プレゼント、どうしよう?

第18話

 今日から11月ということは、まもるくんの誕生日まであと1週間を切っていた。去年は、ただ当日に「おめでとう」って声をかけただけだった。けれど、今年は違う。ちょっとでも葵くんにアピールするには打ってつけの勝負日、なのだ。でも…もちろんだけど、華英はなえちゃんも何かしかけてくるよね…?だとしたら、どうしよう。何がいいのかな。あくまでも「華英ちゃんとの勝負に勝つ」のではなく「葵くんに喜んでもらう」ためのプレゼント。実用性重視か、それとも勝負に出るなら思いっきりやってみるか。だけどやりすぎてもね…。

 今日は土曜日なので、練習は昼過ぎには終わる。それなら、と思って私は朝、かなちゃんが現れるとすぐに声をかけた。

「奏ちゃん、今日の練習の後、時間ある?」

「バイトが19時からだからそれまでなら大丈夫だけど、実梨みのりちゃん、突然どうしたの?」

キラキラした、けれど少し驚いたような眼差しで奏ちゃんが答えた。

「うん、どのみち私も18時にはバイトだから。それより、ちょっと買い物に付き合ってほしいなと思って」

「え、何、何!?」と目を輝かせて聞いてくる奏ちゃんに、私はその目的を耳打ちした。

「それなら私で良ければ喜んで。でも、何がいいのだろうね?」

「そう、だから奏ちゃん、もうひとつお願いがあって」

私は指を組んで、思わず前のめりになって潜めた声で言った。

遼弥りょうやくんヅテにリサーチしてきて!」

「うん、いいよ。実梨ちゃんの恋のためなら何でも協力するよ、私!」

奏ちゃんは同じく声を潜めて返事してくれた。そして奏ちゃんと私は見つめあってニヤリ、とした。

 それから私はスティックを握って練習に取り掛かった。みんなが揃って練習し始めてから30分くらい経った頃に、遼弥くんが練習場の外に出て行った。それを見て、私は奏ちゃんと目配せして、奏ちゃんはクラリネットを置いて立ち上がった。小走りで遼弥くんを追いかける奏ちゃんの姿は、どこか愛らしかった。しばらくして戻ってきた奏ちゃんは、私に向かって右手の親指を立ててニコッと笑ってきた。私は奏ちゃんの動作を真似て見せた。しかし、このときの奏ちゃんの表情がなんとなくポッ、となっていたように見えた。

 「じゃあ奏ちゃん、行こうか!」

「行きましょ、実梨ちゃん!」

練習が終わり、華英ちゃんが葵くんと話して笑っているのを後目に私たちは練習場を出た。街路樹が紅葉している平和通りからロープウェー街に入り、坂を自転車で駆け抜けるには何とも気分がいい季節になった。

「それで、遼弥くんはなんて言ってたの?」

大街道のスクランブル交差点で長い信号を待っている間に、私は奏ちゃんに聞いた。

「うん、葵くんって普段かけてるメガネとは別に、もう一つメガネを持ち歩いていて使い分けてるんだって。それで、メガネケースが最近ボロくなってきて買わなきゃ、って話してるのを遼弥くんが聞いたらしいよ」

奏ちゃんは満面の笑みで目を細めて教えてくれた。

 こうして私は奏ちゃんと一緒に街にあるメガネ屋を3つ巡ったあとで2つ目の店に戻り、布張りでブラックベースのタータンチェックのメガネケースを千円くらいで購入した。それから、斜め向かいに2つある百円均一ショップにも両方寄って、それぞれのお店に売られていたものを組み合わせてプレゼントをラッピングすることにした。

「奏ちゃん、ありがとう!葵くんが喜んでくれるといいな」

「きっと喜んでくれるよ、実梨ちゃんのプレゼント!」

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