アンクラだけは勘弁して

第8話

 「それでは始めます。今日は、昨日みんなから聞いた意見を元に、定期演奏会に賛助を呼ぶか呼ばないかと、何を演奏するか決めようと思う。まず賛助についてだけど、昨日、呼ぶって言った人は呼ぶ場合、呼ばないって言った人は呼ばない場合どうするかを各自考えて、後で発表してほしい。もちろん俺も意見出すから。あ、今日は俺からは指名せず、各自思いついた人から発言していってそのことについて議論するスタイルを取るから。そのかわり、一人一回は発言してほしいな」

と、遼弥りょうやくんに言われたのはいいけれど、実際にどうするのか考えて提案するって難しい。だけど、昨日私が、自分たちの演奏会であることを大事にするなら賛助は呼ばないほうがいいって発言したわけだし、きちんと責任を取るのは当然のことだ。それなら…ん?これを発言してしまうと、議論が崩壊する可能性もある。しかし、言わなかったことで後からごたごたが起こるよりずっといい。

 私は控えめなつもりで挙手をした。あれだけ私を当てないで、と祈ってばかりだった昨日とは別人のようだとは、自分でも思った。すると、私とほぼ同時だけど、びしっと一直線に挙手したなぎさちゃんがいた。私は渚ちゃんに押し負けたようだ。

「えっと、昨日私は、賛助を呼んで最低限吹奏楽が成り立つくらいの人数で演奏したい、って言いました。それで実際賛助をどこにお願いするかとか考えて、その過程でいろいろ調べたんです。すると、私たちの定期演奏会の1週間後に、県民文化祭の吹奏楽公演があって、そこでは松山近郊の一般吹奏楽団がみんな演奏に参加するみたいなんです。だとすれば、私たちの演奏会当日も、どの団体も最後の追い込み練習してるころで、とても賛助をお願いできる状況ではないな、と思いました」

「おお、渚ちゃん、よく調べました。実はそうなんだ。実際問題、賛助をお願いするのが難しいってことなんです。で、渚ちゃんはどう思った?」

遼弥くんに促されて、渚ちゃんは続けた。

「はい、そうなると、みんなは嫌かもしれないけど、アンサンブルクラブにお願いするしかないのかな、と」

「あー…死んでも呼びたくないね、アンクラは」

遼弥くんが渋い表情を見せた。

「あの、なんでアンサンブルクラブに賛助をお願いするのが嫌なんですか?」

さっき入部届を提出したばかりの華英はなえちゃんが、みんなを見回しながら尋ねた。

「そうか、入部したばかりだと知らないよね」

苦笑しながら、遼弥くんは言い始めた。

「この大学のアンサンブルクラブ…アンクラって、たくさん吹奏楽経験者が所属してて、今の俺たちの5倍くらいは部員いるんだよね。でもアンクラはあくまで10人以下までのアンサンブルを様々な編成で演奏するのが目的で、あくまで吹奏楽はしない。そこまでは知ってると思う」

時折うなずく華英ちゃんと紗絢さあやちゃんの目を交互に見ながら、遼弥くんは話す。

「そんなアンクラ、実は15年くらい前に吹奏楽部で大きな仲間割れが起こったときに、吹奏楽部を退部した部員たちが立ち上げた組織なんだ」

ええーっ、知らなかったです、と言って華英ちゃんと紗絢ちゃんが互いに顔を見合わせた。遼弥くんは続けた。

「そりゃ驚くのも無理はないさ。それ以来、吹奏楽部とアンクラは度々対立して、犬猿の仲って感じなんだ。これが、みんながアンクラとは関わりたくないって言ってる理由です」

「アンクラに賛助要請するくらいなら、自分たちだけで超小編成の演奏会したほうが何倍もマシだって気になるよね」

まもるくんが苦笑しながら言った。

「でも、私は賛助呼ばなくてもいいって昨日言ったけど、私たちだけで演奏会してもお客さん集まるかな…」

かなちゃんが弱々しく呟いた。

「あの、奏ちゃんの今の発言につながるんだけど」

今だ、と思って私が口を開いた。遼弥くんに、どうぞ、と促されて私は話した。

「私は、無理にこだわって定期演奏会を開く必要はないと思います」

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