第14話

 「そういえば、華英はなえちゃんはどうしてメイクしようと思い立ったの?」

ふと思いついたので、聞いてみた。すると、華英ちゃんは、メイクを教えてくださいって切り出してきたときよりも、もっともじもじしてしまった。心なしか、チークを乗せているだけじゃなくて顔全体も赤らめていた。そして、決心したように口を開いた。

「あ、あの…恋をした…好きな人が出来たから、なんです!」

わあ、可愛すぎて直視できない類の理由だ。聞いている私まで真っ赤になりそうだった。

「それで、その人に、もっと可愛いって思ってもらいたい、綺麗な自分を見せたくて…」

「え、それって、誰?吹奏楽部の中にいるの!?」

思わず私は華英ちゃんに問い詰めてしまった。

「そ、それはまだ言えません!」

「それって吹奏楽にいるって答えを宣言してるようなものだよ、華英ちゃん!」

「そういう実梨みのり先輩こそ、なんでメイクを始めて、今誰か好きな人とかいるんですか!?」

ああ、そのまま返されてしまった。

「私は、その…なんか1回生のときに、すっぴんでいるのが突然恥ずかしくなったから、で…。す、好きな人とか、別にいないから…」

「あーっ、それって本当はいそうな感じー!誰ですかーっ!」

「いないってばー」と、笑って華英ちゃんに返したけど、本当のところ、私がまもるくんに感じてきたことは恋なのだろうか?

「ところで、実梨先輩、なんかさっき顔を洗う前までのメイクより美しいですよ?その、崩れてる、とかだけじゃなくて!」

華英ちゃんに言われて、自分も鏡を見た。言われてみれば、なんとなくそんな気もする。これからは、惰性じゃなくて毎日気合入れてメイクしようかな。


 体育の日で祝日の今日、私は少し早く練習場に到着した。守衛室に鍵を取りに行って戻ってくると、練習場の前から「可愛いー!」「突然どうしたの!?」という美空みくちゃんと紗絢さあやちゃんの声が聞こえてきた。そこには、キラキラとまぶしい華英ちゃんの姿があった。

「あ、おはようございまーす!」

揃ってあいさつしてきた中で、華英ちゃんの声はひときわ輝いていた。

「実梨先輩のおかげで、さっきから美空と紗絢からベタ褒め攻撃を受けてるんですよー!」

そう言いつつも、華英ちゃんは嬉しそうだった。なんだか私も嬉しくなった。

 そこに、葵くんが見えたので、私はおはよう、と声をかけた。すると、振り返って葵くんを見た華英ちゃんの表情が突然、緊張と照れの混ざったようなものに変わった。

「あれ、華英ちゃん…いつもと違うよね?なんか、綺麗になったっていうか…」

葵くんに言われて華英ちゃんは、ありがとうございます、と言ったものの少しうつむいてしまった。

「あー、華英、もしかして!?」

美空ちゃんが茶化しを入れた。

「それより、華英だけずるーい!実梨先輩、私たちにも華英にやったこと教えてくださいよー!」

 そんな紗絢ちゃんの発言により、私は吹奏楽部の1回生女子みんなに奏ちゃんも加えて、メイク講座をもう一度開くことになった。それにしてもやっぱり、華英ちゃんが好きなのは葵くん、なのかな?そう思うと、私はなんとなく胸がざわざわした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る