第11話

 吹奏楽部では、学園祭での合唱部と書道部とのトリプルコラボステージを提案したところ、両者とも二つ返事で乗ってくれた。曲目は、パフォーマンスをする書道部に決めてもらった。また、教室がある7号館のピロティでする予定のコラボステージとは別に、グラウンドの特設ステージでの演奏もすることになった。更に、演奏していないときは屋台のバザーにも参加することを決めた。そのバザーの責任者を、私はまもるくんと2人ですることになった。  

 10月も最初の週が終わろうとしている今日はバザーに参加する各団体の代表者への第1回説明会で、私は会場の教室近くにある掲示板の前で葵くんと待ち合わせていた。私が5時限目を終えてから待ち合わせ場所に到着してスマホで時刻を見ると、17時40分だった。そこに、LINEの通知が来ていた。葵くんだ。

実梨みのりちゃん、5時限目が早く終わったから俺はもう着いたよ>

え?でもあたりを見回しても葵くんの姿は見当たらない。そのLINEが送られてきた時刻は17時26分。私もさっき着いたところだけど、葵くんはどこにいるの?

<掲示板、だけど?>

私も約束した通りに掲示板のところにいるよ?と入力していると、左肩をぽんぽん、と優しく叩かれた。見上げると、ブルーブラックの太いフレームのメガネをかけた、短い天然パーマヘアで長身モデル体型な黒髪の男性が私を見つめていた。

「葵くん!」

またしても目が合ってしまった。しかし今度は2秒も経たないくらいで葵くんのほうから照れ笑いしつつ逸らしてきた。私はホッとしたようで、でもなんとなくがっかりしてしまった。

「俺たち、同じ掲示板を挟んで背中合わせになってたんだよ。俺、3号館側でずっと待ってたんだけど」

そう言って、葵くんは少し口元をくしゃくしゃにして笑った。そうか、私たちは掲示板前でとだけ約束してたけれど、この掲示板が両面あることはさっぱり考えていなくて、私は広場に面したほうだとなんとなくで勝手に思い込んでいた。だからこうなったわけだ。

 教室に入ると、私は葵くんの左側に詰めて座った。それにしても、この間の自主練習で見つめあってしまって以来、なんとなく葵くんを意識した目で見てしまう。さっきの私は掲示板を背にして立っていたわけで、うっかりすれば流行りの壁ドン、でもされそうな状況だった。私たちはそんな関係じゃないけど、もし本当にそうだったら、その時のドキドキはこんなもんじゃないんだろうな。いや、葵くんのキャラ的にそれはありえないわ。ああ、私の高鳴る胸の音が葵くんに聞こえてしまいそう。

「…ちゃん、実梨ちゃんってば、聞こえてる?」

へっ、となった。学生たちが教室を後にし始めていた。説明会はいつの間にか終わっていた。内容は私の耳を右から左へ抜けていくどころか、そもそも入口で完全にシャットアウトされていたようだ。

「俺がちゃんと聞いといたから。もう、実梨ちゃんもしっかりしろよな」

「う、うん、ごめんね葵くん、ありがとう」

 それから私たちは、遅れて練習に行った。そして、揃って練習場に入ったときに、こっちを見た華英はなえちゃんがなんとなく照れていたように見えるのは…なんとなくだし、気のせいだということにしておいた。

 練習が終わってから、葵くんと私はみんなに残ってもらうよう声をかけた。さっきの説明会で言われたことでみんなにも知っておいてほしいことを報告するのと、具体的にメニューを決めるためだ。絶対タコ焼き、というしょうくんとホットケーキのほうが他と被らない、と主張するなぎさちゃんは両者ともに一歩も譲らなかった。ほかのみんなが宥める中でそれを葵くんがまとめ、結局タコ焼きを作りつつタコ焼き器でホットケーキも作って売る、という案に決めた。しかし、ここで私はなんとなくモヤモヤした。みんなで輪になるように座っていて、葵くんの右隣には私が、そして左隣にはさりげなく華英ちゃんが座った。華英ちゃんは、やたら葵くんとの距離を縮めるかのように、葵くんの話に身を乗り出してうなずいたり、積極的に発言したりしていた。私には華英ちゃんが葵くんに対して何かアピールしてるのかもというように、なんとなくだけど見えてしまった。私、華英ちゃんをライバル視してるのかな。もしかして、なんとなくだけど、これって、恋の予感!?…かも。いや、たった二度、視線が合ってしまっただけでこうなるには早いって、私。そう自分で自分を落ち着かせた。

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