第9話

 みんなが口をあんぐり開いて、きょとんとしてしまった。

実梨みのり、マジで言ってんの?定期演奏会がなければ、俺たちの存在意義ゼロだぞ?」

遼弥りょうやくんの突っ込みを、私は跳ね返した。

「へえ、遼弥くんは定期演奏会を開くことにしか存在意義見いだせないんだ。狭いなあ」

なにぃ、と頭が沸騰しそうらしい遼弥くんを、まもるくんが宥めた。私は、努めて淡々と語った。

「私たちは吹奏楽部だよね。でも吹奏楽を演奏していれば、演奏する場が定期演奏会である必要もないって私は考えてる」

遼弥くんが、ある瞬間にハッとなったのを見た。少しホッとして、私は続けた。

「遼弥くんが俺たちの存在意義ゼロになるって言ったけど、たぶん私たちも含めて、多くの団体が、自己満足…自分たちの演奏を見て、聴いてもらいたいって押しつけがましいような演奏会を開いていると思うの。プロでも多少はあるような気がするけど。でも、よくよく考えるほどに、通常の吹奏楽編成もままならない私たちが自己満足の演奏会のためだけに、迷惑をかけて賛助を呼ぶのもどうかって思ったのよね。そして、自己満足のために定期演奏会にこだわることそのものにも疑問を感じたの」

「じゃあ…どうするんだ?俺たちは部活動、クラブってことになってるから、公の場での活動をしていないと大学の学生自治会に認められないぜ?」

遼弥くんが首を傾げ始めた。みんなも真剣に聞いてくれている。

「定期演奏会を開かないかわりに、例年よりも学園祭で演奏する機会を増やす、学園祭に定期演奏会並みのエネルギーを全力で費やせばいいと私は思う。だって、学園祭のほうが定期演奏会に比べていろんな人たち…普段吹奏楽を聴く機会がない人たちにも聴いてもらえるよね。それに、そこで何かユニークなことをすれば、吹奏楽部に入りたいって思ってくれる人もいるかもしれない。何より、学園祭だからこそできることも多いでしょう?だから、今年は秋の定期演奏会を開かないで、学園祭に重きを置けばどうかというのが、私の提案です」

私がしゃべり終えると、一瞬静まり返って、時計の秒針の音が部屋に響いた。すると、美空みくちゃんが、ああっ、と閃いたように話し始めた。

「今、実梨先輩が言ってた学園祭でいっぱい演奏するのって、吹奏楽部を宣伝して入りたいって思ってもらうって意味でもいいんじゃないかって話ですよね。だったら、私は大賛成です!定期演奏会ならよほど私たちに興味を持ってくださってる方じゃないとわざわざ足を運ばないけど、学園祭ならもっと気軽に聴いて、吹奏楽を私たちとやりたいって思ってもらうきっかけにいいじゃないですか!ところで実梨先輩、何かユニークなことって具体的にどんなことですか?」

美空ちゃんに聞かれて、私は言葉を詰まらせた。

「ごめん、そこまではまだ考えてなくて…」

「あの…それなら俺の提案があります」

思わぬしょうくんからの助け舟に、私はやった、と思った。

「俺、考えてたんです。確か、学園祭って他のクラブやサークルとコラボするのもアリですよね。そもそも、俺たちだけで小編成の演奏をするのにお客さんの関心を惹くってことで、定期演奏会でコラボステージを開いたらどうかって。どんなサークルとコラボするかはみんなで考えることだけど、例えば合唱部とか、それこそ「オリーブの首飾り」を俺たちが演奏してる中で奇術研究会にマジックでもしてもらうとか、俺は思いつきました。だから、他のサークルとコラボするなら定期演奏会よりも学園祭のほうがやりやすいし、実梨先輩の提案に俺のをかけ合わせたらいいと思います」

「それだったら、私たちの演奏に合わせて書道部が書道パフォーマンスとか、ダンス系サークルに踊ってもらうのもいいですよね!」

麻乃あさのちゃんが楽しそうに提案してくれた。まさか、私の発言にみんながここまで食いついてくれるとは思ってもみなかった。

 「ふう、実梨、さっきはごめんな。危うく吹奏楽部がまた仲間割れする危機になるところだったぜ」

「おいおい遼弥、縁起でもないことを言うなよ」

「はは、葵、そうだな。じゃあ、みんなも、定期演奏会を開かないかわりに学園祭でたくさん演奏するって方向でいいでしょうか?」

 このあと、私たちは実際に学園祭で何をするのか、どこのクラブやサークルとコラボするのかを具体的に話し合った。そして、歌と書道パフォーマンスと私たち吹奏楽部のトリプルコラボをしよう、そのために合唱部と書道部に打診してみよう、ということでまとまった。

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