第7話

 「みんな、見学の子が来ました。では、自己紹介をどうぞ」

身長が遼弥りょうやくんと変わらないくらいあるモデル体型の女性は、遼弥くんの後に続いて口を開いた。

「初めまして。サカシタハナエです。英文科の1回生で、楽器はずっとアルトサックスでした。よろしくお願いします」

「ところでちゃん、今俺たちは部員が9人しかいなくなってしまって、これからどうするか話し合いしていたところなんだ。よかったら、はなえちゃんの意見も聞かせてよ。でも何言ったらいいか分からないだろうから、実梨みのり、お手本よろしく!」

とうとう来たか。この際、正直に話そうではないか。

 「はなえちゃん、初めまして。社会学科2回生でパーカッションの末広すえひろ実梨です。今、今後の活動方針と秋の定期演奏会に賛助…お手伝いさんを呼ぶかどうかについて議論してて、1人ずつ意見を言っていたところです。みんながいろんな自分の思いを話してくれたけど、実は私、なぜ自分がこの吹奏楽部にいるのかというはっきりとした理由がありません。すべては、なんとなく、でここに入ったからです。だけど、今はみんなと一緒の時間を過ごしたい、辞めたくない、私たちの活動の場がなくなってほしくない。なんとなくだけど、そんな風に思ってます。賛助は、ここがあくまで私たちの吹奏楽部だってことを考えると、私たちの演奏会であることを大事にするには呼ばないほうがいいと思います。以上です」

ああ、みんなにしらけられるかな。

「はい、実梨は賛助を呼ばないほうがいいって意見だね。じゃあラストのまもる!」

みんなのときと同じような遼弥くんの反応で良かった。私は胸をなでおろした。

 「はなえちゃん、初めまして。法学科2回生、チューバ改めコントラバスの宇高うだか葵です。あおい、って書いてまもる、と読むから漢字だけ見たら女性とよく間違えられます。それはおいといて。この際言っちゃいます。俺は、秋の定期演奏会が終わったら勉強に専念するためにこの吹奏楽部を辞めるつもりでした。ところが俺より先に7人も辞めちゃったから、辞めないことにしました。なんか、こんな状況だからみんなと力を合わせなきゃ、とか思って。賛助については、呼ばないほうが俺たちの結束力がアップすると思うのでいらない気がします」

「うん。はなえちゃん、今の2人は賛助を呼ばないって意見だったんだけど、賛助を呼んだほうがいいって意見もあったんだ。じゃあ、はなえちゃん、賛助のことはいきなりだと難しいだろうから、とりあえず吹奏楽で何がしたいとか、こんな部活がいいとかあったら聞かせてくれる?」

遼弥くんに尋ねられて、はなえちゃんは口を開いた。

 「えっと、いきなり来た私が言っちゃっていいのか分からないんですが、いい機会なのでせっかくだから言わせてもらうことにします。私、香川県では結構な吹奏楽の実力がある高校の出身なんです。でも、それだけに部員はとても多くて、オーディションがよくあるとか人間関係のいざこざがしょっちゅうだったとかで、大所帯の吹奏楽部に疲れてました。その点、ここはむしろ少なすぎるかもだけど小編成で、風通しも良さそうだからぜひ一緒にやらせいていただきたいと思ってます。よろしくお願いします」

うんうん、とうなずきながら聞いていた遼弥くんが再び立ち上がった。

「はい、みんなの思いや考えは分かりました。みんな、ありがとう。今日はここまでにして、明日、賛助を呼ぶか呼ばないか、それぞれの場合について考えようか」

 帰り際に、私たちはLINEに、坂下華英、を追加した。

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