第13話

この後にチークの入れ方を教えると、なんとなくだけど私には華英はなえちゃんの顔がここまでの過程だけで既に輝いているように見えた。単純にメイクがそうさせているのもあるけれど、メイクで自分が変わっていくのを見ている華英ちゃん自身がとても楽しそうなのだった。次に、教える方の私が瞼をうっかり挟んで「痛い!」と言いながらもビューラーの使い方を教え、それからアイラインを引いてアイシャドーパレットの使う手順まで来た。ここで、私はいつも一番明るい色は上瞼には塗ってない、ということを教えた。

「え、なんでですか?」

キラキラして直視できなくなりつつある華英ちゃんは、少しきょとん、としてしまった。

「本当は4色全部使ってグラデーションを作るように出来てるんだけど、少なくとも私は3色でメイクしたほうがはっきりしたグラデーションになって綺麗だと思うの」

まあ人によるのだろうけれど、と付け足した上で、華英ちゃんにもそうしてもらった。

「え、じゃあこの明るい色、もったいないですよね?」

「うん、だから」と私は語尾を若干強調した。「だから!?」と華英ちゃんも期待してこっちを見た。

「下瞼に塗っちゃいます!すると、涙袋がキラキラして、もっと可愛くなるんだよ!さあ、やってみて!」

もともと涙袋が強調された目鼻立ちの華英ちゃんが、余計にまぶしくなってしまった。私は涙袋が薄いからいつもやってるのだけど、華英ちゃんには必要なかったかな。

 そして彼女のまつ毛に合わせて選んだボリューム系マスカラの塗り方、最後に眉の整え方と書き方をレクチャーし、リップにカラーを乗せて、華英ちゃんのメイクは完成した。

「ほら、華英ちゃん、さっきの写真と鏡に映った自分を見比べてみて!」

「わっ、なんだか私が私じゃなくなったみたい!」

何度も自分のビフォー・アフターを交互に見ていた華英ちゃんが、ふっと何か思い出したような表情になった。

実梨みのり先輩、あのスペシャル用、って言って別に用意したものたちって、いつどうやって使うんですか?」

そうだった。スペシャルと言って、普段使い用のブラウン系アイシャドーパレットの色違いでピンクっぽいブラウンのと、ちょっとだけ色がはっきりしたピンクのチークを用意してもらったのだ。

「そうねえ、使い方は普段使いのを置き換える感覚で使ってもらえばいいんだけど…自分にとってここぞ、勝負!って思える時に使えばいいんじゃない?」

「えー、実梨先輩だったら例えばどんな時ですか?」

身を乗り出したキラキラオーラの華英ちゃんに聞かれて、私は困ってしまった。

「ごめん、正直に言うと、私もいまいちよく分かってなくて、演奏会とかステージに上がるときにしか使ってない…」

「えー!」という華英ちゃんに、でも、と私は続けた。

「そうじゃなくても、日常の中でも、気合を入れたい日には使ってもいいと思うよ!」

これが、なんだか自分に言い聞かせているようになってしまった。そして、私もハッ、と気が付いたのだ。

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