雑貨屋のほうを差した。それを見て、奏ちゃんも笑って私の動作を真似た。幸い、向こうには気付かれなかったので私はふう、と息を抜いた。
「お茶…して帰ろっか、実梨ちゃん」
「うん、そうだね」と私は奏ちゃんの言葉に乗った。
チョコレートの入ったクロワッサンで有名なチェーン店のカフェに入り、看板メニューのほかに私はホットのロイヤルミルクティー、奏ちゃんは抹茶ラテを注文してショーウインドウ沿いの席が空いていたのでそこに座った。華英ちゃんたちに見つかるかもしれない…と奏ちゃんと心配しながらも、奥のほうはいっぱいだったのだから仕方ない。
「ね、実梨ちゃん、いつから
クロワッサンを一口かじって抹茶ラテを飲んだ奏ちゃんが聞いてきた。私は、自分の葵くんへの気持ちが恋だと認めたのは試食会の日だけど9月下旬から気になっていたこと、積極的に葵くんへアプローチする華英ちゃんを見たことと紗絢ちゃんから言われたことが自分の気持ちに正直になるきっかけだったことを話した。
「えー、なんで好きなら好きって正直に認めなかったの?」
奏ちゃんに言われて、私はミルクティーを少しすすってから口を開いた。
「私は今まで人生で重要なことを全部、なんとなく、で決めてきたの。なんとなく、で決めてきた物事は結果として上手くいったものばかりだからいいんだけど、はっきりとした意思を持ったことがあまりなくて、そういうのがある人がずっと羨ましかった。それでなのか、なんとなく葵くんが気になるだけでは恋ではないような、恋だとしても気持ちが弱いような気がして。自分の感情に確信が持てなかったのね」
大人しくクロワッサンに口を動かしながら、奏ちゃんは時折うん、うんとうなずきながら聞いてくれた。「でも」としゃべりかけた口に左手を当てて、奏ちゃんはウインドウの外を見た。私も目をやると、華英ちゃんたちが歩いていた。通り過ぎるまで、再び息を止めた。しかし今度は、美空ちゃんが気付いてこっちに微笑みながら手を振ってきたので、華英ちゃんの視線もこちらを向いた。華英ちゃんは一瞬私と目が合うと、控えめにペコリ、として、また歩き始めた。「結局、会っちゃったね」と苦笑する奏ちゃんは続けた。
「でも、葵くんが華英ちゃんのものになったところを想像したら、やっぱり葵くんへの想いは恋だって確信できたのね」
「うん。だけど、スタイルもよくて葵くんと釣り合ってる華英ちゃんがどんどんアプローチしてる間も、私はずっと足踏みしてた。しかも私、そんなに可愛くもないし、出遅れてないかな…」
なんだか急に弱気になってきた。
「いやいやいや、見た目だけで人は勝負しないって!それに今なら全然遅くないし、何より葵くんの気持ちはまだ分からないんだし、頑張ろうよ実梨ちゃん!」
そう言って奏ちゃんは左手をグーにして私の方に伸ばしてきた。私も同じようにして、奏ちゃんのとごつん、と合わせた。
「よし、気合注入!」
「ありがとう、ところで奏ちゃんには今、好きな人とかいないの?」
私が尋ねると、奏ちゃんは途端に顔を赤らめて、両手で顔の鼻から下を隠した。
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